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 女はハッと目を覚ました。

 周囲が明るい、身体を起こしてここはどこだと見渡したところで、そこがほとんど物がない殺風景な室内であること、女はその殺風景な部屋の中にあるベッドの上に横たわっていたことに気付く。

「――目が、覚めたか」

 聞こえてきたのは低い囁き声だった。

 思いの外近くから聞こえてきたその声に、女がバッと右に振り向くと、真っ黒な服を見に纏った男が幽鬼のようにベッドの横に立っていた。

「お、お前……!!」

 女は意識を失う前のことを思い出す。

 酒飲みの父親の暴力に耐えきれずに逃げたあの夜、これからどうしようかと途方に暮れていたその時にならず者の男達に路地裏に引きずり込まれた事。

 必死に抵抗したが非力な女の力で複数の屈強な男共にかなうわけもなく、されるがままにされそうになった事。

 その時に、突如今目の前にいるこの黒い男が現れ、おそらく自分を路地裏に引きずり込んだあの男の首を切り落とした事。

 そしてその後――

 そこまで思い出して女は羞恥で顔を真っ赤にした。

「――体の具合は」

 何かの罵り声を上げようと女が口を開いたところで、男がぼそりと呟いた。

 それで調子を崩された女が思わず自分の身体に意識を向けて目を見開いた。

「あ、れ……痛くない」

 意識を失う前にあれだけ殴られたにもかかわらず、痛みが一切なかった。

 女が知る由もないが、昨晩のうちに彼女をこの部屋に運び込んだ男が施した治癒魔術によって、彼女の傷は完璧に治療されていたのだ。

 傷がなくなっている事に気付いた後、ビリビリにされた服の代わりに、おそらく男のものなのであろうブカブカの黒い服を自分が身に纏っている事にも気付き、女は再び顔を赤くする。

「……なら、いい」

 そう呟いて、男は暗い赤色の目で女の姿をじーっと観察し始めた。

 その暗い目でじーっと見つめられた女は、文句や罵倒、そして疑問の言葉を口にしようとしていたのに、それができなかった。

 蛇に睨まれた蛙のように、女の体は硬直してしまったのだ。

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