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3 闖入者



「……腹減った……」


 自室に戻り今日の予定を考えてはみたものの、さしてやることもない。

 それよりも問題なのが、この空腹感である。


「今、下に降りたら――絶対いじられるよなぁ。まいった。せめて冷蔵庫から何か持ってくればよかった」


 朝食が微妙に食べ足りなかった。育ち盛りだからね……逃げ帰ったのが原因だけれど。

 うーん、どうにかならないものか。


「あ。たしか昨日買ったパン、まだ残ってたよな?」


 昨夜コンビニに夜食を買いに行った時、どう考えても一度では食べられない量を買ってしまったのだ。案の定、二個ほど食べたところでギブアップして、残りは棚に仕舞ってある。まぁ、賞味期限長いやつだしね。こういう時の非常食にもなる、うん。

 言い訳をしてからパンの捜索を開始する。それにしても、新商品の魅力とは恐るべし、である。全種類買っちまったからなぁ。


「えっと……あれ」


 しかし。置いていたはずの棚からは、パンが――無くなっていた。

 え? なんで?


「おかしい。焼きそばパンは食った記憶があるけど、メロンパン……食べたっけ? おい、他のも無いぞ」


 一応、残ってはいる。……空の袋がな。


「寝てる間に食べたとか? いやいや、ありえないだろ」


 もしかして沙耶が? それとも、母さんが……?


「それはないな」


 機巧人形はマスターの私物に許可無く触れない。それ以前に食事をするのは可能だが、あくまで補助的なものなので基本的に動力源は内蔵バッテリーから供給される電力である。非常時ならいざ知らず、先ほどまでの様子だとエネルギーが枯渇している感じには見えなかった。ちゃんと朝ご飯食べていたしな。俺を起こしに来たついでに沙耶がパンをつまんでいった可能性も考えられなくはないが、先の件もあり疑うのは無理があるだろう。


 じゃあ、いったい誰が。


「――――ま、いっか。カップ麺食べよう」


 空腹で頭が回らないのさ。うん。そういうことにしておこう。深夜に寝ぼけて俺が食べたんだよ、きっと。それにしては空腹だけれど。


「えっと、水を注いで電源を……」


 買い置きしておいたペットボトルの水を湯沸しポットに注ぎ、電源を入れる。

 いやはや便利だ。スイッチ一つですぐにお湯が沸く時代、最高である。いや、薪で火をおこしたりはしたことないけれどね。あれは大変だったと近所のご老人たちが懐かしんでいたからさ。なんにせよ、現在ではこれが普通なのだから技術の進歩とはめざましいものだ。自分の家族が機械仕掛けなのは気にしない方向で。

 パチンッという音がしてポットのスイッチがオフになる。お湯が沸いたみたいだ。さっそくカップ麺の容器に注いでフタをする。

 三分後、時間通りに出来上がった。


「やっぱりカレー味だよねカップ麺といえば! ひゃっふぅ!!」


 フタを開けて割り箸でグルグルとかき回すと、香辛料の良い匂いがしてくる。

 これはテンションが上がるな。これ、最後の一個だったし、また買い溜めしておかなきゃ。食べたい時に在庫が切れていると悲しい気持ちになるからね。売っている店はここから近いけれど、天気の悪い日とかは外に出たくないし? ま、腐るもんでもないしな。期限はあるみたいだが、それが過ぎるまで食べずに残っているなんてこともないだろう。


「それじゃ、いただきます……ん?」


 さて食べようと口を開けた瞬間、奇妙な音が聴こえることに気が付いた。


 グー、グキュル! きゅるきゅる……ドス。


『はわわわ……ッ!? 鳴り止むですよ、私のお腹――っ!!』


「………………」


 なんだろう。さっきからちょっと可愛い音と共に痛そうな音が聞こえてくる。

 あ、良い所に入ったな今の!


 よく見るとクローゼットの前にパンくずが落ちている。

 比較的大きな塊を拾って匂いを嗅ぐと――バターと砂糖の混ざったような甘い香りがした。って、これメロンパンじゃねーか!


 ってことは、犯人はこの部屋の中にいる! 音で判明してるからあらためて推理する必要ない! 空腹で思考能力が落ちているのかも。


「聞いてるこっちが痛いから出て来い」


 なんか上手い台詞が出て来なかったから普通に扉を開けてみることにした。

 ここで焦らして気付かないフリをしてみてもいいのだが、いい感じのボディブローの音が断続的に聴こえてくるので早めに終わらしてあげた方が賢明である。ほら『ぐふッ』とか聴こえ――大丈夫か? 静かになったけど……。あれ?


 扉を開くと、そこには女の子がぐったりとしていた。うわぁ……死んでないよな? ああ、大丈夫そうだ。

 そんな戸惑いの視線を向ける俺に対し、女の子は


「――――――ぁ!」


 やらかしてしまったという、絶望の顔をしていた。

 眦に涙を浮かべ、お腹をおさえている。それは痛みか、空腹なのか、どっちだ。


「あ、あの。えっと、その」


「はぁ……とりあえず、食え。話はそれからだ」


 持っていたままだったカップ麺を手渡す。しかたないだろう? こんな状況で目の前で見せつけながら俺に食えとでも言うのか。

 新しく作り直せば済む話――あ、もう無いんだった。返しては、くれないよね。ぐすん。たんとお食べ……。


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