六 ※
念のため、注意喚起させていただきます。
グロ注意
カノルの姿を見たニコラスは、カノルの胸ぐらを掴んだまま固まっていた。その場にいるリアたちも二人を見つめたまま固まる。
カノル「離れろ」
カノルはニコラスを押して自身から離す。押されたニコラスは、よろけて数歩下がって尻餅をついた。そして自身の手首を掴んだ。
「そうか…お前は“勇者”だったのか……
なら、その年齢でギルドにいるのも納得だ……」
脱力したように首を項垂れる。そして、ニコラスは一人で納得した。
何もかも諦めたような雰囲気。他の人々と違って“勇者”だと分かった時の態度の違い。悔しそうにつぐんだ口。ひそめる眉。絶望した虚ろな瞳。
その姿にニックはただただ不思議そうに見つめた。勇者にとる態度ではないからだ。ふと、先程カノルが言った言葉が耳に引っかかった。
「“のらびと”って何ですか?」
ニックは鼻を抑えながら、カノルを見上げる。カノルは目線だけをニックに向けて口を開いた。
「野良人とは……昔、勇者のパーティにいた者の事を言う」
「え!? カノルさん、昔コイツといたの!?」
「違ーよ、馬鹿」
ガナーは否定して、ニックの頭をぺしっと叩いた。疑問が解けないニックは、頭を抑えて不思議そうにガナーを見上げる。
「野良人ってのはな…勇者が死んだ時に生まれるんだ」
「ぇ…?」
声が詰まる。
ニコラスの方に顔を向けると、下唇を噛み締めていた。リアもニコラスから顔を背けている。その横顔は酷く悲しげだった。
カノルがさらに言葉を繋げる。
「勇者が死んだ時、そのパーティの生き残りは“勇者を護れなかった役立たず”、“
飼い主が居なくなった人間”といった皮肉を込めてそう言われる
オレが昔会ったことのある野良人もアンタみたいな面してたよ」
「あぁ、そうだ……
俺は野良人だ……
勇者を…ダチを護れず…1人、生き残ってしまった役立たずだ!!」
ニコラスは声を荒げてカノルを睨みつけた。しかし、怯むことなくカノルはニコラスを見下す。
そして呆れたようなため息をついた。
「まったくお前ら野良人は皆同じだな
絶望、疑惑、罪悪、嫌悪、逃避、悲壮…様々な感情の色の瞳に、“お前は勇者なのか”と認めたくないような否定的なセリフ
何より何でそんな重い罪を犯した罪人と同じ顔をしているんだ
まぁ…生きてるだけ他の野良人よりましだがな」
大抵勇者が死ぬときにパーティも全滅することの方が多い。それは強敵とぶつかり全滅したからという理由が一番多い。しかし、勇者が自殺、病死、事故死したときに生き残ったパーティは罪の意識からか、後を追う者がいるのだ。責任感が強い者がパーティになりやすいのか、たまたま生き残ったパーティが責任感の強い者なのかは分からないが、勇者のために命を投げ落とす者が多い事は確かだ。
目の前にいるニコラスも恐らく、例外に漏れず責任感の強いパーティだろう。
「勇者を! ダチを守るのは俺の役目だったんだ…!
その役目を果たせず、俺だけが生き残るのは罪以外にないだろう!?」
「いや、勇者が死んだのは勇者の責任だ
どこの法律に勇者を命がけで守れなんて条例があるんだ
勇者が死んだ今、もうお前は勇者のパーティにいる人間じゃなく、ただの人間なんだ
こんな森で無駄な時間過ごしてねぇで、さっさと故郷に戻れ」
「っ!!」
ニコラスは額に青筋を浮かべ、拳をカノルに向けて振り下ろす。
振り下ろされたその拳はカノルに届く前に、ガナーの手によって止められた。勢いが削がれたニコラスは再び崩れ落ちる。
ガナーはニコラスと目線を合わせるように、しゃがみこんだ。
「わりぃなニコラス…
お前の知ってる勇者はどんなんだったかは知らねーが、現勇者は天使のような見た目の割に非情で残酷、人間嫌いの変わり者
おまけに言葉が足らないし、不器用なんだ
こんな態度でもアンタのことを心配してんだよ」
「心配…?」
「知ってっか? 人間は瘴気に当てられ過ぎると、アンデットになる事を
ここで生きてきたなら魔物も食べたはずだ
この森には魔族がいて、アンタ3年間もココにいたんだろ?
鏡を見る機会もなかったか…ニコラス、お前さんアンデットに片足突っ込んでるぞ」
ガナーは担いでいる斧を傾けてニコラスの顔を反射させる。ニコラスは自分の顔を見た途端、悲鳴に近い驚き声をあげた。白目の部分が黒い痣に覆われ、耳は少しとんがっていた。明るい金色だった髪は、色彩が霞み黒みがかっていた。
「そ…そんな……」
「魔物の肉は、言わば瘴気の塊
アンデットになるのを早める力があるの…
少量だったり、浄化してたりしたら問題はないんだけど、毎日で しかもここにずっとだったなら流石に…促進させてしまうわ」
リアは言いにくそうに話しを続ける。
「アンデットになってないのが不思議なくらいよ
早く教会で浄化しないと、アンデットになっちゃうわ…」
「だが、俺は…あいつを! 魔族を殺らねーと!!」
「殺る算段はあるのか?」
「それはっ!」
「こんな棒切れのトラップや武器じゃ、傷一つ付けれない
少なくとも“神の加護”がある武器じゃないとな」
魔族というものは丈夫で、神の加護がない武器ではまず歯が立たない。“神の加護”とは、神法の強さの根源となる神力を源とし、上級者の神術師でしか付けることはできない。そう簡単に手に入れることは出来なかった。
「勇者のパーティ、と言うより冒険者なら知っていて当然の知識だろ」
カノルの言葉に、ニコラスは声を詰まらせる。
神力を全く持たないニコラスは、とうぜん神の加護を武器に付けることはできない。感情や気持ちとは裏腹に、頭では分かっているのだ。“勝てない”という事に。ただ、何もしないという選択肢はとりたくなかった。
「第一、オマエはここにいる魔族の事を何も知らない
知ってればここに3年も留まるはずがない」
「それは…どういう?」
「実際に教えてやるよ」
そういうと、カノルはレイピアで自身の手のひらを斬りつけた。ぽたぽたと赤い血が地面に滴る。
次の瞬間、森に充満していた瘴気が一気に濃度を濃くした。瘴気が重く肩にのしかかる。
「カノル! 怪我する必要なかったじゃん!!」
「このバカに見せつけたくてな
おい、オマエ」
「な、何だ…?」
「ここにいる魔族はな、人間の女の肉しか喰わない美食家なんだよ」
「…は?」
「これはギルドから貰った、ここの魔族の情報だ」
ニコラスはガナーからこの森に住む魔族の情報が書かれた紙を受け取る。
そこには、魔族の特徴として、人間の女の肉しか食べない事が書かれていた。事象として、人間の女がいるパーティや商人しか、この森で襲われていないらしい。
3年前、ニコラスのパーティには人間の女性である僧侶がいた。あれからこの森で待っていたが、一度も姿を見たことはなかった。
「そんな…じゃあ、俺は無駄だったのか……」
「あぁ、無駄だった
アイツを呼び出すなら、囮を用意するか、人間の女の血を病院からもらえば良かったんだ」
「私たちも貰ったからね」
バックから鮮血の入った瓶を取り出す。その血を呆然と見つめていると、ニコラスはカノルを凝視した。
「……待て、なら何で…カノルの血に反応して…少年じゃ…」
「あー…そりゃ、当然だな」
「だってカノルさん、女の人だもん!」
「え…?」
ありえないといった顔をカノルに向ける。苦笑いする一同に、カノルは余計なお世話だと小さく呟いた。
「気を張れ」
シュルシュルと何かが擦れる音が森に反響する。カノルの言葉にリアたちは直ぐに気を張り巡らせた。すると、森の奥から数十本もの蔦がカノルに襲いかかる。ニコラスは慌てたように声をあげた。
「ガルルル!」
ザシュッと切り刻まれた音が森に響く。カノルの周りの地面には数十本の蔦が落ちていた。背後には、唸り声を上げるニックの姿。
しかし、まだ残っている蔦が再びカノルに襲いかかる。
「ソレイユ!」
呪文を唱えるとカノルを中心に、地面から白い光が発光する。
蔦は嫌がるような素振りを見せて、干からびたように萎んでいく。もともと魔族は生まれつき身体に瘴気を宿し、魔力が高い。対になる神力を源とした神法にはとても弱いのだ。加えてこの森は太陽の光すら届きにくい場所。
抗体のない体は、弱い神法でも一瞬にして衰弱する。
「何をするのォおおお!!!」
悲痛な叫び声と共に、木の幹がパチパチと音を立てて変形していく。にゅるりと木から伸びてきたのは凹凸のある女性の人型をかたどった太枝だった。
「私のォ…私の赤ちゃんがああああ!!!」
蔓を伸ばしてカノルの体を持ち上げる。
敵の手中にあるにも関わらず、カノルはその表情を崩さなかった。
「ふふふ、貴女…その見た目だけど人間ね? 匂いで分かるもの
私は人間の女性の肉が大好物なのォ
あなたを食べれば、子供達の傷が癒えるかしらァ?」
「やめておけ
白はオマエらにとって毒だぞ」
言葉の終わり目に、鞘に入っていたレイピアを抜く。体にまとわりついていた蔓を切り刻み、魔族の断末魔が森に響いた。
囚われていた蔓を足場にし、下にいるニコラスを見下げる。
「お前は復讐が果たせれば良いんだったな」
「な…何が──」
ニコラスの言葉を待たずに、蔓はカノルに襲いかかる。複数もの蔓を切り刻み、カノルは襲いかかる蔦を足場に高く駆け上がる。地面からは見えなくなる程高く登っていった。
ソワソワと不安な表情をするニコラスを他所に、カノルのパーティたちはただじっと上を見上げていた。
しばらくして、三人は少しその場から離れる。ガナーはニコラスを担ぎ上げた。人間でも体格はあるニコラスだったが、オーガであるガナーの体格には流石に負ける。突然、軽々と持ち上げられたニコラスは驚きつつも大人しくなった。リアたちの行動に、困惑気味に見つめるが、直ぐにグシャアと何かが落ちてくる音にかき消された。
「いやァ…いやァあ!!」
「大人しくしてろ」
神の加護が付いたレイピアが、魔族の頭を貫通して地面に刺さっている。女性の身体をかたどっていたソレは、両手足がなくなっている。魔族はか細い声で「いやだ」と呟いていた。魔族の体から紫色の血が流れ、返り血を浴びているカノルにも紫色の血が流れていた。
その姿にたじろぎながらもカノルを見つめる。目が合った瞬間、カノルはニヤリと笑う。
「ほら、命は残したぞ」
「は…?
な、何を言ってるんだ…?」
「復讐さ
コイツを痛めつけるんだ。魔族は丈夫だから、手足が欠損するような ちょっとの傷じゃ死なない
生命の塊を壊さないとな、コイツの場合。インプのように膨れ上がったこの腹の中か?」
魔族の膨らんだお腹の上に足を乗せて重心を軽く預けると、魔族はジタバタと胴体をよじって抵抗する。
「ほら、切り刻んですり潰して抉りとってやれよ
再生と破壊を繰り返して、断末魔や悲鳴が命乞いに変わるまで
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も──」
「人間がァア!! 私を愚弄する気か!!」
魔族の喉を踏み潰す。ブーツでも神の加護が付いていれば簡単にぺちゃんこになる。胴と首の割れ目からは、再び紫色の血が流れた。それでも神経が繋がってるのか、首だけになってもなお、魔族は苦しそうに顔を歪める。
「黙れ、オマエに発言権を与えていない
リア!」
「うん…」
名前を呼ばれたリアは、ニコラスが作った槍を数本抱えてニコラスに一本を渡す。残りの槍は魔族の側に置いた。
「…これ、神の加護が付いてるな」
「うちの僧侶は優秀でな、神の加護を付けることができる」
そう言って、カノルは地面に置いてある槍を掴むと魔族の胸に向けて一本突き刺した。悲鳴が深い森に響く。続けてカノルはぐりぐりと傷口をえぐるように、槍を動かした。死なずも痛覚のある魔族は、痛みにうめき声をあげる。
ニコラスは目を見開いてカノルを見つめた。その拷問と呼べる行動を成人もしていない子供が、無表情で淡々と行っていた。その容姿は確かに神族のようだが、今目の前にいるのは確かに魔族だ。ずっと憎んできた魔族よりも、魔族らしかった。いつか見た魔族が仲間たちを次々と殺していった光景と重なる。
眉をひそめて手にある自作の槍を見つめた。
「──分かったか?」
「……何…?」
「オマエは復讐を分かってない
ただコイツを殺せば満足だったんだろ? それか、ダチって言った元勇者の為に自己犠牲という無意味な方法で死ねればそれで良かったか?」
「俺はっ! ……俺は…」
ニコラスは拳を固く握りしめるが、カノルに言い返す言葉が見つからなかった。
先ほどまでの執着に似た復讐が段々と薄れていくのを見て、カノルは言葉を続ける。
「オマエは生きている
その命はオマエの仲間が繋げたものだろ?
それを粗末に扱うのが、オマエなりの恩返しと言うなら何も言わない
前任の勇者はとんだ仲間と旅していたんだな」
カノルはニコラスに背を向けて、魔族の頭に刺したレイピアを引き抜く。虫の息となっている魔族には、抵抗する力も逃げる力も残っていなかった。冷めた目でそれを見下ろすと、頭を蹴飛ばし魔族の腹に目掛けてレイピアを高く振り上げる。そのまま振り下ろすが、手首を掴まれて阻止された。
「俺がやる」
「そうか」
ニコラスと代わり、カノルはレイピアを引いて、風で紫色の血を拭う。
手に持っていた木の槍を振り上げ、魔族の生命の塊がある腹に向けて勢いよく降ろされる。ドスッという音とともに魔族の体は砂のように崩れ、森の瘴気が浄化されていく。
リアたちはカノルに駆け寄った。タオルを渡されて、カノルは自身に付いている魔族の返り血を拭う。ガナーはそっとカノルの頭を撫でた。
「これでニコラスは生きていられるか?」
「さぁな」
「ったく、素直じゃねーな
その為にアイツから“勇者”を引き剥がしたんだろ」
「……いや、まだだ」
「は?」
頭に乗せられている手を叩くと、カノルはニコラスに声をかける。ついてくるように促すと、森の奥に向かった。
魔族のいなくなった森は先ほどと違って少し明るい。
獣道を抜けると、木に刺さった骸骨があった。木漏れ日に照らされ、その骸の頭にはカノルと同じ純白の翼がついたサークレットが輝いていた。
「…ゆ、う…しゃ……」
膝から崩れ落ちると、元勇者の骸を見上げる。
「死んだ者は戻ってこない
だが、生き残った者はその死んだ者を弔うことが出来る」
「……」
「それにコイツは運が良いぞ」
「何…?」
「見つけてくれる“仲間”がいた
“勇者”は野晒しにされず、ちゃんと成仏ができるだろう」
骸骨に刺さっている草木を斬り離す。
「ニコラス、手伝え」
「あ、あぁ!」
森から元勇者の骸を持って森の外に出る。久しぶりの太陽にニコラスは目を閉じた。
「世界はこんなに明るかったのか……なぁ、勇者よ」
手に抱えた骸に、そっと語り掛けた。
カノルたちは依頼が終わった事を伝えるため、そのまま街に戻る。アンデットになりかけのニコラスの姿や骸骨を見て、街中がパニックになったがカノルの説得で落ち着いた。
ニコラスは教会で浄化をしてもらい。栄養失調を補うために病院に入院した。後日、森の入口には魔族の被害者を弔う位牌が建てられた。被害者の名前が連なる中に、ニコラスのパーティの名前も刻まれていた。998番目の勇者としてではなく、スタールとして埋められた。
ニコラスは病室の窓から外を眺める。つい最近まで魔族が近くにいたとは思えない程、穏やかな光景が広がっていた。
そしてエクレードに滞在している勇者であるカノルの活躍が、毎日の様に耳に届いた。
「ニコラスさん
体の具合はどうですか?」
「あぁ、大分良くなったよ
白目にあった痣も薄くなってきたしな」
「ふふふ、そういえばギルドの使者からこれを預かってきました」
そう言って看護師は一枚の紙をニコラスに渡す。
中身を見た途端、弾かれたようにニコラスは病室を飛び出した。制止の言葉には目もくれず、ニコラスは街の中を走り回った。
エクレードの街外れに、人知れず街を出ていこうとする。黒いローブの4人組を見つけた。ニコラスは疲れた体に鞭を入れて、その4人組に駆け寄る。
「っ! ──カノル!!」
ニコラスの呼びかけに、4人組は足を止める。
その中でも一番大きい者は振り返り、ニコラスを見て驚きの表情を見せた。
「ニコラスじゃねーか」
「あれ、もう身体大丈夫なのかな?」
続いてリアが振り返り、ニコラスを見て首を傾げる。
4人組に追いついたニコラスは肩で息を整えると、先ほど看護師から貰った紙をカノルたちに見せた。
「──はぁ…はぁっ! こ、これ!! ギルドから貰ったこの金は!?」
「お! ちゃーんと貰ったみたいだな!
カノルさんに感謝するんだぞ! いてっ!!」
偉そうに言うニックの頭を叩く。
ニコラスはやっぱりといった表情で、目を見開いてカノルを見つめた。面倒くさそうにカノルはため息を吐く。
「それ相応の報酬だ
ギルドの依頼なんだから働いたものは金を貰う、当然だろう?」
「しかし……俺は留めを刺しただけで、実際は何もしていない!」
「十分だろ?
オレじゃなくて、オマエがあの魔族を殺した
ただそれだけだ」
引き下がろうとしないニコラスに、カノルは諭すように言葉を繋げる。
「その金で身なりでも整えろ
少しはマシになったみたいだが、消えきらねぇその悪臭吐き気がするぞ」
「え? カノルさん僕はあんまり臭わないけど……いてっ!!」
再びニックは頭を叩かれる。
「俺は……お前に恩を返すには、どうしたら……
あ、そうだ、ガナーには及ばないかもしれないが、力仕事には自信があるんだっ!!
だから俺をパーティに──」
「断る」
「だがっ!!」
「オレのパーティに“人間”はいらない」
ピーコックの瞳に睨まれ、ニコラスはたじろぐ。14歳とは思えぬ程の目力と貫禄があった。
へなへなと力をなくすニコラスにガナーは、申し訳なさそうに口を開く。
「悪いな
彼奴は少し潔癖症で、人間に触ると蕁麻疹が起きるらしいんだ」
「あぁ…“人間嫌い”だっけか」
「それに、もうお前は“勇者”に縛られなくて良いんだ
野良人でもない
ただのニコラスなんだよ」
元気づけるようにニコラスの背中を叩き、ガナーは近くに置いてある荷物を抱えた。
カノルたちは再び足を進める。
「あ、そうだ」
ふとカノルは足を止めて、ニコラスの方へ振り向いた。
「今ギルドで急募集している依頼があったぞ
なんでも、北の森を再建するのに力仕事に自信がある奴が欲しいらしい」
「!?」
それだけ言うとカノルは背を向けて、歩を進める。
「カノル…
お前は天使の容姿の割に悪魔みたいな奴だったが……その真意は見た目通りの奴らしい」
ニコラスはカノル一行に深々と頭を下げた。
カノルたちの旅路がどうか良いものであるようにと。
──END──