6話
街には入れました。涙が止まりませんが、宿に到着。
宿は入り口が酒場と一緒になっている作りだ。奥に宿泊の受付カウンターがあり、女将さんが受付をしていた。
「お!トール!無事だったかい!行方不明だって聞いて心配してたんだよ、宿代の方!」
「宿代は一月分払ってるでしょー。それまでに帰ってこなかったら荷物も処分していいって言ってるでしょー」
俺はもう、女将さんの冗談に付き合う心の余裕がなかった。こんなダラけた受け答えも仕方がないだろう。
「それで、そっちのお連れさんはどうする?別の部屋かい?同じ部屋かい?今なら空いてるから、ツインだとかダブルの部屋に移動もできるよ」
もちろん別の部屋だな。剣とは言え、今日会ったばかりの女の子だし。
「別の……」
「ダブルでお願いします!」
ネルさんたら大胆!顔真っ赤じゃないですか!それはつまり、イエスノー枕的に、イ・エ・ス?ここここ心の準備がまだ!……よし、今しました!大丈夫です!上手くできなかったらごめんなさい!
そんな俺を心配したのか、ネルが耳元で囁く。
「私は寝るときには剣の状態だから、別部屋の必要はないし、ダブルの方が安いでしょ。あなた、広いベッドで眠れる、私、ご飯食べられる。ウィンウィン」
「あ、ですね」
くそう!トキメキを返せ。
宿泊する部屋は二階にあり、一階は酒場になっている。俺たちは部屋を移動した後に一階に降り、夕飯を食べることに。
ルネは剣だがご飯を食べることは、不要ではあるができるらしく、三百余年ぶりの食事を楽しんでいた。ついでにワインもほとんど一人でボトル一本飲みやがった。
食事も終わり、部屋に戻ると、ネルは剣に戻りベッドに横たわった。なんの色気もない。ただ綺麗な剣がベッドに放り投げられてるだけ。
そんなネルを無視して、俺は女将さんからもらってきたお湯を使って身体を拭く。そのお湯で頭も洗い、ようやく人心地ついた。
「……」
そんな俺を、ネルが凝視していた。
正確には剣の状態なので、見ているか分からないが、視線を感じたのだ。
「ズルい」
「はい?」
「ズルいズルいズルいズルいズルい!!」
「何がっすか!」
「アンタ!私も磨きなさい!」
少女姿で身体を拭きたいとかではなく、剣状態を俺に磨けときたよ。酔っ払いの剣は手が付けられん。
まあ、寝る前に剣の手入れをするのは日課だから構わんが。
「あっ!あああん!や、ちょっと!どこ触ってんのよ!」
「はい?柄の刃寄りの付け根だけど?」
「手つきがイヤラシイのよ!次やったら怒るわよ!」
ちょっとドキっとするような嬌声を上げてくるネル。剣の状態だから辛うじて興奮はしないけど。
しかし、普通の磨き方をしているだけなんだが……。
刀身に傷はないからサクっと拭いて、鞘も汚れてないから軽く拭いた。
最後に柄頭の宝石部分を丁寧に磨いて……。
「あっ!あっ!そこ!あああああーん!ダメーッ!」
……おいおい。俺にどうしろと。さすがにもう美少女モードだったら押し倒してるぞ、このやろう。ヘタレ童貞だから無理だけどな!
お互いの精神衛生のために、もう剣は磨かないと決めた。そもそも剣には自動修復も自動浄化もあるらしいし。
その日はそんな感じで寝りについた。剣を横に寝かせて。
翌日、女将さんから、「童貞だと思ってたけど、トールもなかなかやるね」とお褒めの言葉を頂いたのだが、大丈夫。未だに童貞です。
1章 完
批判が多くなければ、このくらいのボリュームで週1は投稿したいと思います。
少ないですが、ストックが切れるまでは毎日投稿します。




