10話
宿に戻った俺たちは、遅い朝食を食べていた。固いパンと野菜と少しの肉が入ったスープとサラダだ。スープの味が優しくて、ほっとする。俺、塩っ辛いスープは苦手なんだよね。
「さて、朝食も終わったことですし、少し復習しなきゃいけませんね、ネルさん」
「はい、先生。なんでしょうか?」
朝食が済み、女将さんが食後のお茶を持ってきてくれたので、お話の始まりだ。
「確かに、あの貴族に腹が立ったのは俺も同じですが、決闘になった原因は誰ですか?」
「わ……私です……」
「ですね。では、その原因さんは、決闘中、どこにいましたか?」
「観戦席です……」
「ですね。なぜ観戦席にいたのですか?」
「観戦した方が面白そうだったから……」
「面白そうって……。あなたは俺の剣なはずです。十全な状態でない剣で闘って、俺が負けるとは思いませんでしたか?」
「あ、それはない。あんなのにトールが負けるハズがない」
あっさり。負けるハズない、か。その信頼が少し心地良い。
それなら、まあ、いいか。と思ってしまった俺の負け。
「……次からは、闘う時は一緒にいて下さい。じゃないと、他の剣に浮気しちゃうからねっ!」
ちょっと可愛く言ってみた。浮気って、恋人でもないし、ましてや剣にって。言った自分が恥ずかしいわ。
「ぐずっ……ぐずっ……」
おや?ネルの様子がおかしい。
「ごべんばざいっ!!ごべんばざいっ!もうじまぜんがら!ほがのげんば!ほがのげんびばべば!ごべんばざいっ!」
泣かせてしまった。盛大に。
どうやら、「ごめんなさい、もうしませんから他の剣にだけは!」と言いたいようだ。
なんとかなだめて、落ち着いたネルに詳しく聞いてみたところ、ようやく見つかった新しい持ち主の、メインウェポンであるところの剣の座は譲り難いらしい。例えばサブウェポンとして他に槍や短剣を持つのは構わないし、実際に前の持ち主である勇者ファタールさんは複数の武器を持っていたが、みんなが仲良くできていたらしい。
……みんなが仲良く?
「ネルさんや、ネルさんや、みんなって、勇者ファタールさんの武器は、みんなネルみたいに話すのかい?」
「え、うん。武器というか、武具?武器のみんなも、防具のみんなも話してたよ?」
なんとまあ、あっさりと判明した新事実。最終的に一人で魔王を倒したといわれるファタールさんは、実は一人大所帯という不思議な現象に遭遇していた!
「他の子も欲しい?」
「いや、話してはみたいけど、ネルだけで充分だよ」
俺がそう苦笑すると、ネルはとても嬉しそうに笑った。天使の笑顔だね。やっぱり可愛いな、とは思うけど、違うんだ、ネル。そんな大所帯を養う甲斐性は持ち合わせてないし、ネル一人にも振り回されているのだから。
言わないけど。
「まあ、必要になったら迎えに行こうね」
必要になったら……?
ネルからの意味深な一言でこの会話は終わるのだった。




