5話
白だか光だか、もう分からない空間に包まれた。
死んだらこんな感じのところを通って天国にいくのかや。天国?俺がいけるはずないじゃない……。
光の中をたゆたう俺。きっとネルもそばにいるのだろうが、はっきりとは感じられない。
次の瞬間、目を覆うばかりの光は消え失せて、目に入ってきたのは全体的に紫がかった、ザ・魔界。なんてことはなく、森だった。
俺が遭難した森と酷似している。きっと同じ森だろう。同じ森だと言ってくれ!
ドスっ!
俺は光の渦から解放されて森へと降りた。繁っている木々や草花から、俺が迷子になった森か、それに近い場所にある森だと思われる。
「とりあえず、助かった!魔界でもないし、即死罠に引っかかったわけじゃないみたいだな」
まだここが俺が来た森だとは判明していないが、とりあえず、崖の上に転移して落下とスプラッタを待つ必要はなかったわけだ。ほっと一息。
「ねぇ、トール、確かに私たちは『まだ』死んでないわよね。けど、『すぐ』死にそうだとは思わない?」
ネルの言葉に辺りを見回す。
なるほど、森の狩人であるフォレストウルフがいっぱいいるね。
でもね、大丈夫なんだ。
「ネル、ちょっとさがってて。襲われそうになったら、頑張って避けて」
俺はそれだけ言うと、ネルが抜けた後のネルを構えて、群れの中に突進していった。
フォレストウルフは迎撃態勢をとってこちらに牙を剥く。
「……ふっ!」
浅い角度の切り上げ、返す剣で浅い角度の切りおろし。そして背後へのなぎ切り。
それだけで、そこにいたフォレストウルフは全滅した。
ネルの性能の一つである『斬れない』は確かに効いているため、斬殺したのではなく、撲殺した感じだ。
しかし、まだ他にもいる。
ネルの方を振り向くと、そちらも三匹の狼に囲まれている。
俺は懐から三本の投げナイフを片手で取り出し、投げた。
二匹にはクリーンヒット。眉間に一本ずつナイフが刺さっている。一本は致命傷にならずに前足付近にささった。
そこまでの攻防で、離れて見ていた狼はちりぢりに逃げていった。
俺は前足にナイフの刺さった狼の首を叩き折って、戦闘を終了した。
本来であれば討伐したことを証明する箇所や、素材として売れる部分を死体から剥いで持ち帰るのだが、俺は放置することにした。フォレストウルフの素材は高く売れない上に、俺はもう疲れていたのだ。
血の匂いにつられて他のモンスターが現れる可能性があるため、少し場所を移し、太陽の動きで方角を見るために、しばしの休憩とした。
「トール、助けてくれて、ありがとね」
「いいえー。でもネルってさ、武器だから、死なないよね?」
「死ななくても痛いものは痛いの!……痛くないけど!痛い気にはなるの!」
ほう。そういうものか。
「ならさ、剣の中に戻っていればいいじゃん」
「イヤ」
うん、即答で嫌なのか。仕方ないね。俺もそばに美少女がいた方がいいし、よほど危険じゃない限り、そのままでいてもらおう。うん。
太陽の動きで大体の方角を確認した俺たちは、ここを俺が入った森と仮定して、ホームタウンのある方角へと歩くことにした。
幸いにもモンスターに襲われることもなく、森が終わる場所までたどり着いた。
「おお!あってた!あれが俺のホームタウンだよ!帰ってこられたよ!」
まだ遠くに小さく見えるだけだが、間違いなくあれは俺のホームタウンだ。
「おお!三百年ぶりの人間の街!早く食べたい!」
いや、街を食われちゃ困るよお嬢さん。
日もだいぶ傾いている。俺たちは、急いで街を目指した。遅くなると街の門が閉じてしまうのだ。
門の前に辿り着くと、門番さんと少し話した。
「あれ?トールさん、二日も帰らないから、死んだと思いましたよ!トールさんだって死ぬこともあるかー、なんて。無事でなによりです!」
「死にそうな目にはあいましたよ。けど、無事をよろこんてくれる人がいて嬉しいです。表現はアレですが」
「はははは!生きていれば何でもいいじゃないですか!では、ギルドカードを確認します。……はい、オッケーです!それで、隣の方は?」
……どうしよう。何も言い訳を考えてなかった。なんて言おう?
素直に「これは剣です」。ダメだろ。俺の頭を疑われる。
「旅の方ですが、途中で盗賊に襲われたみたいで、荷物もなく逃げて来たんです」。これか。これだな。
俺はネルと目を合わせ、俺の話に合わせるように要求した。
「えっと、この子は」
「嫁です」
「そう、嫁なんです。……はぁ!?」
「田舎町から強引に娶られた嫁なので、身分証がないのです。どうすればいいですか?」
あーあ。門番さん、呆れた目をしてるじゃない。知らんぞー。俺はもう知らん。
「……トールさん!……おめでとうございます!いやー、トールさん、どう見ても童貞じゃないですか!トールさんが若い女の子を目で追ってるたびに、いつ逮捕すべき時がくるかとヒヤヒヤしてたんですよ!いやー、良かった!しかもこんな美人!ささ、通って通って!トールさん、ちゃんとイカくせー部屋の掃除と換気をしてから招き入れるんですよ!」
なんだか納得いかない。納得いかないが、面倒な手続きがなかったことを喜ぼう。
あれ?目の下にすごい汗が。拭いても拭いても溢れてくらぁ。




