弓の才能
「凄いじゃないかレミーリア! 申し子が現れるのは数年に1度のことなんだよ!」
父上が尻尾の毛を逆立ててはしゃいでいる。狼人じゃなくて良かった、狼人ならきっと尻尾を振り回した風圧で辺りが埃だらけになっていたことだろう。
それにしても申し子……? 二つの才能が両方同じ物を指す場合のことっぽいけど。私の才能は鎌と炎と風のはずなんだけど? 人物鑑定じゃ才能が分からないからなぁ、私の記憶が間違っているのか、この石碑が間違っているのか、どっちだ? 記憶が間違っているとは思いたくないのだけれど。
「申し子というのは、それほど珍しいのですか?」
父上が一人で勝手に喜んでいるので、私はまだ冷静そうな石碑の係員さんに聞いてみた。因みに係員さんは森人の女性であり、とても綺麗ですちくしょう。いや、猫人選んだのは私だけどさぁ。猫人は可愛い路線は行けても、綺麗、美人路線は厳しそうなのよね。
「伝え聞く話では、この石碑は建国の狐人術士様がお亡くなりになる際に神から授かったものだとかで、多くの子に使わせよと言葉を残しているらしいです。私は20年ほどこの石碑の係りを給っていますが、その間に申し子とされたのはお嬢様が四人目です。」
詳しく聞くと斧の申し子が十七年前、拳の申し子が九年前、鎚の申し子が二年前にいたとのこと。二年前ってことは、その子も十才で受けたのなら今は十二才。学園に行くのは十一才になる年から四年間なので、来年もしかしたら会えるかもしれない。
ついでに聞いた話だと、建国の狼人騎士が使ったら得意な剣でも盾でもない結果が出たことから、子供しか正確に鑑定出来ないとされているらしい。だから多少の分別がつく10才なのか。
そんなことを考えつつ、私は心のなかで人物鑑定を発動する。
当然基礎レベルも職業レベルも技能レベルも上げていないので、ずっと変化していない私のステータスが表示されるのだが、一つだけ気になる所があった。
ギフト 人物鑑定1 他言語(未定) 弓の微才 弓の微才
……なるほど。弓の微才の効果は技能レベルの上限+25。二つで+50、才能が無くても25までは上がるから、これで上限75か。つまりこの石碑の効果は才能の鑑定なんて安っぽい物ではなく、誰にでも二つの微才ギフトを与えるとんでもない代物だ。なまじっか授かるギフトのお陰で他の技能より成長してしまうだけに、それが全ての才能と思い込み、本来の才能に気がつかないのか。
あれ? という事は人物鑑定のギフトって結構レアな物なのかな? 自分のギフトがわかれば直ぐに気づくはずだけど。
「あの、才能というのはこれが全てなのでしょうか?」
「なんだレミーリア、弓の申し子だった事は嬉しくないのか?」
はい、どうせなら剣が良かったです。只でさえ術士と風で生命のマイナス補正が大きいのに、弓まで上げたら一撃食らっただけで死ぬ! これ才能が有る技能すべて上げたら、生命マイナス70%近くない? 無理だって、やり直しを希望する!
「はい、出来れば剣か、父上と同じ土の魔法が良かったのですが……」
「大丈夫ですよお嬢様。後から別の才能に目覚め、素晴らしい活躍をしているかたもいらっしゃいます」
うん、それ多分本当の才能の方だと思うの。
なんか変だよね、確かに平均的な能力は上がるだろうけど、これでは技能を最大値まで上げる人の数は減ってしまう。国としては平均値が上がった方が良いのは間違いないだろうけど、50という強さの人が100人よりも、125という強さの人が一人欲しい場面は多々有るはず。しれっと建国するような人たちが、それに気付かない訳はないと思うのだけれど。
私の考えすぎかなぁ……? 人物鑑定が有るから気づくだけで、実は物凄くレアなギフトで、未だに誰もこの石碑の本当の働きに気付いていない? 物品鑑定のギフトでも気付きそうだけどなぁ。
あ、でもそうか。今ここで私が本当のことを言っても、証明も何も出来ず信じられないだろう。ただ国の宝と今までの方針にケチを付けるだけだ。そう考えると気づいても言わないのが花か、仲の良い信頼できる人にだけ教えるか。
まー、保留にするしか無いよね。それよりも大きな問題が今目の前に有るのだし。
「よし、それでは街の武器屋へ行って、早速初心者用の弓矢を買い求めよう!」
あの山人の店がいいか、いや森人の店の方が基本を押さえていると聞くが。いっそ両方行くとするか。なんて事をニヤニヤしながら呟く父上。まって、弓のスキルレベル上げちゃうと私の生命がピンチですよ!? 最終的に魔力3000の生命300とかっていう器用貧乏どころか欠損キャラになっちゃう!?
「あの、あの、父上。私は先に炎の魔法なんかを習いたいのですが……?」
「何をいうか、せっかく弓の申し子である事が判明したのだ。入学までに最低限は習得してもらう! 女王の耳にも入るだろうし、御前試合で下手な弓は見せられないぞ?」
聞けば昨年の入学前に、鎚の申し子が騎士団の人と御前試合を行ったらしい。当然勝ったのは騎士団だけど、それでもさすが鎚の申し子とお言葉を賜る程度には使えたようだ。
よ、余計な事を……!
強制的に御前試合が組まれるなら、全く弓を練習していません、だと父上の顔に泥を塗ることになっちゃう! もう、鎌とか炎、風なら喜んで練習するのに!
「買い物よりも先にレイナに教えるのが先か? 家に有る弓も一度整理せねばな、まだサイズが合わないが、将来使えるものがあるかもしれぬ。おお、防具も用意しないとな。いっそ南の森への教練に連れていくか?」
人の気持ちも知らないで、父上はニヤニヤ物騒なことを呟いている。係員の女性はそんな父上をみて微笑んでいる。
あー、もう! 才能が有るように見えるレベルって、どのくらいなんだろう。10くらいまで伸ばして御前試合だけ乗り切るとか出来ないかなぁ……?
でも弓の申し子なんて事が知れ渡ったら、弓を使わないという選択肢は周囲から潰される予感がヒシヒシと……!
猫人って本来弓とか得意な種族だからなぁ。職業才能を野人にしておけばどれだけ良かったか!
あぁ、もうこれダメだ。私を守ってくれるパーティーメンバーを探そう。狼人で騎士、盾、盾、剣に振った子がその辺りに落ちてないかなぁ、切実に。
ソロ? ソロって何?
「よし、レミーリア。先にレイナへ報告しに帰ろう!」
あぁ、私結構早く死ぬかもしれないなぁ。
私は父上と共に馬車へと戻った後、こっそり手帳へこう綴った。
『ガチャ要素はいらない』