1話 ラナルクス
とりあえず、俺の悲惨な死に様を聞き、元の世界には戻らないと決意したものの。
「あのー、異世界ってどんな所なんですかね? 」
「異世界は異世界です」
「もっと、分かりやすくいいですか……? 」
「はぁ。あなたの生きていた世界とは違う世界です」
いやっ、それは分かりますよ!? だから異世界っていうんですよね?
はぁ。この人と話してると、ものすごく疲れる。
「人間もいますよね? 」
「はい。もちろん」
俺が予想するに、異世界には魔獣やらモンスターがいる……。ラノベで読んだから分かる。
「なんか……こう、超能力というか、チート級の武器とかは頂けたりしないん……ですかね? 」
だいたい、こういう展開になると、天使とか精霊が超能力をくれたり、チート級の武器をくれたりする。
恐らくこの、無愛想な女性も、何かくれるはずだ。
あっ。今気付いた、この女性はもしや天使なのか? だから、変な格好に羽なんて生やしてるのか。
あー納得がいった。
「さっさと、手続きしましょう」
お! きたきた、ここで転生と同時に授かる、超能力や武器を選べるのか。
「やはり、楽して暮らせるお金系の能力がいいですよね〜」
「は? 」
「は? 」
は? って何ですか。は? って。
「え? 貰えるんですよね? そういう超能力的なのを」
「……何を言っているのか分かりませんが、とりあえずこの中からお選び下さい」
なんだよぉー、やっぱりあるんじゃん!
「──サポート天使を」
「はい? 」
え? 何? よく聞こえなかった、なんだって? サポート天使?
「いっぺんで理解しろよ。だから、サポート天使をお選び下さいって言ってるじゃないですか」
いやいやいやいや、そんなキレられても……。初めて聞くワード出されて、すぐに分かるわけないじゃん。
「え、ちょ、サポート天使ってなんなんですか? 」
「あー、その説明がまだでしたね」
まずは謝れよっ!
「サポート天使とは、あなたのようなクズでオタクで低能な方達が、異世界に転生した瞬間、死んだり泣き喚いて、たくさんの方にご迷惑をかけないようにするため、最低限の知識と教養を教える、いわば先生のようなものです」
「は、はぁ」
「この決まりを適用するのは、あなたが最初です」
「というとこは? 」
「先日決まりました」
「凄いタイミングで死んだんですね、俺」
「では、説明も終えましたので、サポート天使をお選び下さい」
え!? サポート天使って選べるんだ! できれば可愛くて、性格の良さそうな人にしようかな。
「それでは、こちらをご覧下さい」
そういって、天使さんから1枚の紙切れを受け渡された。
……
「あんたしかいないじゃんかよっ!! 」
しまった。キレてしまった。
でも、しょうがない。
お選び下さいとか言うから期待してたのに、目の前に居る天使さんの顔写真と、使える魔法みたいなのが数個しか書いてなかったのだから。
「だから、いったでしょう。あなたが最初の適用者だと」
「いやいや、それとこれと関係あるんですかっ!? 」
「あるに決まってるでしょう」
あ、あるんだ。ごめんなさい。
「では、私を選んで頂いた、ということで宜しいですね? 」
いや、選ぶも何も、あなたしかいないでしょう。
そうは思ったが、口には出さない。
「は、はい」
「あ、ちなみにこのサポート天使は、五ヶ月すると天界に帰りますので、五ヶ月目以降はご自分の力で生き抜いて下さいね」
「は、はぁ」
「それでは、少し手続きなどありますので少しの間、この部屋でお待ち下さい」
「わかりました」
あ、そういえば、この人の名前聞くの忘れてた。
「あ、あの、天使さん。お名前を聞いても? 」
天使さんは、少し渋った顔をしたが
「ラナルクスです、八尋様」
そう言って、ニコッと微笑み部屋を出た。
ずキューん。俺の心臓を何かが射抜いた。
めっちゃ可愛いんですけど。
その瞬間だけ、あの人が本物の天使に見えた。
あの人と異世界で、五ヶ月も暮らせるのか。
ムフ、ムフフ……
────その後、5時間ほど待たされた