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5 機械仕掛けの鼓動

 シエルさんこと謎の少女を交えて昼ご飯を食べ始める。


 波乱の予感……!


「率直に聞くけど、なんで君はここにいるの?」


 そもそも、俺の部屋に侵入することは物理的に不可能なはずだ。


 この家には――というより、この国の住宅には必ずある物が付いている。


「いえ、お昼ご飯を食べさせてくれると言うので着席したのですが……いけなかったでしょうか?」


 そう言うと立ち上がりしょんぼりするシエルさん。年下に見えるけど、医学の発達した現代では見た目年齢ほどあてにならない物はない。金さえあれば永遠の命さえ手に入ると云われているくらいだからな。


「いや、そうじゃなくて」


 ご飯の入った茶碗とフォークを手におあずけをされて涙目になるという、おかしな状況になってしまった。


「とりあえず、食べながらで良いから説明をしてほしいんだけど」


「説明れふか?」


 許可を出したら席に座ったとたん瞬く間にから揚げが口に入っている。あれ、さっきカップ麺食べたばかりだよね? そんなに飢えていたのか……。


「ああ、うん。いや、そうだな。聞くまでもないのか。沙耶が入れたんだな?」


「そだよー。なんか家の前でタマに噛みつかれてたから、ごめんなさい的な意味を込めてお招きしました」


 タマとはうちで飼っている犬のペットである。犬だけどタマ。うむ、これには理由あっての事なのだが、今はいいだろう。


「とても痛かったです。思い出すとまだ疼きます。訴えたら勝てると思うのです。ふふふ」


 おお、脅す気か!? くっ……言い返そうにも明らかにこちらが不利だ。やべぇ、俺捕まっちゃう!? 責任問題に発展しかねない話題にビクリと肩をふるわす。


「わるいかお、ダメ」


「冗談ですよ。むしろタマさんはきちんと自分の役割をこなしたに過ぎません。責められるべきは何の確認もなく人様の家の敷地に勝手に入った私の方ですから」


 なんだ冗談か。母さんグッジョブ。危うくこの子を消し去るところだったよ、社会的に。


 いやでも、不法侵入ということで実際に裁くことは可能かもしれないな。その場合はうちのタマも矢面に立たなくてはいけなくなるが、正当防衛ってことで済みそうだし?


「わかってるなら、よろしい」


 まぁ、家主の母さんが許すならそれで良いんだけどね。


 ていうか話が進まねぇ。


 一応補足しとくけど、この国の住宅には厳重なセキュリティロックがかかっているのだ。登録した住人と、住人が許可を出した者以外は玄関のドアを開ける事が出来ないようになっている。うちだと母さんと沙耶、そして俺だな。来訪者には個別に識別用の腕輪を付ける仕様だ。

 現在シエルの腕には緑色の輪っかが通されている。この色は沙耶が許可を出した時に発行されるゲスト色だ。あまり見る機会がないため、すっかり忘れていた。というか、誰かが招いたら簡単に入れてしまうあたり、わりとずさんなセキュリティだと思う。面倒だし、あとで解除しておくか。内部屋は元から家族なら誰でも出入り自由だしね。ちょっと矛盾していたのだ。まあ、うちに泥棒に入る輩もいないだろうし大丈夫だろ。夜はさすがに出入り口に鍵を掛けるけどさ。


「話は戻るが、何故君……シエル、さん? は、うちに来たんだい。俺はもちろんだが、沙耶も母さんもタマも君の知り合いってわけじゃないみたいだし。訪ねて来た理由を教えてくれないか」


 てっきり沙耶の知人だと思っていたんだが、どうやら違うらしい。

 タマの件がなければ、そもそも家の中にすら入れなかっただろうからな。


「え、私はお兄ちゃんの古い知人だって聞いたけど?」


 シエルに訊いたのに沙耶が答える。


 いや、俺にそんな友達がいないのはお前が一番知ってるだろ。古い知人なんているわけがないんだ。俺はあの事故の後、この国に来たんだから。家族友人知人……全てを失って、すぐに。

 つまり、こんな子と面識はないはずである。少なくとも、この国で新たに築いた人間関係の中には含まれていない。これまで多くの出会いと別れがあったが、全て憶えて――


 と、妹と噛み合わない話をしているとシエルさんが伏し目がちにぽつりと言葉をもらす。


「やっぱり、憶えてないんですね」


 カチカチという鼓動の音が、耳元で聴こえた気がした。


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