私から。僕から。
4000字はいかないですが、久々の300字以外の短編です。
恋愛ものです。
ーーもう、これで終わりにしないといけないと、思っている。分かっているけど、やっぱり好きだから……。ーー
まだ雪は降らない休日の昼下がり。唯は大学時代で仲の良かった一子とともに、ファーストフード店に来ていた。
「はぁ……」
「まぁさ、朝陽くんも男の子だしさ」
「そうだけど……。やっぱり、五年も付き合ってて、浮気されたことなんてないし……」
「朝陽くん、自分から行けるタイプじゃないしね。告ったの、唯からでしょ?」
「うん」
「迫られたのかな? 断れるようなタイプにも見えない」
「……はぁ。もう、ダメなのかな」
ズーッと飲み物を飲みきると、机に突っ伏す。「まぁまぁ」と、肩を叩かれるも慰めにならない。
スマホを取り出し、ロック画面を見つめる。唯と朝陽が写る写真。
お揃いでロック画面にしているが、もしかしたら朝陽の方はもう変えているかもしれない。ーーそんなことを考えていると、涙が込み上げてくる。
「唯?」
「別れたくない……」
「別れなきゃいいじゃん」
「でも、朝陽はもう私のこと好きじゃなかったら、付き合ってるの辛いよ。きっと」
「そうかな? 嫌なら言ってきそうだけど……。でも、朝陽くんだからな」
「はぁ……」
「まぁ、今日はパーッと遊ぼう! 明後日からまた仕事なんだから、今はストレス発散したい!」
「……私も」
二人は、ファーストフード店を出ると、カラオケ店へと入っていった。
ーー朝陽と出会ったのは、大学のサークル。第一印象は、頼りない子。誰かに何かを指示されないと、動けない子だった。私は、そんな朝陽が可愛いくて守りたい、なんて思ってもいた。
それから二年、ただのサークル仲間だったけれど、思い切って告白した。そしたら朝陽は顔を真っ赤にして、頷いてくれた。
デートの誘いも私から。告白も私から。キスも私から。何もかも私から。だから、別れるのも私から……。ーー唯は一子と遊んだ後、家でスマホに入っている写真を漁りながら、考えていた。
「はぁ……。来週の土曜日で、五年目なのに……」
メッセージ欄を開いてみる。
最近、メッセージを送っても、返ってくるのが遅くなった。仕事で忙しいと言っているけど……。ーー唯はもう飽きられたのかと思い、もう諦めかけていた。
「最後に、別れる前に思い出作って、別れよ……。朝陽には幸せになってほしいし」
そして「来週の土曜日、遊びに行こう」とメッセージを送る。
そのまま、一子とは別の大学の友達から送られてきたメッセージを読む。そこには、見知らぬ女の人と仲良く歩いている朝陽の写真。
朝陽は身長が低いため、その女性を見上げる形で話しているのが分かる。
「こういう人が、好みなのか……」
まるでモデルのようなスタイル。顔は、はっきり見えないが、きっと綺麗なんだろうと、思いながらメッセージを閉じた。
その日も、朝陽からのメッセージはすぐには返ってこなかった。
そして、土曜日。
とうとう来てしまった。ーー唯は今日のことを考えすぎたせいで、あまり眠れなかったのだ。いつもよりクマが酷く出てしまっている。
「はぁ……。まだ時間あるし、化粧を丁寧にやらなきゃ。最後なんだから、いい顔していかなきゃね!」
気合いを入れるが、まずは朝ごはんを食べ始め、なんとか気を落ち着かせようとしていた。
刻刻と時間が迫ってくる。初めてのデートの時のように、緊張し過ぎて集合場所に時間より三十分も早く来てしまっていた。
何度も何度も、腕時計を見てしまう。こうやっている時ほど、時間が経つのはとても遅い。
唯は一度深呼吸すると、空を見上げる。どんよりと雲がどこまでも広がる空。もしかしたら、雪が降るかもしれない、と思ったが傘を忘れたことに気が付いた。
「まぁ、何処かで買えばいいか」
いつもなら、やらない失敗。折りたたみの傘はいつも持っているのに、やはり緊張が強いらしい。
はぁ……。と、一度ため息を吐いていると、こちらに走ってくる朝陽が目に映った。
「唯ちゃーん!」
ブンブンと大きく手を振りながら、走ってくる。いつものように、お尻から尻尾が見えるようだった。
そんな姿を見て、もう会えなくなると考えると、涙がこみ上げてきた。「ダメダメ。泣いたら!ダメ!」と、自分自身に言い聞かせ、朝陽に手を振り返す。
「お待たせ! ごめんね、遅くなって」
「大丈夫だよ」
「こんな寒いのに、待たせるなんて、本当に……」
「大丈夫だって! それより、早く行こう」
「うん! まずは水族館!」
「うん……。いつも通り」
「あはは」
朝陽は唯の手を取ると、歩き出す。同じくらいの身長とはいえ、やはり男である。大きな手は唯の手を優しく包み込んでくれる。
いつもの水族館。いつものカフェ。いつもの道。もちろん、全く違うデートコースを行くこともあるけれど、安心した所へ行くのが二人は好きだった。
四時も過ぎた頃。遊園地へとやったきた。辺りはもう暗くなってきている。観覧車のライトアップは始まっていた。
「うわー!」と、二人の声が重なる。四捨五入すると、二人とも三十歳になるのだが、いまでもこのような風景を見ると、子どものようになる。
「綺麗……」
「……うん」
ギュッと手を握る。二人の吐く息は白く色付く。けれど、それもすぐに消えてしまう。
こんなに長く居られるのも、奇跡なのかもしれない。ーー唯はちらっと朝陽の様子を伺う。
キラキラとした瞳で観覧車を見つめている。しかし、寒いせいなのか、顔を真っ赤にしている。
これで終わりにしよう。ーー唯は愛おしい目で朝陽を見ると、小さく息を吐く。
言葉を発しようとした時、朝陽がいつもより強く手を握ってきていた。それに少し汗ばんでいる。
「……あの、さ。唯ちゃん」
「……な、に?」
あぁ、朝陽から言われてしまう。ーーそう思ったが、唯は朝陽の言葉を受け入れようと、手を握り返した。
すると、朝陽が唯と向かい合う。
「あの、ね……。唯ちゃん、その、あの……」
「うん」
「ぼく、と」
「……うん」
「……僕と結婚してください!!」
「……え」
「僕の、お、お嫁さんに来てください……!」
唯は思いがけない言葉が、朝陽から飛び出たことに驚いてしまい、固まっていた。
プロポーズした朝陽の方は、顔だけでなく、耳や首までも真っ赤にしている。
「いつも、唯ちゃんから告白してもらったり、デートに誘ってもらったり……。僕から唯ちゃんにしてあげられること無くて……。だから、その、プロポーズだけは、僕からって……、思って……。唯ちゃん?」
唯の目から涙がポロポロと溢れ出ていた。その姿を見て、オロオロし始める朝陽。
「え、あれ? ダメだった? 嫌だった……? 結婚とか早かったかな?え、ど、どうしよ」
朝陽が取り乱していると、唯は声を出して泣きながら抱きついた。
「ダメじゃない~! 嫌でもないよ……! 結婚じよぉぉ!」
「え、い、いいの? 大丈夫?」
「大丈夫ぅぅ~。嬉じいのぉぉ」
「ほ、本当に? よ、良かった……」
「うわぁぁ~。振られるかと思っでだぁぁ」
「え、なんで?? 僕が?」
抱きつかれたまま、泣き続ける唯はグズグズの状態で話し始める。抱きついているために、お互いに顔は見えない。
「だってぇ、最近メッセージの返信遅いし、電話来ないしぃ……」
「あ、あれは、本当に忙してくて……。ごめんね」
「もう、いい~。それに、」
「それに?」
「浮気されたと思ってたからぁぁ」
「浮気なんかしないよ!」
「ズッ。これ」
朝陽から少し離れると、スマホを出し写真を見せる。その写真を見た瞬間、朝陽がニコッと笑う。
「これ、姉さんだよ」
「……悠さん?」
「うん」
「なんだぁ……!」
そう言うと、またボロボロ泣き出し、朝陽に抱きつく。朝陽も唯のことを抱きしめて、なだめるように背中をポンポンと叩く。
「うわぁぁ……。朝陽、大好きだよ~」
「僕も、唯ちゃん大好きだよ」
「朝陽と、結婚ずるぅぅ」
「良かった!」
しばらくそのままの状態でいたが、唯が落ち着いた頃には、周りにいた人がクスクスと笑っているのが聞こえた。けれど、それに気にすることなく話し始める。
「唯ちゃん!」
「なに?」
「そ、その……。け、結婚指輪を一緒に選びに行こう! その、唯ちゃんの指のサイズ分からなくて……。それに唯ちゃんと一緒に選びたくて、用意出来なかったんだ……。ごめんね」
「行くぅぅ……。一緒に選ぶぅぅ」
泣き止んだはずの唯は、また泣き始めてしまった。最近の悩みがすべて吹き飛ぶように、涙を流し始めた。
エピローグ。
指輪を選びに行くために、二人はバスに乗っていた。
「これ、姉さん」
「本当だ。悠さんだ」
朝陽のスマホのフォルダを見せてもらう。友達から送られてきた写真に写る、二人と同じ格好をした朝陽とその姉の悠。
顔は結構似ているのに、身長などは全く違う。けれど、仲のいい姉弟であるため出掛けたりもしている。
「なんかね、旦那さんのために買ってあげたいものがあるっていうから、付き合ったんだけど、疲れた」
「浮気じゃなくて、良かった」
「ごめんね。ずっと悩んでたのに、全然気付いてあげられなくて……」
「ううん。もういいよ! 今は最高だから!」
「良かった~」
安心したその笑顔に釣られて、唯も笑い出す。
宝石店に入ると、何故か緊張し始める二人。体がカチコチに固まったいるようだった。
「あ、この間のお客様! もしかして、プロポーズ成功したんですか?」
「え、あ、はい!」
「ん?」
「姉さんと出掛けたときに、買おうと思って、指輪……。買って、プロポーズしようとしたけど、迷っちゃって。それに指のサイズ……」
「じゃあ、一緒測ってもらって、指輪選ぼ」
「うん!」
「私もお似合いのを、全力で選ばせて頂きます!」
「お、お願いします!」
今日、この瞬間から、新たに二人の時間が動き始めた。
何が書きたかったかというと、泣きながら「結婚ずるぅぅう」と叫んでる女の子が書きたかっただけです笑