表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/459

105話 秘密の同盟

「……と、いうわけですわ!」


 夜。

 学院の寮のアレクシアの部屋に、ジニーが招かれた。


 夏季休暇も終わりに近い中、どんな話があるのだろうか?

 ジニーは緊張しつつ、アレクシアの部屋を尋ねたのだけど……


「今日、アルトさまはエルトセルクさんと一緒にデートを……! 二人とも、とても楽しそうな様子で……今日一日で、かなり接近してしまったと思われますわ」

「むむむ」


 そんな話を聞かされることになり、ジニーは悩ましげな声をこぼした。


 アルトに対して甘い想いを抱いていることは認めたことであり、そういう点では、アレクシアは仲間だ。

 同士だ。


 夏季休暇を終えた後……

 こうして、二人はちょくちょくと顔を合わせて、対アルト、対ユスティーナについて語り合っていた。


 恋の戦いは、今のところ、ユスティーナが一歩抜き出ている。

 それが二人の正直な感想だ。


 このままでは、さらに引き離されるかもしれないし、気がついたらゴールされていた、なんてこともありえる。

 それだけは阻止しなければいけない。

 アレクシアとジニーもまたライバル同士ではあるが、利害の一致により、協力関係を結ぶことになったのだ。


「まずいわね。こんな時に、二人でデートなんて……くっ、やっぱり、この前の勉強会の時、あたしも行くとか言って邪魔しておけば……!」

「でも、さすがにそれは申し訳なくありませんか? エルトセルクさんのあのキラキラ笑顔を見ていると、どうにもこうにも、邪魔したくないという気持ちに……」

「そうなのよねー……あれ、反則よね」


 恋のライバルではあるものの、二人はユスティーナのことが好きだ。

 とても大事な友達だと思っている。


 故に、ライバルでありながら恋を応援してしまうという、矛盾した状態に陥ってしまっているのだった。


「でも……アルトさまのことに関しては、最終的にエルトセルクさんと対立したとしても、譲ることはできませんわ」


 アレクシアは強い意思を言葉に秘めて、言う。

 そうすることで、改めて覚悟を示しているみたいだった。


「ジニーさんは、どうですか?」

「あたしは……うん、あたしもそうかも」


 アレクシアは、本音を知っている数少ない同性の友達だ。

 というか、アレクシア以外で知られているのはユスティーナしかいない。


 そんな彼女にならば、素直になることができる。

 ジニーはコクリと頷いで、己の胸の内の想いを言葉にする。


「あたしも、負けたくないかな。アルト君が初恋で……初恋は実らないとか言うけど、でも、絶対に実らせてやるとか思っているし……あー、つまり……まとまりがないことを言ってるけど、おとなしく見送るなんてことはできないわ」

「ふふっ、それでこそですわ」


 ライバルが一人増えたというのに、アレクシアはうれしそうだった。

 ジニーはライバルでもあるが、それ以前に友達なのだ。

 だから、やる気を出してくれたことは素直にうれしい。


「アルト君に対するアピールは……まあ、これからやっていけばいいと思うんだよね。ちょっと出遅れた感はあるけど、まだ逆転は可能だと思うの」

「そうですね……アルトさまは、エルトセルクさんのことを好いてはいますが、それはまだ恋愛感情ではない様子。友人として、ですわね」

「そういうこと。だから、ここであたしらが女の子らしさをアピールすれば……」

「逆転ですわね!」

「ただ……」


 ジニーが顔を曇らせる。


「それだけじゃダメだと思うのよね」

「と、いうと?」

「自分で言うと凹んでくるんだけど……あたしがアルト君にふさわしいかって言うと、そうじゃないと思うのよね。釣り合っていないわ」

「どうして、そう思うのですか?」

「色々なところで劣っているもの」


 竜との仲に亀裂を入れようとするカルト集団を見つけ、ドラゴンゾンビを討伐。

 操られていたノルンとテオドールを助ける。

 コルシアで暗躍していた領主とその手下を突き止め、捕縛。


 それらの功績を讃えられて、アルトは複数の叙勲を授かり……

 15歳とは思えない活躍っぷりだ。


 ジニーも勲章を授かっている。

 負けず劣らずに活躍をしているが……

 ただ、その実力が同じかと問われると、言葉に詰まってしまう。


 明確な実力差を感じたのは、ゼノと戦った時だ。

 アルトはユスティーナと一緒に最後まで食らいついていたが、ジニーは早々に脱落してしまった。

 その時のことを今も悔しく思い、そして、心の影となっている。


 そのことを話すと、アレクシアが賛同する。


「私も、同じようなことを考えていました」

「アレクシアも?」

「はい。アルトさまに対する想いは、エルトセルクさんに負けているつもりはありません。しかし、その隣に立つ努力を十分にしているかどうか、そこは……正直、怪しいですわ」

「そこなんだよね……」


 アルトはこれからも前を向いて歩き、どんどん強くなっていくだろう。

 近くにいると、そのことがよくわかる。


 アルトは見習い竜騎士で収まるような立場ではない。

 これから先、正規の竜騎士に昇格するだろうし……

 その後も、色々な活躍をするだろう。

 それこそ、おとぎ話に出てくるような英雄になるかもしれない。


 そんなアルトの隣に立つには、それなりの努力が必要だ。

 なにもしない者が対等に扱われることはない。


 アルトは立場などは気にしないだろうが……

 こちらが気にするのだ。

 好きな人と一緒にいたく、対等でありたいと願う。

 それは、恋する女の子なら当たり前の考えだ。

 ずっと一緒にいたいと思うからこそ、同じ立場でありたいのだ。


「あたしたち、ぜんぜん力が足りてないわよね……」

「そうですわね……」


 現実を直視して、二人は暗い顔になる。


 しかし、それも少しの間だけ。

 すぐに瞳を燃やして、やる気とガッツを表情に乗せる。


「でも、足りていないのなら身につければいいだけ!」

「特訓、ですわね!」


 ジニーとアレクシアは互いの目を見て、がしっと力強く握手を交わした。


 二人の思惑は、これ以上ないほど綺麗に一致。

 ならば、やるべきことも一緒に行う。


「夏季休暇、残りどれくらいだっけ?」

「あと数日、というところですわね」

「その数日で、できるだけレベルアップしておきたいわよね」


 学院が再開されれば、色々な授業が始まる。

 二学期からは、一学期に行われなかった授業も行われる。


 つまり……

 それらの授業を受けたアルトがさらに強くなり、今まで以上に差が開いてしまう可能性があった。

 なので、今この時点で、できるだけ差は埋めておきたい。


「強くなるための方法、強くなるための方法……」

「さすがに、そんな簡単に思い浮かびませんわね……」

「いっそ、山ごもりでもする?」

「それですわ!」

「えっ」


 ジニーは冗談で言うのだけど、アレクシアは真に受けたみたいだ。

 ナイスアイディアと言うように、目をキラキラとさせている。


「本気……?」

「本気ですわ。聞けば、アルトさまは、エルトセルクさんに竜の枷なるものを授けられているとのこと」

「あ、それ、いつだったかあたしも聞いたことあるわ。確か、重力が倍になったりするのよね?」

「実は、山にある遺跡に、そのような効果を得られる遺跡があるのです。特殊な機構になっていて、遺跡内部の重力が増しているとか」

「なるほど……そこで特訓をすれば、アルト君ほどとまではいかなくても、あたしたちもそれなりにレベルアップできるはず」

「そういうことですわ」

「でも、山って竜の管轄よね? 勝手に入って問題ないの?」

「そこは、私の家の力で」

「さすが五大貴族……」


 ついつい呆れてしまうが、しかし、頼もしくもあった。

 アレクシアのおかげで、身になる特訓ができる。

 アルトとの間に開いている大きな差を、少しでも埋めることができるかもしれない。

 そう考えた二人は、とんでもないやる気を出した。


「がんばりましょう、アレクシア!」

「ええ、ジニーさん!」


 こうして、恋する乙女は同盟を結ぶのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ