ただ嘘がゆるせなかった
「――っ!!」
教室に雄叫びが響き、椅子が倒れる。
留海が里音につかみかかろうとするのを、聖良が羽交い絞めにして止める。
二人の間にいた二年生たちは廊下側の壁に身を寄せ合って逃げる。
里音は肩で息をしながら留海の怒り狂った様子を見ている。
「留海、落ち着けって!」
「ふざけるな! スカートに挟んだ? 楽器をなんだと思ってんの!?」
やがて、嗚咽がと共に留海の瞳から涙が零れ落ちる。
飛びかかる気力も失い、教室の床に座り込んで泣く彼女を、聖良が抱きとめる。
「あとは、探しに行くフリをして、優穂のケースに留海のクラリネットを入れて、見つかったと言えばいい、そう言うことだな? 深澤」
「そうです」
「ちょっと待ってください! それなら、誰にでもクラリネットを盗むことができて、私一人が犯人扱いって――」
里音の言葉が途切れる。
誰も彼女を擁護しようとしない。
同じ、音楽をやってる人間として、侮蔑のまなざしが注がれる。
「私じゃない、私のせいじゃない! 物的証拠ってやつ、なにもないじゃん!」
「たぶん、家に持ち帰ったクラリネットも元のケースに収めているだろうし、証拠は指紋とか、警察沙汰になっちゃうんですけど」
この後に及んで冷静な理世に、里音は噛み付く。
「お前みたいな部外者がしゃしゃり出てくるから悪いんだろ! いや、みんな私を貶めようって、そうなんでしょ? 新夏! あんた優穂と仲良かったよね? そうよ、みんな優穂に何か握らされたんじゃないの? 紗久乃先輩だって、優穂と同じ中学だったんでしょ? 私一人仲良い人がいなくて、窃盗犯? は? 親に言いつけてやるから! こんな学校、どうなったって私には関係ない! コンクールだって全国に行けない弱小じゃん!」
「じゃあなんで、吹奏楽部に入ったの?」
冷静で、それでいて純粋な質問だった。理世は質問を続ける。
「コンクールなんてどうでもいい、だったらなんで吹奏楽部に入ったの?」
「それは、中学の時からやってて――」
「他に居場所がなかったからじゃないの?」
刹那、里音が目の前の椅子を蹴り上げる。
二年生たちの悲鳴が上がる。
机を押しのけて歩く里音。理世の顔に平手打ちがもろに決まった。
理世は少しだけ首をかしげただけ。
だが、爪が引っかかったのか、頬に血がにじんでいる。
目はまっすぐ里音を見つめている。
「私は、ただ嘘が許せなかった。それだけだから」
それだけ言って、理世は教室を出る。




