9話
友人から「ケチケチすんな!」と言われたので、2章完結までの残り3話を1時間ずつ投稿します。
よろしくお願いします。
どうする?どうするよ俺!?
また負けるのか?こんな貴族の道楽に!
……なんてことは、まるでない。
俺が何度、対物理障壁に苦渋を飲まされたと思っている。物理障壁貫通が無いなら無いで、今の俺ならコイツ程度ならどうにかなる。いや、どうにでもなる。
距離を取ったヤーナの左手から、火球が飛ぶ。それを剣で叩き割ると、一気に間合いを詰めて袈裟斬り。
それは当然弾かれる。
だが、弾かれた勢いで身体を回転させ、次の横薙ぎへ移行した。
「ヤーナ様!」
取り巻きの声とともに、俺の横薙ぎも障壁に弾かれるが、そこからやや強引に上段へと剣を返し、さらに斬撃を続ける。
シュッという音を立てながら俺の剣がヤーナの頬をかすめる。斬れない剣でもカスれば血も出る。
ヤーナの驚愕した表情。次に障壁を張ることに失敗した取り巻きを睨みつけ、頬に手をやると、その手に付いた血を見て憤懣たるやという顔をした。
顔芸が忙しいやつだ。
俺がとっている戦法は単純だ。弾かれるなら、弾かれることを前提としてのみ動けばいい。
障壁の嫌なところは、弾かれるか回避されるか分からないところにある。弾かれても良いと思った一撃が回避された場合、剣を振り切っているために隙が大きくなるからだ。
しかし、ヤーナ程度では俺の攻撃は回避できない。自ずと障壁で弾くのみとなる。それならそれで、ひたすら確実に当たる一撃を放っていれば、障壁が間に合わなくなるか、もしくは障壁の魔道具が先に尽きる。
この後、数分連撃を続け、先に取り巻きの魔道具が尽きたようだ。慌てた顔でヤーナに向けて横に顔を振る取り巻き二人。
「き……君の剣の動きも相当鈍ってきたようだし、ここらで引き分けとしないか!?」
ヤーナからの都合の良い提案に、俺は笑みを隠さない。
「おやおや?貴族様、障壁の魔道具が尽きそうですか?お仲間のほうは尽きたようですが、お貴族様のほうはどのくらい残ってるんでしょう?」
ヤーナの顔が引きつる。
そこから三度弾かれるも、ヤーナが慌てて距離を取り、火球の魔法を連射してきた。どうやら、障壁は尽きたらしい。
そして、ついに魔力も底をつき、震える手で必死に剣を構えているが、怯えた表情をしていた。
俺は、わざとゆっくり歩いてヤーナの前に出た。
「お貴族様ぁ、俺って、誰でしたっけぇ?」
ニヤニヤ笑い付き。実に愉快だ。
「オー……いや、トールくん!大丈夫だ!覚えているよ!」
「残念。負け犬くんでしたー!」
そう言うと、俺は剣をデタラメにフルスイングした。剣の腹の部分を相手の顔にめがけて。
ヤーナは微動だにできず、盛大に鼻血を出してその場に崩れ落ちた。確実に鼻は折れてるけど、死んでないよね?大丈夫だよね?
まあ、俺の勝ちだ。
この二日でどれくらいの恨みを買っていたのだろうか。闘いを見守っていた冒険者やら街のひとやら、ギルド職員までもが歓声を上げていた。
審判のギルド職員がヤーナの容態を確認し、勝敗を告げる。そして、急いで回復魔法を使える職員を呼ぶが、歓声にかき消され、ヤーナの怪我が治るまでにしばらく時間がかかるのだった。




