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2-2.湧き出た疑問

 旅立ち初日、人里への道中をフィリーと俺は話しながら歩く。

 フィリーが俺に様々な質問をして、それに対して俺が答えていく。俺の言葉一つ一つに、興味深げに答えてくれる。

 そんな中で俺からも再び一つ、他愛もない疑問が生まれた。


「そういえばドワーフっているのか?」

「なんですかそれは。私は知りませんが土から生えてきそうな名前をしていますね」


 これまでになく冷たい声が返ってきた。

 フィリーの言葉に一切の抑揚はなく、何故か喉元に刃物を突きつけられているかのような感覚に襲われる。


 え、これはどっちだ……? 言葉通りそんな存在(ドワーフ)はいないのだろうか、あるいはあえてとぼけていて、実はドワーフも存在するのだろうか、今の反応からはいまいち分からない。


「あっ……。すみません、なにか心の底から黒い感情が……。これがいわゆる嫌悪感というものなのでしょうか……。その"どわーふ"とは、なんなのですか?」


 俺が思案していると、フィリーははっとしたように我を取り戻してそう言う。

 どうやらドワーフはいないらしい。元のフィリーに戻ったことに安堵しつつ、俺はフィリーの問いに言葉を返す。


「俺も詳しくは知らないんだけど髭を生やしてハンマーを持ったちっさいおっさんらしいぞ」

「ものすごーくざっくりした説明なのに、あまりにも鮮明に想像できるのですが……、これが"魂に刻まれている"ということなのでしょうか……」


 ドワーフ(定番)はいないようにもかかわらず、もはやエルフとドワーフの不仲は遺伝子レベルに刻まれているらしい。

 そんな会話をしつつ、のんびりとした足取りでフィリーは草原の中の道を歩く。そして、地平線の先にうっすらと村が見えてきた頃には、日は山の向こうに落ちかけていた。


「さて、今日は野宿でもしましょうか」

「え? もう村が見えてるんだし、あそこまで行けばいいんじゃないのか?」

「うーん、この時間に町娘が村にふらりと立ち寄る……なんてことは、まずありえないと思うのですよね……。やはり身元を隠している以上、出来る限り不自然のないようにしたいです」


 フィリーは懸念を示す。エルフと人間がそれほど種族間の仲が良くないということは、俺がこの世界に来た日に分かっているつもりだ。出来る限り自分の出自を隠したいというフィリーの考えもわかる。


「かまいませんか?」

「分かった。でもこの辺りって危ない野生動物とかいないのか?」

「野犬はいるでしょうけど、まあそのくらいなら大丈夫です。今は魔力を節約していますが、何かあった時は躊躇わずに魔法を使いますので」

「なるほど、分かった」


 本気を出したフィリーの強さは知っているつもりだ。

 それに普段はこれでもかというくらい謙遜するフィリーが大丈夫というのなら、本当に大丈夫なのだろう。

 俺はそれ以上反論することなく、フィリーの言葉に同意する。その後、俺とフィリーは寝床となる岩陰を探し、そこに腰を下ろした。

 座ったところでフィリーが俺を腰から外して対面に置いき、俺に話しかけてくる。


「そう言えばタクミって眠るんですか?」

「寝ようと思えば寝れるけど、寝なくても問題ないって感じだな」


 数日この身体で過ごしてみて出した結論である。

 丸一日起きていたことがあったのだが、睡眠欲というものが一切湧いてこなかった。

 それでもフィリーが眠ってしまうと退屈なので、寝てしまうのだが。


「そうですか、では交代で見張りをしましょう」

「別に俺一人で見張りをしてもいいぞ? フィリーのほうが疲れてるだろうし」


 フィリーの提案に俺はそう返す。実際旅に出るというのは体力的にも精神的にも疲れるはずだ、休みは多いに越したことはないだろう。特にフィリーにとっては森の外を歩くのも初めてのはずだ、精神的な披露は俺の比ではないと思われる。

 だがフィリーは首を横に振ると、微笑みながら俺に言う。


「ありがたいですが、タクミも休憩は取ったほうがいいですよ。もともとあなたは人間です、どんな悪影響があるかわかりません」


 不眠が続いた場合、"運命(フォルタ)"としての俺への影響は俺自身にも分からない。フィリーがそういう以上、何かしらの影響がある可能性がある。ならばそのくらいはお言葉に甘えよう。


「じゃあせめて先に俺が見張りをするよ、適当に起きた時に代わってくれ」

「では、そうさせてください……。森から出て魔力が減った感覚に身体がついてこれていないようです……、少し疲れました……」


 俺が提案した直後、座ったままのフィリーに抱き寄せられる。その時には、既にフィリーはうつらうつらとしていた。本当に疲れていたのだろう。それでも何も言わなければフィリーは自分が先に見張りをしたと言っていたかもしれないし、俺から提案できてよかったと思う。


「けどもしも自分で起きれなくても、絶対起こしてください、ね……」

「ああ」


 俺は短くそう答え、俺は眼の前の風景を見回す。正面の視界は開けていて、かなり遠くまで見渡すことが出来る。背後からは岩を背もたれにして既に眠っているフィリーの息遣いが聞こえてくるのだった。


「(落ち着かない……)」


 背後の気配から意識をそらすために、俺は目の前の景色に集中することにした。

 遠くに山が見えるが辺りは草原が広がっている。

 日は落ちきり、辺りは暗く、星々が瞬いている。星々があまりにも明るい。無数の星空、という表現があるが、まさにそれだ。俺の世界でこれほどの星空を見るには、街から遠く離れなくてはならないだろう。

 山際には二つの月が見えていた。片方は俺が元々いた世界のものと同じような、金色に光る月、片方は二回りほど小さな銀色に光る月であった。俺がこの世界に来た時は満月だったそれも、一週間ほど経っているためか半月になっていた。

 背後からは小さく寝息が聞こえてくる。やはり疲れていたのだろう。


「……エルフって何なんだろうな」


 フィリーに聞こえないように小声で呟く。

 顔立ちが人並みに外れて整っている。耳が長い。魔法が使える。森に集団で住んでいる。本人は否定するが、樹から生まれる上にほぼ不老という性質上、精霊や妖精、あるいは神様と言われても違和感はない。ついでに存在さえしないドワーフが苦手。

 俺の世界のエルフの性質とかなり一致する部分がある。だが無論ここは別の世界だ、だったらこの、異様にステレオタイプに沿った見た目や性質をしている"エルフ"とは何なのだろう。そう考えてしまうのである。


「……。わっかんねぇな」


 考えたところで何か分かるわけでもないだろう。

 俺の耳に入る音は風で草が揺れる音、そして辺りでは虫の鳴き声、そして背後の少女の息遣いくらいだ。

 辺りには何も異変がないが、見張りをすると言った手前少しは集中しなければ。そう考え、俺は周りを見渡すため、思考を目の前の事に切り替えるのであった。

 夜は更けていく。出来ればフィリーの疲れが取れるくらいまでは、何も起きないでほしい。一人で何もできない俺は、そう願うのであった。


―――

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