6話 魔犬
「ふぁぁぁ〜」
昨日の夜はすごかった。とにかくお互いが激しかった。
「おはようございます、八尋」
「おはようラナ」
俺の、中途半端な丁寧語は、いつの間にか無くなっていた。
ラナ自身にも、タメ語でいいよと言ったのだがそれだけ譲らなかった。
そして、俺はラナルクスを、ラナと呼ぶ。
これは、ただ単純に、ラナルクスだと長いからだ。
昨日のラナは、どこか変だった。体を洗っている時なんて特にそうだ。
突然、泣き出したり、置いていかないでなんて言ったりと。
それほど辛い過去があったのか……。
「いつまで昨日の余韻に浸っているんですか。そんなんじゃゴブリン程度に食い殺されますよ」
相変わらずの、毒舌。そのくせ、自分はポンコツときた。
「ポンコツ天使さんには、言われたくありませんね」
「言うようになりましたね」
「口に出さなかっただけですよ」
この街に来て、1週間。
この1週間は、とりあえず戦闘に慣れるために、街のすぐ近くの敵と戦ってきた。
だが、今日からは、少し遠出しようと決めていた。
「今日からですか? 」
「あぁ、そこまで遠くには行かないよ」
「とか言っておきながら、ボコボコにされたら笑いものですね」
いや、まずは心配をしてくれよ!
「あんまり調子に乗ってると、すぐにやられちゃいますからね」
「それは君に言ってあげたい言葉でもあるかな! 」
そして、いつも通り、朝食は下の食堂で食べる。
「やっぱり、ここのは美味しいな」
「それは同感です」
むしゃこらむしゃこら食べていると。
「ねぇ、昨日は何してたの? 」
────ギクリ。
純粋無垢なレベッカが、純粋無垢な瞳を俺に向けて聞いてくる。
「んー? 昨日? 何かあったかな? 」
あ、しくったかも。
「だって、なんかお部屋がうるさかったから少し覗いたら、二人で戦ってたじゃん。洋服脱いで」
あーーーー! やめてぇーー。
「レベッカ」
ラナがヘルプに入ってきてくれた。助かった。
「昨日は、八尋にずっといじめられてたの」
「……そうなの? 八尋」
バカかお前っ!! 何言ってんのほんと。
「んー? 特訓してたんだ! 戦闘の! 」
よし。これでやり過ごせるはずだ。
「特訓!? あんな夜遅くに!? 凄い! かっこいい! 」
「あ、あぁ! そーだろー! 」
とりあえず、一安心。
レベッカとは、毎朝食堂で会う。最初は恥ずかしがって、会話すらまともに出来なかったが、ご覧の通り、仲良くなった。
「ラナ……余計なこと言わないで……」
「余計なこと……ですか? 」
出た。ラナの天然。これには俺も相当苦労している。
「いーや。なんでもないよ」
「そうですか」
すると奥の方から、ズカズカとおばちゃんが近寄ってくる。
そして、俺の耳に手を当てて
「別に、お二人で何しようがしったこっちゃないが、もっと静かにしてくれ。丸聞こえさ。」
なぁぁにぃぃ? そんなにうるさかった!? あー恥ずかしい。恥ずかしい。
「すいません、おばさま。以後気を付けます」
「いいのいいの! 若い内はそのくらいがいいのよラナちゃん! 」
まともな奴は、ここにはいないのか。
「よし、そろそろ外に出る準備もあるし、戻るか」
「そうですね」
「んじゃ、お二人さん、頑張ってきなよ! 」
おばちゃんの激励を頂いて、部屋で軽く準備をし、俺らは街の外へ赴く。
いつもは、街の門を中心に半径1キロ以内で敵と戦ってきた。
だが今日からは、半径3キロでいくつもりだ。
「八尋、ここからは、気持ち切り替えましょう」
「分かってます」
軽口ばかり叩くラナでさえも、スイッチが切り替わった。
ベテラン冒険者や、中級冒険者からすると、ここの敵なんて、雑魚クラスなのかもしれないが、俺ら初心者のなりたてからして見れば、充分強敵だ。
そして、5分ほど歩くとすぐに敵と遭遇する。
敵は、魔犬。体長は俺らよりもかなり小さいが、鋭い牙と、生命力、スピードでは、敵わない。
それに、こいつらは常に5匹で行動している。
数が多いと、やはりキツい。
「ラナ、援護頼む」
「はい」
そして、戦闘が開始する。
まずは1匹、ラナの先制呪文攻撃で遠距離から倒す。
その後、ラナに近づく魔犬を倒して行く。
ラナの前に俺が立ち、飛びかかってくる魔犬をまずはしゃがみ、下から腹を剣で一突き。
同時に、俺の横を通ってラナの方へ向かった魔犬は、投げナイフで頭蓋を一撃。
ナイフを投げた隙を見て、前方から飛びかかってくる魔犬は、腹部を蹴り、横に倒れさせ、遠くで見ているボス犬らしき奴はラナのファイアで遠距離から狙撃。
最後は横に蹴った魔犬を、剣でなんとかトドメを刺し、戦闘終了。
このルーティーンでやっていくつもりだ。
だが、やはり要は、ラナの遠距離魔法と、俺の投げナイフの命中精度。
今日は、ラナの必殺技、『ポンコツ』は発揮することはなかった。戦闘中なんて、いつなにをしでかすか分からないから、ドキドキハラハラ。
俺は街に戻ってからは、ひたすらナイフを目標に当てる練習だ。
「お疲れです、八尋」
「まだ1戦しただけだけどな」
「でも、怪我が無くてよかったです」
「俺も、ラナの『ポンコツ』が発揮されなくてよかったよ」
「喧嘩売ってるんですか? 」
「あ、まてまて、また来たぞ」
「本当ですね。どれだけ飢えているのやら。発情期なんですねきっと」
「ははっ、それだけ軽口が叩けていれば上等でしょっ」
「ですね」
この日は、4戦した。
こまめに、休憩をいれながらなんとかやり抜いた。
1度、ラナが「ファイア」を「ファイラ」と、唱え間違えた時は焦った。
仕留め損なった敵は俺がなんとかカバーできたけど。
そんなこんなもありながら、合計20匹の魔犬を討伐した。
「あぁぁぁ。疲れたぁ」
「この位でへこたれては、今後体が持ちませんよ? 」
「ほんとだね、誰のせいだろうか……」
「へなちょこですね」
「うるせー! 」
「貧弱男ですね」
「やかましー! 」
「クソ野郎ですね」
「って、それは言いすぎだろ! さすがに傷付くよ!? 」
「フフっ……」
「面白くないよー、」
「いいえ、八尋が久しぶりに、八尋らしくなったので」
「え、うそ? 」
「本当です。最近は、何に悩んでいるのか、暗かったですから」
「そう……」
「なんです? また一緒に体でも洗いっこします? 」
「おっ、いいね! ヤろうヤろう! 」
「変態が……」
「え!? いまキミが言ったよね!? 」
「はぁ……」
「待って待って、それ何のため息!? おかしいって! 」
────そうして、1日1日、時はゆっくりと、しかし確実に過ぎていく。