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短編集  作者: 山芋娘
21/24

私から。僕から。

4000字はいかないですが、久々の300字以外の短編です。


恋愛ものです。

 ーーもう、これで終わりにしないといけないと、思っている。分かっているけど、やっぱり好きだから……。ーー




  まだ雪は降らない休日の昼下がり。唯は大学時代で仲の良かった一子とともに、ファーストフード店に来ていた。

「はぁ……」

「まぁさ、朝陽くんも男の子だしさ」

「そうだけど……。やっぱり、五年も付き合ってて、浮気されたことなんてないし……」

「朝陽くん、自分から行けるタイプじゃないしね。告ったの、唯からでしょ?」

「うん」

「迫られたのかな? 断れるようなタイプにも見えない」

「……はぁ。もう、ダメなのかな」

  ズーッと飲み物を飲みきると、机に突っ伏す。「まぁまぁ」と、肩を叩かれるも慰めにならない。

  スマホを取り出し、ロック画面を見つめる。唯と朝陽が写る写真。

  お揃いでロック画面にしているが、もしかしたら朝陽の方はもう変えているかもしれない。ーーそんなことを考えていると、涙が込み上げてくる。

「唯?」

「別れたくない……」

「別れなきゃいいじゃん」

「でも、朝陽はもう私のこと好きじゃなかったら、付き合ってるの辛いよ。きっと」

「そうかな? 嫌なら言ってきそうだけど……。でも、朝陽くんだからな」

「はぁ……」

「まぁ、今日はパーッと遊ぼう! 明後日からまた仕事なんだから、今はストレス発散したい!」

「……私も」

  二人は、ファーストフード店を出ると、カラオケ店へと入っていった。





 ーー朝陽と出会ったのは、大学のサークル。第一印象は、頼りない子。誰かに何かを指示されないと、動けない子だった。私は、そんな朝陽が可愛いくて守りたい、なんて思ってもいた。

  それから二年、ただのサークル仲間だったけれど、思い切って告白した。そしたら朝陽は顔を真っ赤にして、頷いてくれた。

  デートの誘いも私から。告白も私から。キスも私から。何もかも私から。だから、別れるのも私から……。ーー唯は一子と遊んだ後、家でスマホに入っている写真を漁りながら、考えていた。

「はぁ……。来週の土曜日で、五年目なのに……」

  メッセージ欄を開いてみる。

  最近、メッセージを送っても、返ってくるのが遅くなった。仕事で忙しいと言っているけど……。ーー唯はもう飽きられたのかと思い、もう諦めかけていた。

「最後に、別れる前に思い出作って、別れよ……。朝陽には幸せになってほしいし」

  そして「来週の土曜日、遊びに行こう」とメッセージを送る。

  そのまま、一子とは別の大学の友達から送られてきたメッセージを読む。そこには、見知らぬ女の人と仲良く歩いている朝陽の写真。

  朝陽は身長が低いため、その女性を見上げる形で話しているのが分かる。

「こういう人が、好みなのか……」

  まるでモデルのようなスタイル。顔は、はっきり見えないが、きっと綺麗なんだろうと、思いながらメッセージを閉じた。

  その日も、朝陽からのメッセージはすぐには返ってこなかった。





  そして、土曜日。

  とうとう来てしまった。ーー唯は今日のことを考えすぎたせいで、あまり眠れなかったのだ。いつもよりクマが酷く出てしまっている。

「はぁ……。まだ時間あるし、化粧を丁寧にやらなきゃ。最後なんだから、いい顔していかなきゃね!」

  気合いを入れるが、まずは朝ごはんを食べ始め、なんとか気を落ち着かせようとしていた。

  刻刻と時間が迫ってくる。初めてのデートの時のように、緊張し過ぎて集合場所に時間より三十分も早く来てしまっていた。

  何度も何度も、腕時計を見てしまう。こうやっている時ほど、時間が経つのはとても遅い。

  唯は一度深呼吸すると、空を見上げる。どんよりと雲がどこまでも広がる空。もしかしたら、雪が降るかもしれない、と思ったが傘を忘れたことに気が付いた。

「まぁ、何処かで買えばいいか」

  いつもなら、やらない失敗。折りたたみの傘はいつも持っているのに、やはり緊張が強いらしい。

  はぁ……。と、一度ため息を吐いていると、こちらに走ってくる朝陽が目に映った。

「唯ちゃーん!」

  ブンブンと大きく手を振りながら、走ってくる。いつものように、お尻から尻尾が見えるようだった。

  そんな姿を見て、もう会えなくなると考えると、涙がこみ上げてきた。「ダメダメ。泣いたら!ダメ!」と、自分自身に言い聞かせ、朝陽に手を振り返す。

「お待たせ! ごめんね、遅くなって」

「大丈夫だよ」

「こんな寒いのに、待たせるなんて、本当に……」

「大丈夫だって! それより、早く行こう」

「うん! まずは水族館!」

「うん……。いつも通り」

「あはは」

  朝陽は唯の手を取ると、歩き出す。同じくらいの身長とはいえ、やはり男である。大きな手は唯の手を優しく包み込んでくれる。

  いつもの水族館。いつものカフェ。いつもの道。もちろん、全く違うデートコースを行くこともあるけれど、安心した所へ行くのが二人は好きだった。





  四時も過ぎた頃。遊園地へとやったきた。辺りはもう暗くなってきている。観覧車のライトアップは始まっていた。

「うわー!」と、二人の声が重なる。四捨五入すると、二人とも三十歳になるのだが、いまでもこのような風景を見ると、子どものようになる。

「綺麗……」

「……うん」

  ギュッと手を握る。二人の吐く息は白く色付く。けれど、それもすぐに消えてしまう。

  こんなに長く居られるのも、奇跡なのかもしれない。ーー唯はちらっと朝陽の様子を伺う。

  キラキラとした瞳で観覧車を見つめている。しかし、寒いせいなのか、顔を真っ赤にしている。

  これで終わりにしよう。ーー唯は愛おしい目で朝陽を見ると、小さく息を吐く。

  言葉を発しようとした時、朝陽がいつもより強く手を握ってきていた。それに少し汗ばんでいる。

「……あの、さ。唯ちゃん」

「……な、に?」

  あぁ、朝陽から言われてしまう。ーーそう思ったが、唯は朝陽の言葉を受け入れようと、手を握り返した。

  すると、朝陽が唯と向かい合う。

「あの、ね……。唯ちゃん、その、あの……」

「うん」

「ぼく、と」

「……うん」

「……僕と結婚してください!!」

「……え」

「僕の、お、お嫁さんに来てください……!」

  唯は思いがけない言葉が、朝陽から飛び出たことに驚いてしまい、固まっていた。

  プロポーズした朝陽の方は、顔だけでなく、耳や首までも真っ赤にしている。

「いつも、唯ちゃんから告白してもらったり、デートに誘ってもらったり……。僕から唯ちゃんにしてあげられること無くて……。だから、その、プロポーズだけは、僕からって……、思って……。唯ちゃん?」

  唯の目から涙がポロポロと溢れ出ていた。その姿を見て、オロオロし始める朝陽。

「え、あれ? ダメだった? 嫌だった……? 結婚とか早かったかな?え、ど、どうしよ」

  朝陽が取り乱していると、唯は声を出して泣きながら抱きついた。

「ダメじゃない~! 嫌でもないよ……! 結婚じよぉぉ!」

「え、い、いいの? 大丈夫?」

「大丈夫ぅぅ~。嬉じいのぉぉ」

「ほ、本当に? よ、良かった……」

「うわぁぁ~。振られるかと思っでだぁぁ」

「え、なんで?? 僕が?」

  抱きつかれたまま、泣き続ける唯はグズグズの状態で話し始める。抱きついているために、お互いに顔は見えない。

「だってぇ、最近メッセージの返信遅いし、電話来ないしぃ……」

「あ、あれは、本当に忙してくて……。ごめんね」

「もう、いい~。それに、」

「それに?」

「浮気されたと思ってたからぁぁ」

「浮気なんかしないよ!」

「ズッ。これ」

  朝陽から少し離れると、スマホを出し写真を見せる。その写真を見た瞬間、朝陽がニコッと笑う。

「これ、姉さんだよ」

「……悠さん?」

「うん」

「なんだぁ……!」

  そう言うと、またボロボロ泣き出し、朝陽に抱きつく。朝陽も唯のことを抱きしめて、なだめるように背中をポンポンと叩く。

「うわぁぁ……。朝陽、大好きだよ~」

「僕も、唯ちゃん大好きだよ」

「朝陽と、結婚ずるぅぅ」

「良かった!」

  しばらくそのままの状態でいたが、唯が落ち着いた頃には、周りにいた人がクスクスと笑っているのが聞こえた。けれど、それに気にすることなく話し始める。

「唯ちゃん!」

「なに?」

「そ、その……。け、結婚指輪を一緒に選びに行こう! その、唯ちゃんの指のサイズ分からなくて……。それに唯ちゃんと一緒に選びたくて、用意出来なかったんだ……。ごめんね」

「行くぅぅ……。一緒に選ぶぅぅ」

  泣き止んだはずの唯は、また泣き始めてしまった。最近の悩みがすべて吹き飛ぶように、涙を流し始めた。








 エピローグ。


  指輪を選びに行くために、二人はバスに乗っていた。

「これ、姉さん」

「本当だ。悠さんだ」

  朝陽のスマホのフォルダを見せてもらう。友達から送られてきた写真に写る、二人と同じ格好をした朝陽とその姉の悠。

  顔は結構似ているのに、身長などは全く違う。けれど、仲のいい姉弟であるため出掛けたりもしている。

「なんかね、旦那さんのために買ってあげたいものがあるっていうから、付き合ったんだけど、疲れた」

「浮気じゃなくて、良かった」

「ごめんね。ずっと悩んでたのに、全然気付いてあげられなくて……」

「ううん。もういいよ! 今は最高だから!」

「良かった~」

  安心したその笑顔に釣られて、唯も笑い出す。

  宝石店に入ると、何故か緊張し始める二人。体がカチコチに固まったいるようだった。

「あ、この間のお客様! もしかして、プロポーズ成功したんですか?」

「え、あ、はい!」

「ん?」

「姉さんと出掛けたときに、買おうと思って、指輪……。買って、プロポーズしようとしたけど、迷っちゃって。それに指のサイズ……」

「じゃあ、一緒測ってもらって、指輪選ぼ」

「うん!」

「私もお似合いのを、全力で選ばせて頂きます!」

「お、お願いします!」

  今日、この瞬間から、新たに二人の時間が動き始めた。

何が書きたかったかというと、泣きながら「結婚ずるぅぅう」と叫んでる女の子が書きたかっただけです笑


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