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出生はランダム

「レミーリア様、当主様がお呼びです」

「今行くわ」


 燦々と日が照り付ける、豪奢な廊下を外に向かってしずしずと歩きながら、ふと思いを馳せる。

 この国の名前は白の国。

 北から東にかけて標高の高い山脈が連なり、その山頂は隣国との国境になる。山頂付近に建てられた幾つもの砦には国の騎士団が常駐し、それぞれの砦からは有事の際に互いの砦や麓の街へ駆け抜けるための傾斜を無視した道が繋がる。街から見たときは山の斜面に巨大な扇が広がっているように見えることから、扇山脈という通称を持つ。

 西には群島だらけの海原が広がり、凸凹の海底と複雑な海流のお陰か海の幸が豊富に溢れ国の糧となっている。人々の大々的な海への進出も阻んでいるのだが。群島の中には人の管理する島と魔物が跋扈する島が入り交じり、こちらは海に商機を見いだした商人達が国の支援のもと、世界中から実力者をかき集め島の攻略にしのぎを削る。実際に珊瑚や真珠が採っても採っても無くならない島や、一匹獲るだけで3ヶ月は遊んで暮らせる高級魚の住まう島など様々だ。無論、世界一と吟われた剣使いが剣を置くような怪我をしてまで平定した島が、一銭の得にもならない場合もある。

 南は人の身には到底討伐出来ぬと云われる魔物が住まう樹海が広がっており、こちらは魔物を刺激しないよう国としては砦を置くに留めていた。とは言っても騎士団が常駐しているわ、良質な木材が採れるわ、美味しい獲物が繁殖しているわで、森自体も手前だけならそこまでの危険も無いことから、自然と人が集まり街が出来上がった。そうすると時折現れる魔物に対抗するべく城壁が建設され、今では城壁都市の様相を呈している。

 この白の国。四方を自然に囲まれた中でポッカリと空いた平原なのだが、昔は魔物の蔓延る地だったらしい。そのため、この平原を手に入れようと、500年前に東の大国が調査のために狼人騎士と森人導士、狐人術士の三人を代表とした調査団を派遣したことに起源を持つ。

 その三人、狐人術士の犠牲を出すものの、調査のはずが何故か平原を平定してしまう。平原には水も食料も豊富なのをいいことに、東の大国には難航していると嘘をつきながら、人を集めてとうとう立国を宣言。

 丁度東の大国が災害と内乱に追われているタイミングで手が出せず、落ち着いた頃には国民の間で白の国が認知されていたらしい。どうせ元々ただのアクセス出来ない空き地という認識だったのだし、意外にも王となったのは狼人騎士ではなく、犠牲となった狐人術士の妻という点も美談となっているようだ。

 白の国ではこの歴史を神の祝福と捕らえているが、一説では内乱の派閥争いに破れた面子の体のいい厄介払いだったのではないかという説も存在する。個人的にはこれが正解じゃないかと思う、いきなり国家運営なんて出来ないだろう。案外最初の女王も元官僚とかじゃないかな?

 こんな地理や歴史、通説を知っているのは『RPGらいく!』の本に書いてあったからではない。ましてや一般常識というほど知識層が広い訳でもない。勉強したからだ。いや、勉強させられたからだ。

 この世界が『RPGらいく!』だと理解したのは三才の時。まさか転生物の主人公に自分がなろうとは、しかも幼児スタートとは。あの本を書いたのは本当に神様説が濃厚だ。島スタートではなくて良かった。

 自分が転生したことを思い出した時、まず始めに行ったのは『人物鑑定1』で自分を鑑定することだった。

 その結果は


レミーリア

基礎レベル 1

ギフト 人物鑑定1 他言語(未定)

生 10.45

筋 08.55

体 10.45

敏 13.30

器 12.35

魔 11.55

知 09.45

精 09.45

感 12.60

緻 09.45


 設定した通りのパラメーターなので、恐らく死んだらアンケートに答えて元の場所というのも本当だろう。

 それにしてもせっかく武器の技能才能取ったのに、筋力が一番低いパラメーターなんて……知力も低いし……貴族の生まれとか一番要らなかったよ! 一応魔力が高いのが唯一の救いか。しかし器用貧乏ルートが見える。

 後天ギフトは他言語(未定) 多言語じゃなく他言語。括弧の中には言語名が入るようだ。自分で好きなタイミングで好きな言語を一つだけ習得できるギフトということ。まぁ、外れではないと思うけれど、戦闘系のギフトが良かったなぁ。有るのか知らないけど、才能を増やすギフトとか。他言語でも現実だと物凄いチートだけどね。

 それにしても貴族か。私の家系は狐人術士の直属の部下だった『稲鳴』家の家系らしい。なので私の名前は『稲鳴レミーリア』 ……家名が日本風とか、それ名前を決める前に教えてくれるべきじゃない? やっぱりクソゲーだこれ、手帳に書いておこう。

 手帳といえば前世? の手帳がいつの間にか手元にあった。そりゃこれがないと死んだあと文句言えないもんね。手帳の後ろにはパラメーター計算表も付いていたが、それだけはナイスと言っておこう。

 貴族以外の出生だったら、今頃農作業してるか店先に立ってるかも。そう考えると恵まれている? うーん、そう考えれば有りといえば有りか……。


「父上、準備は終わりましたか?」


 考え事をしながら歩いていると、案外すぐに父上の待つ玄関ホールへと到着した。この稲鳴家、初代女王の夫の直臣だっただけあり爵位が高い。爵位は稲、麦、粟、豆、稗の麦だ。東の大国と差別化するためにこんな名称にしたらしいが、分かりにくいのでみんな公、侯、伯、子、男爵と呼んでいる。麦爵なんて国の書面でしか見たことがない。

 何が言いたいかというと、爵位が高いとお出掛けするだけでも手間がかかるということだ。


「予てから伝えていたが、これよりレミーリアの才能鑑定に王宮へ行く。ついてきなさい。」


 父上はそう言うと、外の馬車へと歩いていく。私が貴方を待っていたんだ、という抗議を込めた発言は華麗にスルーされた。貴族の当主は人を待たせるのが仕事みたいなところがあるからね、仕方ないね。

 父上を追いかけて馬車に乗り込んだ私は、近頃何度か伝えられた話を思い出す。

 王宮には才能鑑定の出来る石碑があるらしい。10才になった貴族の子供は、これで才能を確認してから学園に行くのが慣例なんだとか。貴族じゃなくても王宮に近い立場の人なら使えるらしいけど、普通の農民や浪人には縁の無いものじゃないかな? 貴族じゃなければ出入りの商人くらいか、使えそうなの。

 まぁでも、国を導く立場の人が自分の才能を確認出来るというのは存外有効だろう。私はセルフで鑑定出来るので不要だけど。


「父上の才能はどのような物なのでしたか?」


 父上は狐人の導士で、騎士団の中でも教練という部署の御偉方らしい。レベルは知らないが、何でも相当に強いという噂だ。土魔法がメインとは聞いたことがある。


「レミーリアには詳しく話したことは無かったか。私は土の魔法と大剣の才に恵まれてな。残念ながら同世代の貴族にも斧や槍の才能を持った奴が多かったから、大剣に熱心に取り組むことは無かったが。」


 いくら才があっても、狐人に大剣は厳しかろう。そういって笑う父上は、言葉とは裏腹に楽しそうだ。そもそも前衛に興味が無いのだろう。

 しかし、気になるのは判明する才は二つだけなのかな? という事と、職業才能は判明しないのか? という事。


「どうして導士の道を選んだのですか?」


 そう聞いてみると、父上は思案顔になり少しの間押し黙る。言葉を探しているような印象だ。


「土の魔法に才が有ると知り得た時点で、術士か導士になる物だとは思っていた。私は狐人であることだしな。そして導士を選んだ理由だが……」


 一旦言葉を切り、とても言いにくそうにチラチラと私の顔を見る父上。なにこれ可愛い。もふりたい。


「あいつが……学園の時にレイナが騎士隊にいてな。あいつの怪我を治してやりたい、他の男の治療を受けてほしくない……そう思ってしまい、自然と、な」


 レイナとは私の母の名前である。猫人の騎士で、もう引退したが騎士団に所属していた。そして父上可愛い。

 父上は顔を伏してしまったが、尻尾が丸まっていて照れているのがわかる。もふりたい、撫でまわしたい。今なら許されるんじゃないだろうか? いや、許される。許す。


「と、兎に角だ。武器の才でも魔法の才でも、幸い渡せるものはある。お前は好きな方へ進みなさい」


 あと五秒で飛び付こうかというタイミングで、父上は顔を上げてそう取り繕った。っち。

 どうやら職業才能は判明しない様子だ、まぁ私は術士になるのだが。

 そんな取り留めの無い話をしているうちに、馬車は王宮へと吸い込まれていき。磨き上げられた豪勢な門も手入れの行き届いた可憐な庭もろくに見ぬまま、私は石碑の前に立っていた。

 いままで幾人もの人々が手をついてきたであろう場所に、くっきりと小柄な手形がついている。皆このぐらいの年齢で鑑定をするためか。


「それではレミーリアお嬢様。石碑で鑑定出来るのは一生に一回のみです、準備は宜しいですか?」

「はい」


 なにそれ聞いてない。と思うものの、どうせ私は人物鑑定があるので関係ない。軽い気持ちで石碑に手をつくと、後の父上と横の係員が息を飲む気配がした。

 暫く待ったのち、石碑の表面に二つの文章がにじみ出る。そこに書かれていた文字は--


「お嬢様の才能は弓と弓……弓の申し子です」


……おや?


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