3話 今はまだ……
「はぁ……はぁ……」
やっと、やっと着いた。
「やっと着きましたね」
はぁ。ここまでの道のりは、相当長く険しいものだった。
1度目もゴブリン遭遇から、なんとか逃げ延び、その後ミラの街へ向かう途中、案の定ゴブリンに出会った。
ここの、ゴブリン遭遇率高すぎだろ。
────
「ラナルクスさん! ファイアを! 」
「ファイアですか? 」
「はやく! 本当に殺される!! 」
「仕方ないですね」
その間も、じわりじわりとゴブリンは近付いてくる。
黄土色の、いかにも臭そうな涎をダラダラと垂らしながら。
「ちょっ、本当何してんの? 早くやってよ! 」
「すいません、魔法ってどうやったら使えるんですか? 」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!? 」
やばい。ポンコツだ。
「とりあえず、ファイアって唱えてみましょう! 」
やばい、ゴブリンがものすごく近い。その距離1メートル。
「でも少し恥ずかしいですね、厨二病みたいで」
もぉぉ。泣いちゃうよ! ほんと。
ゴブリンと俺の距離、いつ襲いかかってこられても、確実に殺される。
ラナルクスさんは、俺の3メートル程後ろに突っ立っている。
あー、もうこれダメな奴だ。結局転生したって糞な死に方は一緒だな、と諦めかけたとき。
「ファイア! 」
やっと、ラナルクスさんが呪文を唱えた
ボボボボボ……
ん? 何か嫌な予感がする。
「あ、八尋様、危ないですよ避けて下さい」
その言葉が聞こえた瞬間に、命の危険を感じ、反射的に左へ飛び転げた。
俺の数センチ横を火の玉が飛んだ。
ジュッ。と音と共に、俺の着ている学校の制服が少し焦げた。
俺の横を飛んだ火の玉は、俺の目の前にいたゴブリンの顔に見事、命中した。
俺は、地面に、ズザザァーとスライディングをした様な体制。
火の玉の、直撃を受けたゴブリンは
「グギャァラララ!!! 」と
こらまた訳の分からないことを叫び、絶命した。
顔の皮膚爛れ、目玉が真っ黒に焦げていた。
結構、えぐいなこれ。
その後は、ゴブリンとの一戦目よりかは、スムーズに倒せたのだが、命の危険を感じた場面は何度もあった。
────そして今に至るという訳だ。
「ラナルクスさん、今度俺と戦闘の特訓しましょう」
「嫌ですよ、汚れるし面倒ですし」
「そんなんじゃぁ死にますよおっ本当に! 」
「私は天使ですし、死にはしませんよ」
「もぉー……」
やばい、泣きそう。
とりあえず、街に入って寝よう。かなり疲れた。
「街に入られますか? 」
「はい、そーするつもりです」
「それでは、まずは宿屋を確保した方がいいですよ? 」
「そうですね、さすがに野宿は危ないですもんね」
「はい。私のような美人が野道で寝ていたら、食われちゃいます」
「食われる……」
「はい。食われる、です」
「そうですね」
「野蛮な男達に……です」
「その一言いりません! 」
そして、街に入り、宿屋らしき建物を見つけた。
この街は、そこまで大きな街ではなく、宿屋に飲食店のような建物、武器屋、そして民家が10軒ほど、あとはピンク色が目立つ建物が1軒あった。
ピンク色の建物、めっちゃ目立つな。
「あのピンク色の建物は、八尋様の世界で例えるなら、風俗のようなものですよ。行かれる際はお金を多めに持って行ったほうがいいですよ。あと避妊具を」
「いや、誰も聞いてませんから。……避妊具がいるんですか。俺の世界だと捕まりますよ。」
など、どうでもいい会話をしながらも宿屋らしき建物に入った。
「いらっしゃーい」
カウンターには、赤髪短髪の小太りで小柄なおばちゃんが立っていた。
ロビーには、机や椅子が幾つかあった。恐らく宿屋兼、飲み屋のような場所なんだろうなと予想がつく。
「おばちゃーん、部屋って借りれます? 」
「あんた若いね!なんだいべっぴんさん連れて夜逃げかい? 」
「いや、違いますから……」
「そうかいそうかい! 」
と、ワハハと豪快に笑い声を上げる。明るい人だ。
「何ヶ月泊まってくかい? 」
「ざっと、1ヶ月ほどいいですか? 」
「あいよー。2000ガルだね」
2000ガルか、日本円にしていくらなのか。
金はゴブリンや魔獣を何度か倒したお陰で、あるにはあるが。
「ラナルクスさん、俺の所持金で足りそうですか? 」
「今、八尋様の所持金が2600ガルですので、なんとか大丈夫そうですね」
1ガル、1円単位で差異はなさそうだな。
「おばちゃん、1ヶ月でお願いします」
「あいよー」
一ヶ月で2000円とは安すぎる。
そして、お金を渡し、部屋へ向かう。
案外安かったな。アニメ、ラノベの異世界者だと、だいたいが最初は馬小屋とか野宿だし、下手すれば、と覚悟はしていたが。
部屋に入ると、綺麗とは、お世辞にも言えないが最低限暮らしていけそうだ。
大きなベッドが一つと、机にタンス……
ん? ベッドが一つ?
そのベッドは明らかに一人用ではなかった。枕のようなものも2つあり……。
「あー、えっとラナルクスさん……? 」
「私は構いませんよ? ですがお一人で発散される際は外か、ピンクのお店でされてくださいね。汚いですから」
「あ、はい。いやいや、そーじゃなくて! 二人部屋ですけど大丈夫ですか? 」
「だから、大丈夫ですとも。それとも何でしょうか、誘ってるのでしたら、今はまだ……とだけ言っておきます」
「いや! だからそーじゃなく……って、今はまだ!? 」
「それでは、私は少し体を洗ってきますので」
はぐらかされた。
「え、え!? あ、はい。わかりました」
そうして、二人の同棲が……じゃなくて、二人の生活が本格的に始まった。