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7. "運命"は埴輪でした

———

———

———


 フィリーが襲撃が受けてから、数時間は経っただろう。

 依然フィリーは走り続けている。ただ真っ直ぐに、静かに、ただ速く。

 太陽はかなり低くなっているが、まだ落ちきっていはいない。想定よりかなり早くここまで来ているように思える。

 俺の耳に入るのは風で木の葉が擦れる音、そしてフィリーの息遣いのみである。俺なりに神経を研ぎ澄ましているつもりだが、異変は全く見つけられない。本当に異変がないのか、それとも見落としているだけのかわからないだけに、気が休まる暇がない。

 時刻は夕暮れ。俺の感覚が間違っていなければ、一日の時間は地球とほぼ変わらないように思える。

 休憩所として選んでいたのであろう綺麗な小川が流れる広場を二つスルーして、フィリーは走っていた。世界樹と呼ばれている大樹も、いまではずいぶん近くに見える。円周が狭まっているので、今では一周に十分とかかっていない。


「…………」

「…………」


 俺もフィリーも無言だった。すこし前までなら俺もフィリーに話しかけただろう。あるいは、フィリーから俺に話しかけてきてくれたかもしれない。

 だが今は違う。フィリーもただ一心に大樹への道を踏破することを望み、神経を研ぎ澄まし、俺自身もそれを邪魔しないように黙っている。

 そんな折だ、再度広場に出た。おそらくはここが最後の休憩所のつもりだった場所だろう。そこもフィリーは無言で、一瞥もせずに通り過ぎようとする。恐らくこのペースなら二時間もかからず樹に到着するだろう。

 そんな折だった。突如俺は空中に投げ出された。


「!!?」


 一瞬何が起こったのかわからなかった。

 初めは、フィリーが何かに躓いて転んだのだと考えた。だが、実際は違う、目に入ったフィリーの顔は苦悶に歪んでいた。


「大丈夫か!?」

「はぁ……はぁ……。大丈夫、です……」

「フィリー!?」


 今俺の視界にはフィリーの顔が見える。

 その顔は蒼白で、言葉には力はない。目は虚ろで、涙の跡が見える。今にも意識を失ってしまいそうなほどに弱々しい息遣いで、俺を抱き寄せてくる。


「本当に、大丈夫なのか!?」

「大丈夫、です……、ごほっ……、はっ……ただの、魔力切れ、ですから……」


 呼吸もうまく出来ていないように見える。とても大丈夫には思えなかった。

 俺にできるのは一緒にいることだけである。

 出来ることは一緒にいることだけ、己の情けなさに叫びたくなる。

 フィリーは碧い瞳を虚ろにこちらへ向け、何かを伝えようと唇を動かす。だが、漏れ出てくるのは苦しそうな吐息のみである。

 どうみても大丈夫ではない。しかし何と声をかければよいものか、それともしばらく静かにしておくべきかわからない。俺がそう思案しているときだった。


 「なんにゃ? 踏まれたミミズの真似にゃ?」


 俺とフィリーの背後から、声が聞こえた。

 その少女が発する声は妙に可愛らしく、しかしその言葉には、それを帳消しにして余りある棘があった。顔は見えないがあまり友好的ではない。何者だろう、そう思っていると、フィリーを跨いで俺達の正面に座り込む。


「何か持ってるにゃ? 土精霊って感じでもないにゃね。ただの土くれ……にしては魔力の気配があるにゃ。中央が言ってた妙な魔力体ってこれにゃ? 思ったより魔力が弱い気がするにゃ。よくこんなもん感知したにゃね」


 そう言ってその少女は鼻で笑う。その声の持ち主は、胡座をかいてこちらを見下ろし、目を細めて俺のことを観察しているようだった。

 顔はエルフの特徴なのだろう、やはり人間離れして整っている。翠の瞳に、うなじあたりで短く切られた髪、ボーイッシュとまでは言わないが、なんとも中性的な容姿であるなと感じた。


「(喋り方も含めてフィリーと真逆だな)」


 それが俺が少女に抱いた第一印象であった。それにしてもこの友好的ではない少女は、いったい何者なのだろうか。


「まあなんでもいいかにゃー。出来るなら回収して来いって言われてるしにゃ。それ、貰うにゃね」


 ニヤリと笑みを浮かべた少女の手が俺に伸びる。フィリーが俺を抱き寄せるが抵抗にならない。俺の身体は持ち去られてしまうと、俺自身もそう思った時であった。


「にゃ!?」


 触れた瞬間稲妻のような、青白い閃光が放たれ、目の前の少女は後ろへと飛びのく。


「今の、なんにゃ……?」

「……。これは、私の——」


 フィリーが口を開こうとした直後、再び少女は鼻で笑う。


「はっ。まあなんでもいいにゃ。それ、お前は触って大丈夫なんにゃね?」

「……はい」


 フィリーは俺を抱き締めながら、妙な口調の少女にそう即答する。


「……しゃーねーにゃ。連れて行くのが命令にゃ、てめーごと連れってやるにゃ。いいにゃね? 拒否権はねーにゃ」

「わかり、ました……」


 そう言い、少女はフィリーを軽々と脇に抱えて持ち上げる。

 そしてその刹那、俺達は巨大な壁の前にいた。唐突に景色が変わったのである。

 俺には何が起こったかわからない。

 俺が戸惑っていると、フィリーを持ち上げる少女が誰かに呼びかける。


「持ってきたにゃよ。族長はどこにゃ?」


 その言葉に返事はない。

 だがその直後、凛とした声が響く。


「後ろにいるぞ。気配くらい感じ取れ、戯け」 

「にゃー……気配を消すのはやめてほしいっていつも言ってますにゃ……」


 少女が振り向くのに合わせて、俺の視界もぐるりと回転する。

 目に入ったのは黒く長い真っ直ぐな髪を持つ女性であった。顔立ちは中性的で精悍な顔立ちというのが一番ぴったりだろうと思う。身長は百八十センチメートルくらいはあるだろうか。

 女性としてはかなり長身だと思う。

 物腰や雰囲気からみて、この人が族長さんということなのだろうかと予想を立てる。 


「族長、持ってきましたにゃよ。多分"これ"にゃ」

「うむ。にゃー子、報告にあった変な魔力体はそれか?」


 少女は気怠げな声を出しながらそういう。そして"これ"と言いながら指さした先にいるのは、当然ながら俺である。


「にゃー子じゃねーですにゃー。『シエルリーゼ』って名前があるにゃ、いい加減覚えてほしいですにゃ」

「覚えているぞ、あえてそう呼んでいる」


 そう言って族長さんはケラケラと笑う。なるほど、フィリーが『変わった人』と言っていた理由が少しわかった気がする。


「にゃふ……。魔力体っていってもフィリンシアが持ってるようなもんにゃ、どうせ大したもんじゃねーにゃ」

「それは私が判断することだ」


 語尾がおかしいエルフの少女は、反論することを諦めたように話題を本題へと戻す。

 フィリンシアとはフィリーの本名である。どうやらフィリーとシエルリーゼと名乗ったこの少女は知り合いらしい。


「なあ、フィリー。今大丈夫か?」

「はい、なんですか?」


 フィリーも先程よりは回復したようで、俺の問いにそう返事をしてくれる。少し安心しつつ、疑問をぶつけると、小声で返事をしてくれた。


「ここはどこなんだ? このシエルリーゼって子とはどういう関係なんだ?」

「ここは世界樹の根本です。いわゆる”中央”ですね。シエルとは……、古くからの友人です。少なくとも私はそう思っています」

 

 場所は把握した。どうやら眼の前にある壁と思っていたものは、巨大な樹の幹らしい。

 近くで見れば圧巻である。五十メートル級の樹は見たことがあるが、『壁』という表現はしない。だがこの樹の幹はまさしく壁であった。樹の頂点は、いったい地上から何百メートル離れているのだろうかと考えてしまう。

 それに対してシエルリーゼについては、なんとも煮え切らない言葉が返ってくるに留まった。


「フィリンシア、久しぶりだな。壮健だったか?」

「はい、ありがとうございます」


 どうやら族長さんともフィリーは顔見知りらしい。

 ちなみにそう答えるフィリーはというと、依然語尾のおかしい少女——シエルリーゼの脇にに担がれている状態である。


「ではフィリンシアに尋ねよう、それはなんだ? 確かに魔力を感じるが」

「これは——」


 少し言い淀む。何を考えているのだろうか、フィリーの顔を見ようとするが、いかんせん視野が狭くてそこまで視界が届かない。関節が無いというのはここまで不便なのかと改めて思う。


「これは?」


 その様子に、族長と呼ばれる女性は切れ長の眼をフィリーに向ける。口調こそ穏やかだが、その雰囲気からは答えないことは許さないという圧を感じる。フィリーも、答えないつもりはないのだろうが、間に挟まれる俺にとっては冷や汗モノである。

 そして数秒の後、意を決したようにフィリーは再び口を開いた。


()は、私の"運命フォルタ"です」

「"運命"?」


 族長は怪訝な顔で首を捻る。

 直後、笑い声が聞こえた。その声が聞こえたのは俺のすぐ隣。フィリーを担いでいるシエルリーゼであった。


「"運命フォルタ"にゃ? にゃー! なーにいってんにゃ、にゃはは、"運命"! 土人形つちにんぎょうがお前の"運命"にゃ? にゃーっはっははは、片腹いてーにゃ、大爆笑にゃ!」


 シエルリーゼはフィリーを地面を放り投げ、腹を抱えて笑っていた。そこまで笑うことなのだろうかと考え、俺を抱いて立ち上がったフィリーに向かって尋ねる。


「笑われすぎじゃね? 俺、そんなおかしいの?」

「……」


 身体を捻り、綺麗に着地したフィリーに尋ねるが返事が帰ってくることはなかった。

 フィリーの胸のあたりで抱かれているため、フィリーの表情は分からないが、これは無言の肯定というやつなのだろう。


「けっ、てめーにはその土人形がお似合いにゃ。じゃあ、わたしは行くにゃ。いいにゃね、族長」

「……ああ」


 族長さんが答えると同時、シエルリーゼは、文字通り俺達の眼の前から消えてしまう。恐らく今のも魔法の一種なのだろう。

 残されたのは俺とフィリー、そして族長さんである。


「やれやれ。ところでそれが"運命"……か。フィリンシア、ちょっと持っていろ」


 フィリーは立ち上がり、族長さんの前に俺を掲げる。

 族長の女性が俺に手を伸ばし、俺に手を触れようとした。

 そして——


「むっ……」


 バチリと、青白い火花が散ったかと思うと、その女性は俺から手を離す。

 先程、シエルリーゼが俺に触れようとした時と同じ現象であったが、俺やフィリーに影響は感じられない。


「なるほど……、確かに何らかの意思が働いているな。"ライン"を通すどころか触れることさえ出来ん。フィリンシアは大丈夫なのか?」

「はい」


 "ライン"というのはフィリーが俺と意思疎通するために使っている魔法である。フィリー曰く、それなりの親和性がないと"ライン"も通らないと言っていたので、つまりは目の前の女性と俺は"親和性"とやらがないとのことなのだろうか。


「なるほど……。まだ契約はしていないのだろう? とっとと済ませてしまえ。その者の魂、それほど長くは持たぬのだろう?」

「……はい」

「え、俺そんなに危ないの?」

「はい」


 フィリーに即座に肯定される。楽観視しているのはどうやら俺だけらしい。


「俺が助かるには契約が必要、か」

「そう、ですね」


 最初に聞いた話である。だが、俺の聞きたいことはそれだけではない。


「契約って何をするんだ? 教えてくれないか?」

「えっと、そういえば言っていませんでしたね。とりあえず、よく使われる方法が『体液の交換』ですね」

「ほう? 詳しく」

「なんでそこに食いついてくるんですか?」


 何やら興味深いワードに思わず食い気味になる。そして明らかな懐疑心を帯びる瞳をこちらに向けられた俺は、鼻歌を歌って誤魔化す。


「はぁ……。言葉通りの意味です。契約の魔法陣の中央で、呪文を唱えて互いの体液をなんでもよいので少量飲むだけです。よく使われるのが唾液か血液ですね。ただ今のあなたの場合、そもそも体液という概念が存在しないでしょう?」

「確かに」


 俺の身体は今や埴輪はにわである。体液どころか細胞さえも存在しない。

 樹から生まれるらしいエルフには血液という概念があるのだろうかと思ったが、話が逸れそうなので口には出さないでおいた。


「精霊などの他、あなたのように体液というものが存在しない者と契約する場合、この世界樹の力を借りて強制的に互いにパスを通します。端的に言うと樹の力で無理やり契約するわけです」

「ほう、つまり樹の力を借りる以上、樹の傍まで来ないとだめだったと?」

「その通りです」


 フィリーがあれだけ急いでいたのには、そういう意味があったらしい。

 その上でフィリーはその道のりを踏破したのだが、何故フィリーの表情は冴えない。 


「ですが——、二つほど問題がありまして」

「問題?」


 フィリーが申し訳なさげに言う。この期に及んで問題とはなんだろう。

 あまりかんばしくない予感がするが、当事者である俺が聞かないわけにはいかない。 


「まず一つ目。樹には契約を結ぶ機能しかありません。つまり、あなたの魂と契約を結ぶ以上、今後契約の解除ができません」


 樹の契約はエルフの魂を死なせないためとフィリーは教えてくれた。

 ならば契約を解く必要も意味もないということか。とはいえ俺から『契約を解いてくれ』などと言うことはないだろう、なにせ契約し続けなければ俺は死ぬのだから。

 それにその後人間に戻ったからと言って、それまでの恩を無下にするほど薄情ではないだろうと思える程度には自分自身を信じている。


「それは構わない」

 

 俺はほぼ時間を置かずにそう答える。

 そういうとフィリーは無表情のまま、再び口を開いた。


「では二つ目。契約とは強力なラインを通すのと同じです。それに伴って発生する問題は、"感覚の共有"です」


 俺の目を見ずに、フィリーはそう言ってきた。どうもこちらの方がフィリーにとっては大きな問題と考えているように見える。


「どのくらいの影響があるんだ?」

「目を合わせると相手の考えがほぼ分かってしまうのは"ライン"と同じなのですが、目を合わせた際により深い思考が読めるようになります。さらに五感まである程度共有されます。感覚の共有はオンオフ出来るのですが、その権利はエルフ側、つまり私が持つことになります」


 目を見るだけで考えが読める。相手の見ている世界、聞こうとしている音がわかる。つまり、プライバシーがなくなる。そういうことを心配しているのだろうか。


「むしろそれ、フィリーは大丈夫なのか? 今の俺、視覚と聴覚と触覚がちょっとくらいしかないし、共有ってことは俺も君の五感に干渉できるんだろう?」


 さらに言えば干渉ではなく共有とフィリーは言った。つまり、俺もフィリーの見たり聞いたりしていることが分かってしまうということだ。


「えっと……? 何か問題が?」


 キョトンとした表情で聞き返される。

 どうやら五感が揃っていなくても問題ならしい。さらにエルフにとって、プライバシーというものはあまり重要ではないということも分かった。


「人間同士は心理的に壁を作る方も多いと聞きましたので。あと大切なことなのですが、感覚の共有はオンオフできますがオンが基本です。オフに出来るのは私が意識して共有を断っている間だけです」

「ふむふむ……。それが?」


 いまいちフィリーの言いたいことが分からず聞き返す。フィリー自信もおそらくこれだけで真意が伝わるとは考えていなかったのだろう。改めて補足してくれる。


「もしも、私が共有を断っている余裕がない状態に陥った時、例えば致命的な傷を受けた場合、その痛覚は丸々あなたに伝わります。そしてもしも私が死んだ場合、それ相応の痛みを受ける可能性があります」


 文字通り、死ぬほど痛いということだろう。


「うーん……。そうは言っても俺は君を信じるしか無いんだが……」

「まあ、善処はします」


 俺としてはそう言うしかない、フィリーからははあまりにも自信なさげな返答が返ってきて、俺としては不安が募る。そんな中、さらにフィリーから追い打ちがかかる。


「あと最後に実はもう一つありまして……」

「まだあるのか……」


 まさかの三つ目の問題の存在するらしい。

 だがフィリーの様子がおかしい。なにやら俯きながら小さな声をさらに小さくして口を開く。


「えっと実はですね……、契約しなくてもあなたを生存させる方法もあるのです」


 最後に思いつめた表情で、フィリーは言った。


「え、そ、そうなのか?」

「はい。問題は魂が拡散し続けていることにあります。なので、魔法でそれを止めてしまえば大丈夫なのです。実のところ、私はそれをできるだけの手段を持っています」

「そう、なのか……」


 最後まで言わなかったのは、フィリー自身が言いたくなかったからだろうということは、すぐに理解できた。

 フィリーは”運命”を探していると言った。

 俺はその候補なわけだが、それを言うことにより俺が契約しないと言い出すことだって十分にありえるのだ。


「とはいえ、契約していただいた方が見つけられる確率は高まります。その上で、契約するかしないか、どちらを選ぶかはあなたが決めてください。どっちを選んだとしても、絶対にあなたの身体は探して見せます」


 それでも、フィリーは俺にそう言ってくれる。

 数秒俺は考えた。もしも契約しなかった場合、少なくとも俺のプライバシーは守られるし、痛覚の共有というリスクに晒されることはない。

 その上で、俺は答えた。

 

「しよう、契約」

「え、いいのですか?」


 一番驚いていたのはフィリー本人だった。


「ああ、まあ。だって契約しないと俺の身体、探せないだろう?」


 フィリーは言った。エルフは”運命”を見つけなくては森から出てはならないという決まりがある、と。無理に出ても魔法を使えない、と。

 それにフィリーの"運命フォルタ"になることには少なくとも二つのメリットがあると言っていた。具体的には”運命”の役割の「魂の器」「魔法の補助装置」である。それがあることにより、俺の身体を見つけられる可能性が高まるということなのだろう。

 この少女は、交渉は下手だし大切なことは最後まで言わないが、隠し事など無理な子だ。おそらく、言っていた以上のデメリットは存在しない。丸一日一緒に過ごし、そう信じさせてくれるくらいにはこの少女は誠実であった。


「本当に……、いいのですか……?」

「ああ、君のことは信じられるって、そう思った」


 フィリーは俺と向かい合う。

 きょとんとした表情で、フィリーは俺に再度尋ねてくる。この不器用なエルフの少女は、多分最後の説明で本気で俺が契約してくれなくなると思っていたのだろう。

 多分、本当にただの罪悪感から隠し通すことが出来なかったのだ。

 つくづく隠し事ができないのだろう。


「……ありがとう……ございます……!」

「これから、よろしく」

「はい……!」


 声を震わしながらフィリーは俺を抱きしめてくる。

 抱きつかれている俺は、人の身体だと顔が真っ赤になっていたところだ。辛うじてこの身体だからこそ、感情を完全に隠しきれた。


「話は纏まったようだな」

「はい」


 フィリーの様子を見てか、族長と呼ばれている長身の女性が話しかけてきた。


「その様子を見たらどういう結果になったのかは分かるが――どうなった?」


 その問いに、フィリーは俺を手に立ち上がる。

 そして、族長に俺を族長に向けて宣言したのだった。


「はい! 私の……私の"運命"は、はにわでした!」


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