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2話 ゴブリン

「お待たせしました」


 ラナルクスさんが、扉を開けて入ってきた。

 なんとっ! おかしな、格好からメイド服に変わっているではないか。

 足には真っ白のタイツを履いている。あまりの美脚に、目が離せない。エロ過ぎだろ。


 そして、先程は目立たなかった胸も、しっかりと分かる。とても綺麗な形だ。Cだな……うん。

 露出も、案外多く、目のやり場に困ってしまう。

 

 そのメイド服で、5時間の天使のような笑顔を向けられたら、確実にニヤける自信がある。


「あの、5時間ほど待たされた事は、もうこの際気にしてませんが……その服装は? 」


「八尋様が、生前一番お好きな格好だと伺いましたので」


「え!? 伺いましたって、誰に!? 」


「守護霊様に」


「守護霊なんているの!? まじか! 」


 守護霊なんて、本当に居るんだな。こっちにきてから一番驚いたかもしれない。


「ということは、今も後ろかどっかにいらっしゃる感じですか……? 」


「いいえ、先ほどまで私と手続きやご説明を受けておりましたが、今は違うお方の守護をしに行かれましたよ」


 あ、あぁ、手続きってのはそういう事だったのか。

 てか、守護霊がいたのにあんな死に方する俺って、何なの……。


「そう、落ち込まないで下さい。ブサイクな顔がよりブサイクに見えますよ? 」


「な、何言ってんの!? あまりにも失礼過ぎない!? 」


 いや、今のは驚いた。まだ俺ら出会って5時間そこらだよね?


「クスっ……」


「え? 今……」


「笑っていません」


「いや、絶対今……」


「笑っていません」


 なんなんだこの人、さっきは俺に最高の微笑みを見せて起きながら、今はムキになっちゃって。


「それでは、本当にお待たせしました。只今から転生を開始します」


「あ、はいっ」


「……転生お願いしまーす」


 ラナルクスさんは、天井の方へ向かって声をかけた。


「あなたが、転生させる訳じゃないんですね……」


 てっきり、凄い大魔術とか、呪文でも使うのかと思った。


 すると、地面が揺れ始めた。

ゴゴゴゴゴ……ゴゴゴと。


「え、本当にこれ大丈夫ですか? 」

部屋が崩れて、潰されて死んだりしないよね? あ、俺死んでるんだった。うける。


 一瞬、頭の中が大きく揺れた────



 気付くと俺は、草原? みたいな所に寝そべっていた。


「え。ここどこ」


「ミラ草原ですね」


 っ! びっくりした。ラナルクスさんか。

 というより、本当に転生したんだな。


「というより、早くどうにかしないと、死にますよ? 」


 ラナルクスが、無機質にそう言う。


「何言ってんですかぁー、俺もう死んでますよー」

 なんて笑いながら言ったが

 そうか、もう生き返ったのか。ややっこしいな、もう。


 ラナルクスさんは目の前に立ち、無表情で俺の後方を見つめる。


「俺の後ろに何が……って。うぇえええ!? 」


 振り返ると、俺の5メートルほど後方に、ゴブリンと思わしき、小柄で臭そうな生物が4体、涎を垂らしながら俺とラナルクスさんを睨みつけていた。


 体には、薄くボロボロになった布切れを雑に巻き、手にはそれぞれ錆びきったナイフや、木の棒、動物の牙などが握られている。


 ゴブリンというと、だいたいが雑魚キャラ認定されている。

 しかし、アニメやラノベでは、ゴブリンは人間を襲い、孕ませ、食す、恐ろしい存在としても登場している。


 雑魚キャラだといって、迂闊に近づけば、すぐに死亡コースだろう。


 よし、いっしょここでいいとこ見せて、ラナルクスさんとの距離を縮めますかっ!


「ラナルクスさん! 武器をっ」


「……」


「ラナルクスさん? 聞こえてますか? 武器を下さい! 」


「……」


「ラナル……」


「ありませんよ? 」


「はい? 」


 聞き間違いだろうか。ありませんよ? と聞こえたのだが。


「武器はありません、ので、逃げたほうがいいかと」


「さきにいってよぉぉぉ〜!! 」


 俺は、回れ右をして、ゴブリンのいる方向とは逆の方向へトップスピードで走り出した。

 ラナルクスさんの横を通り過ぎる際に、手を取り一緒に逃げた。


────


「はぁっ。はぁ。はぁ。はぁっ。おえっ」


 なんとかまいたようだ。いや、かなりしつこかった。

 俺らが逃げ出した途端


「ウオエガァガァッッ!! 」

と、意味の分からない事を叫び、1キロほど追いかけてきた。


 前世の、体力不足、運動不足のさいで100メートル走れれば良い方だ、と考えていたが、転生した際に体力や運動能力などは平均値に変えられていたらしい。


 よかった。もしそうでなければ今頃、俺もラナルクスさんもゴブリンの餌になっていたところだ。


「ラナルクス、怪我は無いですか? 」


「えぇ」


 ラナルクスさんは、汗の一滴もかいておらず、服や髪の毛も全く乱れた様子がない。

 ほんとに、メイド服がお似合いで。


 少なくとも3キロは走ったつもりだったが。


「というより、見えてますよ? ミラの街が」


「ミラの街? 」


ラナルクスさんが指さす方向を見てみる。


「本当だ、街がある……」


 少し遠くに、家や建物が幾つか建っているのが見えた。さすがに人は見えないが、建物の煙突から煙がでていたり、馬車らしきものが走ってるということは、それなりに人がいるのだろう。

 だが、ここから何キロか歩かなくては行けないほどの距離はある。

 また、ゴブリンとか魔獣に会ったらどうしよう。


 ん? まてよ。

 さっきの部屋で

「この中から、サポート天使をお選び下さい」

と言われた時、


 ラナルクスさんの、写真の下には

魔法らしきものが幾つか書かれていた。


 んーと、なんだっけなぁ。

 いろんな事が起こり過ぎて、思い出すのに苦労する。

 

 あ、思い出した。『ヒール』と『ファイア』だけ思い出した。


『ヒール』は、回復魔法だとして。

 問題は次だ。


「ラナルクスさん」


「なんですか? 」


「あなた、ファイアの魔法使えますよね? 」


「はい。よくご存知で」


「さっきのゴブリン、その魔法でやっつけれましたよね? 」


「はい。確実にぶっ殺せました」


「……」


 なんなのこの人ぉぉ。もしかして電波さんなの!? 天使で電波さんってキャラ濃すぎだろ。


「次から、ゴブリンとか魔獣が来た時はその魔法でやっつけてもらっていいですか? 」


「分かりました」


 あぁ。今後が不安すぎる。

 最初はこんな素敵な人と、五ヶ月も過ごせるなんて天国か、と思っていたが。やっていけるなかぁ……。

 

 そして、俺は溜め息をつき、ミラの街へと歩みを進めた。


「……」

 

 後方でクスクスと笑い声がした事に、俺は気付かない。


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