20話
いない。カマキリがいない。俺は麦わら帽子で川原を駆け回る夏休みの少年か。今時そんな少年なんて見たことないけど。
確かに、少なくなっているとは聞いており、簡単に見つかるとは思っていなかったが。ガオさんの店での昼食後から、もう日が落ちかけている今に至るまで一匹も遭遇しないだなんて……。
場所が違うのかも知れないな。今日のところは一度村に帰って情報収集するしかないな。
「ネルー、とりあえず帰るよー」
少し離れたところでカマキリを見つけるべく、周囲を眺めているネルに声をかけた。
夕陽に照らされたネルは、やはり美しかった。赤い髪が夕陽を浴びてさらに燃える。
少しの間見惚れていたが、やっと諦めてくれたネルが、小走りにこちらに向かってくる。
ぽわん、ぶるんっ、ぶるるんっ、ぶるんっ、ぽわん……。
一歩ごとに効果音を変えながら俺を愉しませる一対の物体。
素晴らしい。とても素晴らしいよネル。
あれ?止まらない。近い!近い!ぶつかるよ!と思った瞬間、走ってきた勢いそのままにビンタが炸裂した。
草原をひねりを加えながら転げ回る俺の耳に、ネルの言葉が届いた。
「またエッチなこと考えてたでしょ!」
草原は転げ回るものではなく、駆け回るものだよ、ネルさん。そして、ちょっと凝視するくらい良いじゃないの……。
気絶はしなかったものの、立ち直るのにしばしの時間を要するのだった。
宿屋に戻り、とりあえず夕食をとった。ガオさんの店には劣るが、ここの宿のご飯もとても美味しい。
食事の後は作戦会議だ。
「しっかし、本当に全くいなかったな」
「全滅しちゃったのかな?」
「いや、一時的に数を減らすことはあっても、基本的に魔物は全滅しないんだよね」
「それなら隠れてるとか」
「誰から?なんのために?今は魔物が増えて困っているほどで、特に虫系の魔物は知能が低くて、隠れるなんて手は使ってこない。基本的には。……ん?まずいかも」
虫系の魔物は同種だからといって群れない。逆に、どんな虫系とも群れると言って良い。
たが、何事も例外があるものだ。その種に、イレギュラーな上位種が現れた場合。なおかつ、その上位種に群れるという智恵と意志があった場合。上位種が群れを率いて集団を形成する場合がある。
その集団は戦術を用い、連携も見せる。
今この辺りは魔物が多く繁殖してきている。その中で上位種が産まれる可能性は否定できない。さらに、多く繁殖している時期であるならば、産卵の頻度も高く……。
ダーン!
俺の思考を中断させるように、宿屋の扉が勢いよく開き、そこから冒険者風の男が入ってきた。
「この宿にいる冒険者に告ぐ!緊急事態だ!村長の家に集合してくれ!」
男はそう叫ぶと、次の宿へ向かったのだろう、走り去った。
これはこれは。嫌な予感が当たったか?
ふと、同じく食堂にいたゴリと目が合う。
ーーー楽しくなってきたな?
ゴリの目はそう言っていた。
楽しくないっす。面倒っす。




