犯人はあなたですよね
「里音、あんた――」
留海は立ち上がり、里音に歩み寄るかと思ったが、逆に一歩二歩と後ずさる。
「待ってください! アカウント複数持ちなんて、珍しいことじゃないし、先輩のクラリネット盗んだのに停学にならないなんて許せなくて」
「だったら私に言えばいいじゃないの! 盗まれたのは私! あんたは被害者じゃないでしょ? なのになんであんた一人でしゃばってるの? 一つ間違えば本当に、今年のコンクール出場停止に――」
「ヴォイシンクのほうなら大丈夫です」
新夏が大きめの声で間に割って入る。「一年の間では、里音が流した情報だってわかってる子は結構多くて。それとアカウント複数持ちってことで、嘘なんじゃないかって、それでクラリネット盗難に関しては下火になったんです」
それでもなおも留海の興奮は収まらない。
「もしかして、私のクラリネット盗んだのもあんたじゃないの?」
「それはないです! だって、私はあの時ずっと、この教室で先輩と一緒にいたじゃないですか。トイレ休憩で一度教室は出ましたけど」
「あー、なるほどね」
聖良は相変わらずのマイペースで、脚を組み直す。
「理世の確認の意味がわかった」
新夏は驚いて彼女に視線を向ける。
「マジっす?」
「金管には難しい。でも木管なら楽器によってはできるよ」
留海と里音の言い争いを一時中断させるように、理世は言う。
「盗むのって、ひったくりは別として、手に持たれていると不可能なんですよ」
「だったら、私がトイレでクラリネットから手を離したときが絶好のチャンスだったってことでしょ。でもその時には盗まれてなかった」
言いながら、留海はチラリと里音を盗み見る。
「そうなんですよ。だから、犯人は始めというか、畠山先輩が席を外した時点では、先輩のクラリネットを盗むつもりはなかったんじゃないかなって。ただ、その日たまたま優穂が委員会で来るのが遅くなると知って、当初の予定を変更したんだと思います」
「もう! はっきり犯人は誰か言ってよ!」
「そうですね、電車通学組もいることですしね」
窓の外は真っ暗。だが、雨はすでに止んだらしい。
いまだ空は暑い雲に覆われている。明日もきっと雨が降るだろう。
「犯人は――、畠山先輩?」
「何? 私の自作自演とか言わないわよね?」
「いえいえ。この場でもし、犯人が自首したら、許しますか?」
「許さないわ。絶対に」
「無事に楽器が戻ってきたのに?」
「音楽やってないあんたにはわからないかもしれないけど、私たちにとって、楽器と演奏するための自分自身の体は財産なのよ。あと、聖良が言ってた通りよ。潔癖症だから、汚い手で触られた以前に盗みなんて考える人間に触られた時点で腹立たしいの」
「そうですか……、」
理世が新夏に視線を送ると、彼女は、複雑な表情を浮かべて肩をすくめた。それは、隣に座った聖良も一緒だ。
視線を前に戻した理世はあっけなく犯人の名を告げる。
「畠山先輩のクラリネットを盗んだのは、里音さん、あなたですよね」




