2匹目:ウルフ/狼魔物/属性:地
2016/01/03ちょっと増量。
俺の口元に青い半透明の緩い物体がそっと近づき、口を少し開いてやると中に自分から飛び込んできて、お口の中を縦横無尽に駆け回り、俺はそれをゆっくりと咀嚼した。
「ご主人様、私の体は美味しいですか?」
「ああ、とても美味しいよ」
俺は今ブルームの体を味わっている、異世界であるこちらに来てから何も食べてなかった俺にはブルームを体を舐めまわすだけでも満足できた。
ぷるるんとしたその体は甘く、ほんのりと酸っぱいそんな感じだった。
いやースライムが食べられるとは思わなかったね、何せゼリー感覚で食べられるし、何より水を与えれば減った分もまた再生する、初めてのパートナーがスライムでホント良かった。
なんてスライムを堪能している俺は今デカイ木の上にいる、ここなら外敵もなく安全だということでブルームを本の中にしまってわざわざ登ってきたのである。
え? 人化したんじゃないのかって? ブルームを一旦本に収納した時に何故か魔物に戻って再召喚するとスライムの状態だが言葉は話せたのでそのままにしている。
魔本にこの水辺の周辺に住む魔物の種類を聞いたところは五種類、スライム、ウルフ、ラビット、ワーム、イーグルと書き出される。
そして木の上にいる可能性があるのはワームとイーグルのみで、ワームは葉っぱしか食べないし他の魔物を襲うこともないので安全、イーグルも時にはスライムを食べる事もあるそうだが基本的にワームを好むので襲われる心配はないだろうと、ブルームが言うのでここを隠れ家にすることにした。
俺と出会うまでのブルームの記憶は実に曖昧だったが他の魔物の生態に関してはかなり詳しく知っていたので恐らく自我というものが仲間になるまで無く、他の魔物生態はそのまま自分の死に直結することなので本能的に覚えていた、ということなのだろう。
隠れ家と言っても俺は全裸に本、ブルームも全裸、食える物はスライム状態のブルームのみでそのブルームも水さえあればどうにかなるので余程のことがない限り飢えで死ぬことはないだろう。
とりあえずは一安心と言ったところだが問題は、木の下、地上である。
ここで死ぬまで過ごす訳には行かないのでいずれは他所へ移らねばならないのだが、地上には外敵になり得る魔物がいる――――ウルフだ。
彼らは十数体からなる群れを作り行動しており、水辺にやってくるラビットや時たまスライムなどを捕食する獰猛な魔物である。
現在の目標はとりあえずウルフを倒すことだろう。
「ご主人様、敵です」
ブルームが俺の肩を叩き小声でそう言って指をさす。
この場合敵といえばウルフのみなのだが――――少し様子がおかしかった。
水辺にウルフがいる、ブルームが言ったとおりだが群れではなかった――――それはまるで一匹狼とでも言うような印象を受ける白いウルフだった。
通常ウルフの毛並みは深い灰色をしているのだが、このウルフは驚く程白く、美しい毛並をしていた。
恐らくは希少種、それも♀だ――――俺の勘がそう訴えている……アレは仲間にできるぞ、と。
俺は白いウルフが俺達の真下に来た時に木を降りた、ブルームには一応木の上で待機してもらうことにした、俺が多少危険だが、ブルームが居る事で警戒されては仲間にするどころではないからな。
慎重に木を降りていく……うん、俺は慎重だったんだが――――ひゅー……ズドン、俺は地面に叩きつけられその場でのたうち回る。
全裸で草が生えているとは言え地面だ、目立った外傷はないが凄く痛かったとだけ言っておこう。
「いててて……あ。」
白いウルフと目があった――――その白さを際立たせるかのように輝く金色の瞳には警戒というより困惑したようなそんな印象を受ける。
ブルームが木の上から心配そうにこちらを見ている……と言ってもスライム状態の彼女に目はないがな……ちなみになぜ彼女にスライム状態のままで居させるかといえば、攻撃系技能はどうやら魔物の姿でないと使えないということが分かったからだ。
せっかく仲間になりそうな個体と巡り会えたんだ、極力戦闘は避けたいが……。
見つめ合う俺とウルフ……長い時間が――――経つこともなく俺の脳内に声が響いた。
――――ウルフ(希少種・♀)を仲間にしますか?
(ああ、もちろんするさ。)
――――ウルフ(希少種・♀)は仲間になった! ……ウルフに名前を付けますか?
(そうだなー、白いからシロでいいんじゃね? ブルームの時は色じゃダメとか思ったけど、ウルフってのは結局犬だろ? 犬がシロって名前、ありきたりだが一番しっくりくる、別に変じゃないしいいだろう?)
――――シロは喜んでいる!
ああ、舌をだしてなんか笑っているように見えなくもない、ウルフの顔は総じて凶悪だがな。
「さてと、とりあえず上に登るか……あーシロは、『ウカブマケロドム』! あっ名前指定しなかったからブルームまで巻き込まれたけど……まあいいか、登ろう」
俺は股間の本に頭に移動してもらい木を登った、登りは結構勢いをつけなきゃ登れないからな。
「それじゃあ、『ノマソレド・シロ』!」
俺はシロを呼び出した――――股間の本から放たれるビームが魔法陣を描く……なんかこうして見ると俺の股間からビーム出てるっぽく見えるな……どうでもいいけど。
空中に描かれた魔法陣からシロが一回転しながら落ちて、器用に枝の上に着地をする。
「それじゃ、シロの情報を見させてもらおうか」
そういうと本は俺の股間から離れ、シロをじっくり観察し、ページをめくり始めた、開かれたのは五十八ページ!
《図鑑番号・五八》
『ウルフ、狼魔物、属性:地。』
《個体情報》
『名前:シロ、性別:♀、レベル:七、特性:威嚇、性格:勇敢、技能:噛み付く、遠吠え、嗅ぎ分ける、突進』
なるほど、ブルームよりレベルは高いな、これならブルームを育てるのにも役に立ちそうだ。
シロが弱らせブルームに止めを刺させる戦法、在り来たりだがそれが一番理にかなっている。
「次は人化だな、『エゾフロマテムナムイヒ・シロ』」
ボフンと音を立て発生する白煙――――も木の上なためか直ぐ様晴れ、中から白い髪が膝まで呼びた金色の瞳を持つ少女がそこにはいた、髪の毛で大事なところは隠れているのがなんというか扇情的だが俺はこちらの世界に来てから何故か欲情しなくなった――――それは今は置いておくとして。
「シロ、大丈夫か? 話せるか?」
問いかけは大事だ、ブルームは最初にごしゅじんさまと言ってから数時間は喋る訓練を必要としたからな。
「大丈夫、シロ、ボスと同じ、なった」
ちょっとカタコトというか途切れとぎれだな、まあ追々だなそこら辺は。
それにしても『ボス』か、ウルフは通常群れで生きるからなボスって言い方がしっくりくるのかもしれない。
時に、群れにはハーレムというものが存在する、ハーレムとはボスであるオス一匹に大して群れのほとんどがメスでそれ以外は子供しかいないというものだが、俺達はまだブルームとシロだけだ。
しかし群れとは、そしてハーレムと呼べるものにはなっていると思う――――いいや、なる……この時漠然とだが思いついたことがある、それは群れを作ること、誰にも負けない俺だけの群れを作るとここに誓ったのである。
待ってろよ! まだ見にメス達よ!