16匹目:ベオウルフドラゴン
飛んでくる塩の結晶、大きさで言えば車ほどもある、当たれば俺なんてひとたまりもないだろう。
俺は腕で顔を守るように遮り目を閉じた、無駄だと分かっていても条件反射というやつだろう……俺が死を覚悟したその時だった。
バキメキボキッ。
そんな音が俺のすぐ近くから聞こえ、次いで呻くような声で一言。
「うぅ……しょっぱい」
そんな聞きなれない声に目をそっと開けるとそこには見たこともない白いドラゴンが居た。
屈強そうな腕には全てを引き裂けるような鋭い爪が、口元は凶悪に歪み、隙間から覗かせる牙は全てを噛み砕きそうである。
――――合体完了。図鑑及び個体情報を表示します。
《図鑑番号・X一》
『ベオウルフドラゴン、合成魔竜、属性:氷・星・天・竜。』
《個体情報》
『名前:スイシラユキ(翠・白・雪)、性別:♀、レベル:八三、特性:先読み、性格:慎重、技能:フリーズハウリング、ブレイクウイング、アイスファング、メテオスノーマン』
変わりすぎじゃないですかねぇ? 助かったからなんかテンションおかしいけど、だからといってこの情報を軽く流せない。
なんだよレベル八十三って、図鑑番号も今まで漢数字だけだったのにどうしたいきなり……Xってなんだよ。
――――質問は後にしてください……来ますよ。
レイのページから目を逸らすとすぐそこまでウォーターロードが迫ってきていた。
やばい、命令が間に合わない――――と思ったがそれは杞憂だった。
俺の視界を白い壁が覆いそれが迫り来るやつの下顎を打ち抜いた、衝撃でウォーターロードはちゃぶ台返しのちゃぶ台のようにひっくり返り縦回転して飛んでいき地面に叩きつけられる。
――――今のはブレイクウイングのようですね。
俺を守った白い壁の正体はスイシラユキの翼だったらしい、大きく発達した翼は折りたためば俺をすっぽり包み込めるほど大きく白く柔らかそうな羽毛にはいいお布団になりそうな予感がした。
戦闘中だというのに腑抜けたことを考えていた俺の思考を遮ったのはスイシラユキだった。
俺が命令も出さないうちに飛び出していく彼女の行動は先走っているようにも思えるが、特性が先読みとあったからもしかしたら俺の命令を先読みしたのかもしれない。
俺だったら――――とりあえず未だ怯んで動けない奴に追い打ちをかけるためフリーズハウリングか、メテオスノーマン、遠距離っぽい攻撃で足止め、接近してからアイスファングとブレイクウイングのコンボ……みたいな命令をするだろう。
スイシラユキが雄叫びを上げると空に魔法陣のような物が描かれそこから巨大雪玉が落ちてくる、それがやつを押しつぶしたあとにダメ押しのようにもう一つ、先ほどのより一回り小さくした巨大雪玉が落下。
最初の雪玉と合体して、雪だるまと化し……数秒後に粉々に砕け散って消える。奴は健在だったがその姿は最初より小汚くなっており傷もいくつか見え、満身創痍といった具合だ。
そこに雪玉が消えるのを待っていたスイシラユキが氷でつららのように長く伸ばし強化した牙をウォーターロードの胴体に深々と突き刺した。
噛み付いたまま三回ほど首を振るいその反動を生かしウォーターロードを真上に放り投げる。
スイシラユキに噛まれた傷口は血が凍って塞がっている。
ウォーターロードが空中を浮遊している間にスイシラユキが再び雄叫びを上げメテオスノーマンを発動させる……がその位置だと自分も潰されるぞ、どうするつもりだ?
今度のメテオスノーマンは最初から雪だるま状態で出てきて、大きさは先程より小さめだ。それがウォーターロードより早く落下してきて、空中でウォーターロードと接触、加速しながら落下してくると、スイシラユキは地上で力を貯めるように翼を折りたたみ接触する寸のところで一気に振り抜く!
バキメキボリッと骨を砕くような音と共にスノーマンが砕け散り、ウォーターロードの体がボロ雑巾のように宙を舞い、浜辺に落ちる。
……勝った。
「グォオオオオオオオオ!」
勝利の雄叫びを上げるスイシラユキが嬉しそうに俺に頭を擦り寄せてくるがその巨体に俺は力負けして砂浜に倒れこむ。
緊張が解かれてすぐには立ち上がれそうにないが俺たちは勝利したんだ。
そして勝利を再確認しようとウォーターロードの姿を確認すると……いつの間にかそれは波打ち際まで移動しており海水を取り込みみるみるうちに傷が塞がっていっている!
「スイシ――――」
俺が慌てて命令を出そうとすると違う声に遮られた。
――――お待ちください。
こんな時になんだって言うんだ? 命令を出さないと奴が完全復活してしまう。
スイシラユキは気づいていないのか毛づくろいなんてしてやがるし、さっきまでの先読みはどうした?
俺が次に奴に視線を戻したとき既に完全回復を終えたのか目と鼻の先というほどの至近距離まで接近されていた。
――――ウォーターロード(魔王種・性別不明)が友達になりたそうにしている!
は? え? 友達……仲間とかじゃないのか? っていうか性別不明ってすべてが今までになかったパターンだ。
しかし友達になれるってんなら、なるよ……殺されそうになったけど、こっちも半殺しにはしちゃったからお互い様ってことで。
――――ウォーターロード(魔王種・性別不明)は友達になった。……ウォーターロードに渾名を付けますか?
名前じゃなく渾名か……そこらへんは友達っぽいな。
んーウォーターロード……水の……主? いやウォーターロードのままで……ターロード?
よし、決めた! 今日からお前はタローだ!
――――タローは嬉しそうだ。
『良い、今日から我はタローだ、よろしく頼むぞ、友よ』
「ああ、よろしく頼むぜ、タロー」
こうしてウォーターロードと俺は友達になった……が、レイから突然ビームが放たれ、それがタローとスイシラユキに当たる。
タローは抵抗する、まもなくレイの中に収納され、スイシラユキに至ってはヒスイ、シロ、ユキに分裂して収納されていった。
「な、なんだ? 俺は呪文を唱えてないぞ……」
突然の出来事にパニックになりかける俺にレイが囁くように告げてきた。
――――お疲れ様でした、これにてチュートリアルは終了です。……もし続きをプレイしたければお部屋に隠されましたタブレット型情報端末を見つけてください。
では、良い眠りを……。
序章完?