15匹目:ウォーターロード
水の化身とも言えるその魔物は水中で生きるためにエラやヒレを持っているようだがそれとは別に陸地で活動出来るように四本の足と……口から白い吐息を吐き出しているところを見る限り肺呼吸も行っているようだった。
まあ生物の体の仕組みなど知らんから詳しいことは分からないが陸地で戦えば地の利があるということはなさそうだ……ルナを呼んでテレポートで逃げるか?
などと思案していたら不意に頭の中に凛とした声が響いてきた。
『問おう、これをやったのは貴様達なのか?』
これとは……つまり、ウォーラス達の死体の山のことだろうか?
『どうやら、貴様達のようだな……よくも我が同胞を、水に生きる者たちの命を奪ったな』
こいつもウォーラスキングと同じように仲間の危機に駆けつけたって事か? 生憎と既に全滅してるが……間に合わなかった?
「マスター、こやつはそもそもここに最初から向かってきていた……ただの通りすがりだろう。」
「じゃあ難癖をつけて戦おうとしているだけって事か?」
――――どうやらそのようですね。ちなみに彼の情報はこちらになります。
《図鑑番号・二四五》
『ウォーターロード、水生魔王、属性:水(淡・海)。』
水生……魔、王? ってなんだよ、魔物じゃないのか?
――――水の魔物を統べる王ですね、極端な話ボス戦というやつです。
ボスって……そんな奴に勝てる訳ないだろ? 第一レベルは? いくつなんだよ。
――――見たところヒスイの方が若干勝っているように思えますが。
だからって勝てるとは限らない……逃げようそう思ったら周囲から白い結晶上のものが地面から突き出してきた。
――――塩の結晶のようですね、我々を逃がすつもりは無いようです……戦いましょうマスター。
「仕方ない、行くぞ! ユキはとりあえず戻ってこい、ヒスイはエアショットと翼撃を使い分けて応戦、シロは咆哮波でヒスイの援護だ!」
俺は砕け散ったウォーラスキングの死骸の上のユキを呼び戻し、ヒスイに攻撃指示、シロに援護指示を出し……二人に丸投げをした。
ウォーターロードは余裕とでも言うのかヒスイ達が攻撃態勢に入ったというのに身動き一つしない。
「舐めるなっ! エアショット!」
相手の態度が気に障ったのかヒスイの雄叫びを上げエアショットを放つ、それは先ほどウォーラス達を仕留めていたものとは違いヒスイの本気が伺える一撃だった――――が、奴はそれを正面から受け止めてみせる。
ぶつかった衝撃で砂埃が舞い上がるが、ヒスイが羽撃く事によりすぐさま煙は晴れ、無傷でそこに立つウォーターロードの姿が見える。
その様子にヒスイは一度引き、入れ違いに前に出たシロがやつの顔面に咆哮波を叩き込むがそれを奴も咆哮を上げることにより相殺した。
「奴も咆哮波が使えるのか」
――――否定、あれは技能ではありません。ただ普通に大きく吼えた、それだけですよ。
やはりレベルが違いすぎる、頑張ってくれているヒスイ達には悪いが俺の心は折れかけていた。
――――マスター、提案があります。
こんな時になんだよ?
――――彼の者を倒す術が一つだけあります。
何?
――――合体魔法です。
合体魔法……確か使っていないやつか、『オトニオジョオノマム』だったか?
――――それです、それを使いヒスイ、シロ、ユキを合体させるのです。
それって元に戻れなくなったりするのか? 合体したら一生そのままとか。
――――大丈夫です、先ほどの呪文の下に解除の呪文も書いてありますから、合体魔法とは素体となる魔物の長所を併せ持った一体の魔物を生み出す魔法。レベルや技能といったものも統合され戦闘力が飛躍的にあがります。
……迷ってはいられなさそうだな、まあ迷う要素なんてどこにもなかったが。
「二人共一旦引け!」
ヒレと翼をお互いにぶつけ合い闘うウォーターロードとヒスイにシロが加勢して一瞬の隙を作り、それに乗じてこちらに戻ってくる。
足元に戻って来ていたユキをヒスイに乗せると俺は股間の位置からレイを取り。
「行くぞ、『オトニオジョオノマム・ヒスイ・ユキ・シロ』!」
俺が呪文を唱えるのと同時にウォーターロードはその角の先端より塩の結晶を生成しそれを砲弾のように飛ばしてきた――――その狙いは……俺だった。
今日は誕生日だったりします、誰か祝って……。