23匹目:アルテミス
体調崩してました。
まだ咳は止まりませんが、多分止まらないやつだこれと諦めました。
シロに揺られながら俺は……気分が悪くなっていた、乗り心地最悪である。
揺られながらというか揺さぶられるというほどの揺れなのに落とさないように注意しているためか、落とされることもなく仮に落ちそうになっても急に動きを変えてバランスを保ってくる。
「なあ、シロ……ちょっと止まらないか?」
「止まるのかボス、まだちょっとしか進んでいないぞ」
確かにシロからするとまだ数歩なんだろうがこれは酷い。
「いや、ちょっと俺達にはシロに乗るのはまだ早かったみたいだ」
後ろを確認してみるとレンの顔色が真っ青だし……、ちょっと惜しいがレンを収納しとくか。
呪文を唱えようとすると、レイが股間から離れ俺の目の前まで上昇してくると、その進化した事によりちょっとだけ豪華になった表紙見せつけながらペラペラとめくり、これまた深くえぐるように完成した呪文のページを見せびらかしてくる――――流石に悪意を感じる。
「エヂゼネヨト・レン・ユキ」
レイをスルーして呪文を唱える……と言っても入れ替えは初めてだからどういう風にするか少し気になるな。
まずレイが俺の股間を離れてレンの頭上へ移動すると、レンの足元に魔法陣が浮かぶ上がりレンの姿が人から魔物へと戻される。
そしてレンの足がガッチリと魔法陣に縛りつけられるとゆっくりと傾いて行き反転、忍者屋敷の壁みたいな動きで裏表が逆になった魔法陣の裏側にユキが張り付いていて回転が収まると魔法陣が消えユキが解放されて、レイが股間へと戻ってくる……結構大掛かりな仕掛けだったが、毎回これやるんだったら普通に収納と召喚してたほうが絶対に早い。
課題有りってところだな、熟練すれば使えるのかもしれないがすぐに戦闘中に出せるかと言われれば無理としか言い様がない。
――――何か問題でも?
俺の思考を察したのかレイが聞いてくるがどう答えたものか。
(いや、ちょっと演出が長いなと)
――――見栄えは大事ですが、そうですね戦闘中緊急事態を想定した場合は今のではダメですね。本末転倒でした、少し省略できるようにしておきますね。
(ついでだから、他の呪文も試しておこう何かあってからじゃマズイ)
――――了解しました。回復魔法は流石に自分で傷つけるというのは悪いので後回しとして、分裂と魔人化ですかね。
(それでいこう)
「ノマソレド・ルナ・ヒスイ」
呪文を唱えると股間からビームが……放たれることはなく、代わりに闇と風が放たれ、闇が晴れるとルナが、風が渦巻きその中からヒスイが飛び出してきた。
(ここに来て仕様変更か)
――――交代時も似たような感じに仕上げています。
仕事が早いな、特に不満はないからこれでいいか。
「それじゃあ早速合体だ、オトニオジョオノマム・シロ・ユキ・ヒスイ・ルナ」
呪文によりそれぞれが属性エネルギーに変換される、シロが土砂、ユキが月光、ヒスイが雲、ルナが闇になり四つが全て合わさり混ざる。
闇色に輝く光の玉と化したソレに罅が入り、卵から孵化するように中から一体の女人型の魔物が現れる。
まず目に付くのは褐色肌とそれを引き立てるような白い頭髪、その頭頂部には所謂獣耳、それも狼のものと思われるのでシロの要素であろう。
それに人型ということは恐らくルナが主体となっていて肘から手の先までにかけて毛皮で覆われていて鋭い爪が凶悪さを醸し出している……これはユキの要素か。
となるとヒスイの要素はどこに行ったかといえば、背中から翼と、腰のあたりから竜の尻尾が生えている。
(レイ、情報を頼む)
――――了解しました。
パラパラとページがめくられ、何もない空白のページにサラサラと記載されていく。
《図鑑番号・X二》
『アルテミス、合成女神、属性:闇・月・地・風。』
《個体情報》
『名前:ヒユシルナ、性別:♀、レベル:九二、特性:必中、性格:無慈悲、技能:風の弓矢、地の捕縛、闇の隠蔽、月の癒し』
(女神って、ちょっといきなりランクが上がりすぎじゃないですかね?)
――――ええ、まあ四体合体であるので致し方ないかと……合体元が増えればそれだけ格も力も増しますので。
そりゃごもっとも……しかし四体混ぜた程度で神になれるとか少し安すぎやしませんかね?
とは言えども恐らく組み合わせの結果であり普通の合体ではこうはならない気がする。
何せ不自然さが全くない……ベオウルフドラゴンの時は少しだけツギハギ感があったからな。
(というか名前はどうにかならなかったのか、混ぜればいいってもんじゃないだろう?)
――――仕様ですので、もしこのまま別の名前を付ければシロ・ユキ・ヒスイ・ルナの意識は消え新たな別個体となり解除も分裂もできなくなるのでご注意ください。
あくまでも名前の名残があるから戻れるということか、では逆に一個体にまとめたい時は合体させて名付ければいいのか。
(なあ、俺が仲間にできるのは本当に希少種のみなのか?)
――――いいえ、♀であればどの個体でも構いません。が、後の成長度合いなどを考慮して私の方で勝手に調整しておりました。
(そうだったのか、理由は分かったが次からは通常種でも頼む、合体の素材にしたい)
――――なるほど、そういった使い方でしたら了解いたしました……マスターの特性の制限を解除致します。
制限……? なんのことか分からない俺は自分の状態を確認するように見下ろすと体から何やら光のようなものが放出され――――。
――――来ます、マスター。
周囲から五体もの魔物が飛び出してきた!