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6 輪転
憶えていない……?
何を――
「ゥウウウウッ!!」
思考の泥濘にはまっていると獣のような唸り声が聴こえてきた。
「……ウニャー! ニャウ!! フシャーッ!!」
「タマか?」
我が家の番犬は猫のように鳴く。
だが、これほど何かを威嚇している鳴き声を耳にするのは初めてだった。
「ちょっと外見てくるわ」
そう言って箸を置き庭に出ようと立ち上がった。
立ち上がった、はずだった。
「え――――?」
世界が回っていた。
くるくる、クルクル。
「あっけないな。先生が造ったというから、どれほどの物かと期待していたんだが」
体は椅子に座ったままだった。
首から上にはあるべき物が無い。
まるで噴水のごとく紅い水を天井へと打ちつけている。
「……っ……ぁ」
声が出ない。
発声するための器官が付いてない。
だが、痛みは感じなかった。
なにも、感覚が、
視界が暗くなった。