14話
盗賊であろう、複数の蹄の音が聞こえる。もうすぐ視認できるはずだ。
めんどくせーな。
何が面倒かって?盗賊のことじゃないよ。確かに襲撃も面倒だけどさ、それはお互い仕事のようなものだし、無駄に虐殺したり犯したり攫って売ったりしない限り、俺はそこまで腹も立たない。そして、この国では、そんなことをする盗賊は極少数なのだ。
あまりに凶悪な場合、優先的に討伐隊が組まれるし、賞金首になっても『生死問わず』となるからだ。リスクが割りに合わない。そもそも俺は、犯罪関係は全て割りに合わないと思っているけど。
もちろん、奪って逃げるってだけでも知り合いがやられれば腹も立つけど、俺、知り合いもあんまりいないしね。……悲しい話じゃないよ?
「ハーッハッハッ!闘いだ、殺し合いだ!来い、来やがれ!俺を殺せぇ!!」
ほら来た。この叫び声、盗賊のものじゃないんだぜ。
こいつがめんどくせーんだ。
今回のギルドからの依頼を俺と別口で受けて、俺たちと同じ乗合い馬車に乗っている冒険者の一人だ。無駄にデカい体格のせいで一人で二人分の席を使っている。
この叫び声を聞くのこれで三回目。つまり襲撃されること三回目なわけだが、この数が多いのか少ないのか、俺には分からない。
ただ、前回までの二回ではっきり分かっていることは、どう見てもゴリラにしか見えないこのおっさんが、非常にウザいってことだ。
盗賊らしき姿が視認できるようになって馬車が止まり、俺、ゴリ、他二名の冒険者が馬車から降りる。
ひときわ目を引くのがゴリだ。浅黒い肌で光沢のあるスキンヘッド、顔の下半分を隠すヒゲは、何気に整えているらしい。身長は俺より十センチ程度高いくらいだが、全身を筋肉の鎧で覆い、腕なんて、ネルのウエストを超えて俺のウエストに迫る太さではないだろうか。実際の防具はタンクトップの上から革の肩当てと心臓を守るだけの胸当て、下半身はピチピチの短パンにブーツのみ。そして、結構な大きさのある戦斧を、片手でオモチャみたいに振り回す。
肩当てなんて防具としては期待されておらず、カッコいいという理由で装備している。本人から聞いたので間違いない。
訂正しよう、これをゴリラと同一視するのは、ゴリラが可哀想だ。ゴリラは何気に可愛いし。
「おい、ゴリ!前に出過ぎんなって言ってんだろ!」
「うるさい!お前が俺について来い!」
ゴリは俺の注意にも止まることなく突出してしまう。
他の二人は遠距離攻撃が得意なこともあり、馬車からそう離れず、良い位置を保っている。一人は弓矢での中距離狙撃と短剣での接近戦闘、もう一人は魔法での中距離戦闘が主体だが、杖術に長け、下手な前衛職よりも接近戦で強い。この二人はいつもコンビを組んでいるようで連携が良く、なかなかの凄腕だ。心配する必要がない。
仕方なしに、俺は『また』ゴリの少し後ろ、ある程度の距離を保ったまま盗賊たちとの距離を詰めていく。
視認するかぎり、向こうからやってくるのは、真っ黒に日に焼けた肌、伸び放題の髪やヒゲ、ツギハギだらけの革鎧といった山賊スタイルだ。
「賊でないなら馬を止めろ!賊ならば容赦なし!」
俺はいったん止まり、声を張り上げる。だが、相手が止まる気配はない。ですよねー。
接敵。
ゴリが馬車と離れすぎたせいで、後ろからの援護は期待できない。俺は騎兵を後ろに漏らさないように、必殺を狙わずに剣を叩きつけて行く。
ゴリも後ろに漏らしたら危険なのを理解しているらしく、どう見てもパワーファイターなのに、戦斧を振る手数を多くし、牽制を中心に行っていた。
バカではないんだよなー、このゴリ。そして、間違いなく強い。
「ゴリ!少しこっちに流せ!俺が漏らしても後ろの二人は対応できる!」
俺の声が届いたらしく、ゴリの負担が少し減り、俺の負担が少し増える。この程度は誤差範囲。問題ない。
「ハーッハッハッ!死にたいやつから前に出ろ!俺を殺したいやつも前に出ろ!」
少し余裕ができたんだろうな。またゴリが叫び始める。
うん、いいよ。好きにやってくれ。
十分程度で賊との闘いは終わり、こちらはゴリだけ軽傷を受けたほかは無傷。賊の方も死者なし、歩けないほどの重傷者はゼロという結果になった。
ゴリって、「殺し合いだ!」とか叫ぶわりに無駄な殺生しないんだよね。三回の襲撃全てで死者ゼロだし。
そんな襲撃劇が終わり、ついでに昼食休憩をとった。
昼食時にゴリが何か俺に話しかけたそうにしていたようだが、無視だ。話すなら、俺はネルと話したいのだから。
目的地の村まであと半日。夜までにはたどり着けるだろう。




