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15 観光案内

「朝ですよー? 起きてくださいー!」

「聞こえない。俺は寝てる」

 朝、目が覚めると誰もいなかった。目覚ましが鳴るよりも早く起きたのが久しぶりだったので、アラームのボタンをオフにしてからもう一度寝た。


「起きてるじゃないですか!?」

 オフにしたのに鳴るとは……壊れているのだろうか、この目覚まし時計は。

「……ぐぅ」

 音が聴こえないように布団の中に時計を引き込む。二度寝の邪魔をされてたまるか。

「ちょ……んきゅー」

 なんか暖かいなこれ。良い匂いもする。快眠機能が付いた目覚ましなんて置いてたっけ?

 おお、バイブレーションまでするぞ? あ、いて。なんか頭に衝撃が来る。ペシペシと力ない動きをするなんて起こそうとしているのか? しかし、負けんぞ。俺はもっと寝るのだ。


「起きてくださいぃ……きょーまぁ……」

「……………………え?」


 あまりにしつこいアラームに耐えかねて目を開けると、そこには女の子がいた。


「朝からこういうのはダメですぅ……それに、もっと親密になってからすることだと思います……いえ、キョーマがどうしてもと望むならやぶさかではありませんが!」

「ごめん。起きた! そして、すいません! 寝ぼけてました!!」

 飛び起きて床に正座する。

 ベッドの上には服が乱れた見知らぬ少女がいた。あ、いや。知ってるわ。シエルさんだこれ!


「寝ぼけてたなら仕方ありませんね」

 服を直しつつシエルは俺をジトっとした目で見てくる。

 ほんとすみません。今後気をつけます。

「朝ご飯出来てますから、着替えたら降りてきてください」

「……朝食はシエルが作ったのか?」

「はい。あまり手の凝った物ではありませんが、栄養バランスを考えて作りましたので――嫌いな物とかありましたか?」

「いや、ないよ。楽しみだな、シエルのご飯」

「あんまり期待されても困ります」

 そういいながらも照れてる顔が可愛い。


 シエルが先に部屋を出て行ったあと、着替えを済ませて一階に降りる。


「おはよー、お兄ちゃん」

 先に食べ始めていた沙耶が声をかけてきた。

「んー、おはよう沙耶。と、母さーん! フォークってどこだっけー?」

 テーブルを通り過ぎてキッチンにある食器棚へ向かう。

「右から二ばんめ」

 お、あった。普段入らない場所だから、訊かないとわからないんだよな。

 目的の物を手に入れて、朝食の待つテーブルへと戻る。

「ほい、シエル」

「はい? どうしてです?」

 俺が持ってきた物、フォークを渡されてシエルは疑問符を浮かべる。説明が必要なことだろうか。

「いや、箸だと食べづらいだろ。慣れない物を無理して使わなくたって良いと俺は思うぞ」

「うぅ、ありがとうございます。たしかに困ってました。まさか、お箸がこんなに難しい物だとは思わなくて……」

 それにしても変だな。この状況なら母さんあたりがちゃんと打開策を出すはずなのだが。

「甘やかしちゃ、だめ」

 あ、そういう教育方針なのね。

「今日だけ特別ってことで。ていうか、ずいぶんと豪勢な朝メシだな」

 テーブルには鮭のムニエルとベーコンや玉ねぎの入ったコンソメスープ。そして、レタスやブロッコリーに粉チーズとドレッシングをかけたサラダがあった。もちろん主食はごはんである。朝は白米派なんで、これは譲れない。

「いただきます」

 早速席に着いて食べ始める。

「どうですか?」

「美味い。そして、ありがとう」

「わ、わー!? なんで涙流してるんですかー!?」

「いや、感動して。魚が素焼き以外で出てきたことなんて無いし、汁物は普段は出汁入り味噌をお湯で溶いただけの物だし……サラダは野菜を手で千切ったのを盛ったやつ……あ、俺今日死ぬのかな? 最期の朝食的な?」

 ここ最近では朝は目玉焼きオンリーだったりもしてた。昼、夜には揚げ物とか作るけどね。ただし、市販の味付け粉をつけて揚げるだけなので調理と呼べるか疑問が残るが。

「死ぬ前に、いっぱい食べよう」

 母さんはもうやめといた方がいいよ。四杯目だよねそれ……

「まったく、大げさだよお兄ちゃんは。あ、トマトもらうね」

「いいぞー。代わりにシメジを少しくれ」

 サラダの端にあったミニトマトとムニエルに乗っていたシメジを交換する。

「えへへ……」

「どうしたのシエルさん? そんなに嬉しいことあった?」

 唐突に笑い出したシエルに対して沙耶が疑問を問う。まあ、聞かなくてもなんとなくわかるけどさ。

「いえ……幸せだなぁって。昔、両親が生きてた頃こんな感じだったのを思い出してました。先生にも手料理を作ってあげた事あるんですが、あの人は食べられれば何でも良いそうで……やっぱり、こんな風に喜んでもらえると嬉しいですね」

 わりと重い話だった。


「ごちそうさまでした」

 食べ終わったので食器を片付けつつ今日の事をシエルに言ってみる。

「シエル、今日は予定とかあるか?」

「いえ? 特にこれといってありませんが。ああ、出来れば街の方に行きたいですね。こちらの国で使われてる食材とかチェックしたいですし」

 ふむ。それは都合がいい。良すぎてビックリするくらいな返事だよほんと。

「それじゃ、今日はデートをしよう」

「え」

「息子、どちょっきゅう」

「はひ! でーと、ですか?」

「うん。まあ、デート……ていっても、街を案内しようって昨日決めてただけだから。そんなに期待されても困る」

「みんなと行くんです?」

「いや……二人で行きたいんだけど、駄目か? どうしてもっていうなら沙耶に付いてきてもらうけど」

「いえいえ! 二人がいいです! 二人っきりで……デートかぁ。ふふふ」

 そんなにデレられる程仲良くなった覚えはないんだが。

「マスター、私はいらないのですか? 私も行きたい」

 沙耶が少し寂しそうに言ってきたので、頭の上に手を置いてクシャクシャとしてやる。

「ごめんな、沙耶。留守番を頼む――聞かなきゃいけないことがあるから」

 後半の声は沙耶だけに聴こえるように呟いた。

「わかった! お土産よろしくね、お兄ちゃん!!」

「りょーかい。夜には戻って来るから。何か困ったことがあったら端末に連絡くれ」

 ここ数年では離れた相手と連絡を取れるようにするペット端末が一般に普及している。一昔前に人気があった携帯電話とかいうのと機能的には変わらないだろう。違う点といえば、こちらは体にデバイスを埋め込んで必要な時に操作画面を表示するところだろうか。それと、大きい添付ファイルの受け渡しには別途外部デバイスが必要である。まだ発展途上なわけだが、用途を限定すれば便利だと思う。




「で、さっそく迷子になったわけだ」

「え? そうなんですか?」

 遭難です。とは言わないことにしよう。

「シエル、君って方向音痴なんだな。それも周りまで巻き込むタイプの……」

 準備が出来た俺たちは意気揚々と家を出た。

 それから街の近くまで行く市営バスに乗り、到着した後停留所から徒歩で街のショッピングモールを目指していたのだが……シエルが突然何かを追うように走り出した。当然追いかける俺。そして、今に至る――と。

 何かとは、まあ、現在シエルが腕に抱いている小動物なのだが。

「にゃーん。にゃ? にゃー! ふへへ……え? 何か言いましたかキョーマ」

「猫ならうちにもいるだろ。その子は飼いませんからね」

「わかってますよぅ。ん、あれ? キョーマの家にいるのは犬じゃないんですか?」

「犬だけど猫なんだよタマさんは」

「はぁ……あ、バイバイみーちゃん」

 シエルは抱いていた猫を降ろし見送る。

 さて、これからどうしようか。


「到着したぜ……」

 まぁ、結論からいえば普通に目的地に着いた。

「便利ですねーマップ機能。これなら私も失くさなかったのに」

 埋め込み型ペットデバイスの機能にマップ作成という物がある。これは起動地点から通ってきた道を記録するだけの簡単な機能なのだが、迷子の抑制には効果絶大だ。なんせマップを見ながら逆に戻ればスタート地点に帰れるのだから。

 だが、まさか迷った地点が目的地とは正反対の場所とは思わなかった。おかげで戻るのに大変でとても疲れましたー。

「ああ、うん。そうだね」

 それ以前にマップが使えるのこの国限定なんだよね。権利の関係らしくて外国に行くと自分がいる座標情報が手に入らない。そうしておかないと簡単に他国の正確な地図が作れちゃうから仕方ないともいえる。

 平和な世界ならともかく、この国だって他国と戦争中だ。昔と違って人間同士で命を取り合っていないだけましかもしれんが――

「キョーマ、大丈夫ですか? 少し顔色が」

「ん? 平気だよ。それより、まずはどこから行こうか」

 一瞬あの時の事を思い出しそうになるが、思考を切り替える。

 考えたってしかたない、生きてるという今を楽しもう。


「おお! でっかいウサギです! あ、私も貰えますかねアレ!」

 モールの入り口で風船を配ってるウサギの着ぐるみにシエルは突撃していく。

「あんまり走るなよー」

 あ、こけてダイブしやがった! ウサギはくの字に折れた! 反応が無い、屍のようだ。

 だが、風船は手放さない。プロだ。


 一つだけ赤い風船を貰ったシエルが戻ってきた。

「えへへ。頭撫でてもらっちゃいました」

 あれはギブアップの表現だと思うよ。冗談抜きでドゴォとか聴こえてきたから。

「よかったな。ウサギさんよ安らかに……」

「死んでねぇッスよ? 勝手に殺すなし」

「え?」

 声に驚き後ろを振り返る。誰もいない。

「まったく。私のこのわがままボディじゃなきゃ受け止めきれないところでしたッスよ? 田中さんだったら確実に殺られてた威力、マジ勘弁ッス」

「あ、ウサギさん! さっきはごめんなさい」

「気にするなし。お嬢ちゃんくらいの子にはよく猛烈アタックされるんで、来ると思ってたッス。構えてれば力を完全に受け流すくらいわけないッスよ? 痛くなかったっしょ?」

 視線をシエルの方に戻すと……隣にピンク色のウサギがいた。

「はい。どこも怪我してません! ウサギさん、ありがとう!」

 そういってウサギにむぎゅぅっと抱きつくシエル。

「ははは。照れちゃいまスね! っと、何かこの子力強くね? あああ、折れ、痛ぇ……ぬぉおお」

 悶絶してるウサギの着ぐるみ。とてもシュールだ。

「シエル、ストップ! ウサギの中の人が苦しんでるから」

 慌ててシエルを制止する。どうにもシエルは周りの事を考えない行動が多くて仕方ない。

「あ、すみません」

「ぜぇ、はー……くくく、このくらいどうってことねぇッス……あ、中の人とか言うなし少年! 私は愛と正義を守るウサギの天使、ウサリーネだピョン! 決して中の人などいないのだ、これが本当の姿ッスから」

 そもそも着ぐるみって喋っちゃ駄目なんじゃないのか。ほら、近くにいるチビッ子が訝しんだ目で見てるぞ。あーあ、ママのところに泣きながら駆けて行ってるよ。かわいそうに……夢を壊されて悪い大人にならないといいが。

「あ、田中さん。どうしたんすか?」

 と、考えてたらウサギが増えていた。青色でピンクのより少し背が低い。

「え? サボってねぇッスよ!? ちょっと休憩っていうか……んあー、首根っこ掴むなしーーー」

「ウサギさん、ばいばーい」

「あいるびーばっくッスー」

 ピンクのウサギの着ぐるみは連行されていった。青いウサギの中身は田中さんというらしい。戻って来なくていいよ、仕事してろ。


 とまぁ、こんな感じで色々ありつつもショッピングモール――商店街を歩いて行く。


「ふむ。こんな野菜見たことありませんね……とっても大きくて太いです」

 野菜売り場で茄子を手にシエルが考え込む。うん、意味深な発言はやめようね?

「こっちは……手触りが独特ですね! デコボコしてますけど、気持ち良いです」

 ゴーヤね。苦いんだよねそれ、嫌いじゃないけど。

「苦いけど、癖になる味ですね! 調理次第ではもう少し苦味を抑えられそうです」

「ああ、そうなんだ? うーん……やっぱ苦いなこれ。たしかに苦味さえどうにかなれば美味いかもしれないな」

「その苦味が美味しいんですけどね。もう少し大人になったらわかりますよ……あ、いらっしゃいませー」

 そんなもんかね。と、試食コーナーで売り出し中の野菜を焼いているお姉さんのぼやきを聞いて思う。

 苦い物は苦い。それを美味いと思えるにはまだまだ時間がかかりそうだ。


 一通り食品コーナーを巡り、試食品で腹が満たされたところで次の目的地に向かう。


「次は何処に行くんです?」

「うーん。あった、ここだよここ」

 シエルを連れて俺が向かったのは一軒の服屋。そう――シエルの服を買いに来たのだ!

「あー……そういえば、着替えありませんでした私。でも、沙耶さんが貸してくれるって言ってましたよ? 今着てるのもそうですし」

「いや、それでも良いんだけど……微妙にサイズが合ってないよな、それ」

 沙耶の方がシエルより少しだけ体が大きい。そのせいか服も緩そうで子供が大人の服を無理して着ている感じになってしまっていた。いや、それも可愛いんだけどさ。

「ですねぇ。特に胸元とかぶかぶかで――これについては今後の成長に期待してもらえると」

「え、あ、はい」

 店内に入るとセット物の服を着たマネキンが何体か目に付く。

「こういうの似合いそうだけど、どうだ?」

 その内の一体が着た白いワンピースを指差してシエルに訊く。完全に俺の趣味だけど、清楚な雰囲気が好きなので一応ね。

「いいですね。動きやすそうですし……って、たかーっ!? 何ですかこの値段!? こんな布着れ一枚に強気過ぎませんかこのお店!」

「え? こんなもんだろ、女物の服って」

 少なくとも俺が着ている服よりも何倍もする値段ではない。商店街にあるだけあって、庶民向けのお財布に優しい価格なのだが。沙耶の服だってここで買った物だし。

「そうなのですか? でも、高い……それに、今気付いたんですが……服を買うお金、無いです」

 今更じゃないかそれ。気付いてなかったのか。

「心配しなくても金ならあるぞ? 今回俺がシエルを連れて来たのはここに来るのが目的だったりもするしな。気にせず好きなのを選んでくれ」

「えっと……良いんですか? そのお金ってキョーマたちの生活費に支給されてるやつなのに」

 そうだな。たしかに我が家には国から生活費が支給されている。でも、その金は大人たちの都合から仕方なく受け取っている物で……無くても困りはしない。

「ああ、言ってなかったっけ。俺の両親、すごい金持ちだったみたいでさ。遺産が使いきれないくらいあるんだよね」

 家族は失ったが、残った物もある。それが、温もりもない金の山というのは悲しい限りだが。

「それにさ、俺の仕事で稼いだ金もあるし……基本的にはそれで生活して、足りない分を遺産から切り崩してるってのが現状だよ。支給金は使うと明細の提出が面倒だしね」

「はぁ。ていうか、キョーマは仕事してたんですね? 若いのにすごいです。どんな仕事をしてるのですか?」

「んー、簡単に言えばペット関係かな? まあ、今度暇な時に教えるよ。そんなわけで、これとかどうかなー」

 質問攻めになりそうだったので、話しを変えて服選びに戻るとしよう。


 で、今後必要になりそうな服を一通り揃えた。


「キョーマは白が好きなんですね」

「うん。淡い感じの色にワンポイント的な装飾が付いてるとグッとくるかな」

 ……なんで下着まで俺が選んでるんだい?

 恥ずかしくないのかね。訊かれて素直に答える俺もあれだが。

「ふへへ。それならこれでキョーマもイチコロですね!」

 ビローンと白いパンツを広げるシエル。くそう、良いデザインじゃないか。ああでも周りの視線が痛いっ!

「お、おう」

 もうおうち帰りたい……


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