1 序幕
「――これより移植手術を開始する」
「………………」
「安心しろ、お前は私が救ってみせる。失敗するかもしれんがな」
声を出したくても出せなかった。
いや、それ以前に。体が一切動かないのは何故なんだろうか。
「先生、急がないと患者の体が持ちません。心臓はもちろんですが、腕と脚も再建しないといけないんですから冗談を言っている暇はありませんよ」
眼球だけはかろうじて反応した。半分塞がった視界の端に女の子がいる姿を捉え、少し安堵する。
明るい茶色でウェーブのかかった髪をした可愛らしい子だ。歳は僕と同じくらいだと思う。内容まではわからないが、その子はもう一人の人物に話しかけているようだ。
「わかっているさ。しかし、焦っても結果は変わらないだろう? この私がここに居た時点で、こいつは助かっているようなものなんだからさ」
「はぁ……その自信はいったいどこから来るのでしょうか。先ほどご自分でも仰っていましたが、失敗する可能性だってあるんですよ?」
「はは。むしろ、成功した方が私にとっては不運なくらいだ。なんでこんな物を見つけるかねぇ」
まるで助けるのが不本意だという声色で肩を竦める。
明かりに照らされ、逆光により姿はハッキリとは見えない。だけど、声は女の人だと思う。
「そうですね。成功したら先生はめでたく犯罪者の仲間入りです。それに……助手としてここにいる私も、同じく」
「嫌なら逃げてもいいんだぜ? 一人でも何とかなるし」
「先生はドジなので私がいないとダメです。たとえ犯罪者になろうとも、この子を救うと先生が仰るなら私はそれを手伝います」
「そうか。ま、お前がそれでいいなら止めはしない。実際、助手がいるといないとでは大違いだからな。助かるよ」
先生と呼ばれる女の人は話しながらも手を動かしている。
さっきからグチュグチュと肉をかき混ぜるような音が聴こえているが、あいにくと首から下は見ることが出来なかった。
鎖骨の上辺りに台が置かれ、そこからシートが広がっているため視界に入れるのが物理的に無理なのだ。
「それにしても、なんでこれで生きてるのかね少年?」
女の人が首を傾げながら僕に問う。
「両腕と両脚、右眼に……心臓。まるで片目だけ書かれた達磨みたいな状態で生命活動を維持しているとか不思議でならん。お前さんは本当に人なのか疑わしいな。中身はちゃんと赤い血肉が入っているようだが。あ、やべ。血管切れてる、こっちと繋いどくか」
ああ。体は動かないんじゃなくて、動かせる部分が無いのか。どうやら頭と胴体以外は失ってしまったらしい。
そんな状態でも痛みを感じないのは、きっと麻酔が効いているせいだと思いたい。
「………………」
口は動くのに、声はやはり出せなかった。
「先生? 左手と右手が逆に付いてますよ」
「おっと、いけね。すまんすまん」
……助手の女の子がいてくれて良かった。あやうく左右逆の手で人生を送るはめになるところだったみたい。
「よし。最後に――――」
体に何か熱い物が入って来る感覚がしたあと、僕の意識は暗闇に落ちていった。