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「と、まあ、あの子との出会いはこんな感じ。本当に本当に可愛かったんだから」

 暗殺者の孫は長々と聞かされた惚気話のようなものの感想を一言だけ呟いた。

「婆様、かわいそう」

「え? なんで? どこが可哀想だって言うのよ?」

「逆にどこに可哀想じゃない要素があるわけ?」

 はー、と暗殺者の孫は深々と溜息をついた。

「でも、あの子もアタシの事好きだったし、なんだかんだ言ってアタシが可愛いって言うと喜んでいたもの」

 口では否定していたけど、そこがまた可愛くて仕方なかったのよねーと暗殺者は気味の悪い笑みを浮かべた。

「婆様が好きになる要素が一個もなかった気がするんだけど……」

「時間をかけて少しずつあの子がアタシの事が好きになるようにしたのよ。いじめた分だけどろどろに甘やかして可愛がってあげたわ。それでも心を許してくれるまで3年くらいかかったけどね……あの子の体がもう少し丈夫だったら、もう少しかかったのだろうけど」

 あの女が意外なことに身体が弱いということを暗殺者が知ったのは、暗殺者があの喫茶店のバイトから帰ってきた後の話になる。

 季節の変わり目になると必ずと言っていいほど体調を崩し、寝込むのだ。

 それ以外にもちょくちょく体調を崩しては寝込んでいた。

 暗殺者はその度に彼女を甲斐甲斐しく看病した。

 本気で心配していることが彼女にも伝わったのだろう、本当に少しずつ彼女は暗殺者を信用するようになった。

「娘を……あんたの母親を生んでからさらに体調を崩すようになって……ぎりぎり10年、生きられなかった……あれでもかなり頑張っていたんだけど……」

 女の母親も身体が弱く、女を生んだあとすぐに死んでしまった。

 その話を彼女から聞かされて、胎の中の子を堕ろすかと問いかけた時に全力で殴られた事を暗殺者は思い出し苦笑する。

 あの時彼女が娘を生んでいなければ、あともう何年かは生きられたかもしれないが、その事に後悔はない。

「娘ががいたから、その後もなんとかやっていけたわ……そうじゃなかったら、多分心が完全に折れていた」

 だが、その娘ももういない。

 馬の骨の方がまだましなのではないかというような男に惚れ、その男の子供を生んでから、たった6年で彼女もこの世を去った。

 病弱なところはきっと、母親に似てしまったのだろう。

「娘にまで先立たれるとは思ってなかったから……流石にあの時は辛かったわ」

 最期の時には立ち会えなかったが、その前日、暗殺者は娘とほんの少しだけ会話を交わした。

 最期まで自分の父親が暗殺者であるという事を知らなかった彼女は、きっと夢でも見たのだろうと考えのだろうけど。

「――でも、幸せだった、って言ってたし、何かあればあんたを頼む、って言われちゃったからね」

 暗殺者は穏やかな顔でそう言った。

「――母上は、本当に幸せだった?」

 暗殺者の孫は小さく問いかけた。

 孫の目から見た彼の母親は、それほど幸せには見えなかったのだ。

 確かに彼の母親は彼の父親に深く愛されていた。

 だけど、彼の母親は後妻だった上に、夫となった男とは天と地ほどの身分の差があったから、周囲からはだいぶ疎まれていたのだ。

 結婚した時も多くの人が彼らの結婚に大反対したと聞いている。

 結婚した後も彼の母親は酷い嫌がらせを受けていたし、息子である彼自身も何度か命を狙われている。

 だから、自分の母親がそれでも幸せそうに笑っていたのは、ただの強がりなのだと、彼はそう思っていた。

 しかし彼の祖父は穏やかな笑みまま、自分の孫の言葉を肯定する。

「ええ、じゃなきゃアタシはこの国をとっくに滅ぼしてるわ」

 ――そう言われると、確かにそうだろう。

 と彼は思った、自分の祖父ならそのくらいのことはするだろう。

 ならば、自分の母親は本当に幸せだったのかもしれない、そう思って彼はほんの少しだけ救われた。

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