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俺の人生最後の日(1)


転生したら○○になってた、とか巻き込まれてRPG系の別人になってたとか最近そういうの結構流行ってるよな。

最初は何が何だか分からなくて焦るけど、持ち前のスキルでなんとか状況を打破していって気付けば周りに仲間が出来て、更には可愛いヒロインが…というそんな主人公には正直憧れを抱く。

みんなそうだよな、一度は体験して見たいからこそそんな話を創作者は作ったり、それに共感した読者視聴者のお客様は作品を楽しむわけだ。

俺もそんな夢見る読者視聴者の一人だった。無いとは思うけど体験してみたいと思った事もあった。


だが、今の俺は本気で異世界に転移したり何かに転成したりできないか祈らずにはいられない。本当にそんなファンタジーな主人公になれたならば、こんな状況に悩まずに済んだのに。


少し離れた位置に転がる自転車の無残に折れたペダルとグニャグニャに変形した(かご)…そして、黒い頭から赤い液体を垂れ流す自分の遺体(いたい)を眺めながら。

俺はそんな夢物語にならないかを切望し、透けた自分の今の身体から目を逸らしていた。





「ラスト・レイジング2D字幕版、21時50分の回二名様ですね。本日はレディース・デーとなっております。お連れの方は女性の方ですか?」

「いや、男です。」

「かしこまりました。では、レイトショーで二名様お取りさせて頂きます。指定席となりますのでお席をご案内させて頂きます。」


働いてもう一年になる映画館でのチケット販売案内のセリフをスルスルと言い上げる。若干ぼぅっとしながら、だ。

チラリと発券用PCの時間を見ると21時45分を表示している。

おお、いやだ。早く帰りたい。

そう心で呟きながら手はしっかり動いているのは仕事に慣れてきている証拠だと、我ながら喜ばしい。


お客は20代後半くらいの男で、俺より少し年上のようだ。まあ人は見かけによらないとも言うから、俺と同い年だったり、はたまた30代だったりするかもしれない。この時間だから会社の帰りだろう。羨ましい事だ。

指定スクリーンの見開き表をお客の前に差し出す。


「こちらが入口でこちらがスクリーン側となりますが、ご希望のお席はありますか?」


PCを見れば席はスカスカ。入ってるのは…1人だけ。

まあ閑散期(かんさんき)の夜なんてこんなもんか。

すると男は携帯を見て、難しそうな顔をする。


「あー…連れがちょっと目が悪いみたいなんスけど。あと、出来れば通路側が良いって」

「かしこまりました。では、真ん中より少し前の高さの列の通路側をお取りします。入口側付近のこの席でいかがでしょうか?」


男の要望に近い席の位置を表を指して提案する。

男はそれを見るでもなく財布を取り出し始めた。


「じゃあそれで。」

「ありがとうございます。では、レイトショーですので二名様合わせて2400円お願い致します。当劇場のカードもありましたらご提示下さい。」



閑散期は大体閉めは一人だ。寧ろ一人で充分すぎる。

今の季節は冬の足音近づく秋の頃だが、昼はまだ生温い暖かさを残すという絶妙に微妙な時期である。しかし真っ暗な外には寒い風が吹いていて、自身の身体を刺してくるであろうことは想像するに足ることは明白な程すき間風が音を鳴らしていた。

早く帰りたいけど、ここを出るのもしんどそうだな…。


「お疲れ様でした。お先に失礼します。」

「はい、お疲れ様でした〜。」


バイトの上司に挨拶して帰り支度を整え、外に出た。

外は予想通り寒くて死にそうだが、帰りに卵を買って帰らねば。もう冷蔵庫には一個も無かったはずだ。


「頑張って行くか…」



24時間営業のスーパーが近くにあって本当に助かっている。俺は籠に卵の入った袋を入れて自転車に(またが)った。


もう真っ暗になっている空に星がポツポツ見える。真っ直ぐな道からY字交差点が見えてくると、運が悪い事に渡る予定の道は赤だった仕方なく反対側の青の信号に進行方向を取った。


これが間違いだった。



対向車線の車は俺に気づいていなかったのだろうか。いなかったんだろうなぁ…俺はそのまま車とぶつかり、腕と脚に痛みと衝撃が襲ってきた。最後に頭を(したた)かコンクリ道路に叩きつけてフィニッシュ。

ぼぅっとする意識の中、俺は籠の中の袋が黄色く染まっているのを眺めて呟いた。




「た、卵…」




はい。これが俺の人生終了最後の言葉。

最悪だね。


ここで俺の身体から意識が切れてしまったんだが、ここからが本題だ。俺は目がすぐに覚めた。


「……う、………っ今車、引かれ、て…………ヒッ!!」


俺の身体の上で、な。


俺は混乱した。凄く混乱した。ここにある頭血みどろの冴えない黒髪の男は俺だ。いつもの変わり映えしない黒のジャンパーを着ているし、少し破けてしまってはいるものの、いつもの紺のジーンズを身に着けている。間違いなく、俺のハズだ。

じゃあ今この俺を見てる俺は何だ?

ふと足元を見てみると、足が、透けていた。

今のは見間違いだ、そうだ。絶対にそうだ。

言い聞かせてもう一度見るも、希望は裏切られて硬いコンクリートが映るだけだった。

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