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0匹目:全裸の俺と赤い本

 俺の名前は松海草太(まつかいそうた)、今年で十九歳になる暇人(フリーター)だ。

 自分にあった仕事を見つけるわけでもなく、ただ食うため遊ぶために金を稼ぐ毎日を送っている。

 そんなある日のことだ、俺はいつものように近所のレンタルビデオ店の十八禁コーナーを物色していた、特に見たいものがあったわけでもないが溜まりに溜まったリビドーを解放するという意味合いを込めて二次元物のやつを借りてみた。


 気温三十六度、七月とは言え近頃の夏は暑い……なんだよ三十六度って平熱かよ、人肌気温ってか?

 僅か徒歩五分程度の道のりを前のめり気味に俯きながら歩く、別にお天道さんに顔向けできないって訳じゃないがあんなもんに態々顔を見せてやる必要もないだろう。

 アパート前に付いた俺はここから全力を出す、まずは玄関までダッシュしてそれからドアノブに鍵差して回し抜いた後全力でドアを開く、すると中からはほんのりしかしながら外に比べれば冷ややかな空気が汗で湿った肌を撫でる。


 とりあえず部屋の中に入った俺はドアの鍵を掛けおもむろに服を脱いだ。

 上はもちろん、ズボンどころか下着までも脱ぎ捨てた俺は生まれた時と同じ姿になった……いやそうでもないなあの頃から比べれば身長も伸びたし体重も増えた、背格好で言うならば中肉中背。

 太くもなく細くもなくがっちりしているわけでもないがある程度は引き締まった肉体をしていると思う。

 別に俺の肉体美についてなんて今はどうでもいい、俺はフルチンでリビングへと向かうとリモコンを手に取りテレビの電源をつけるが、画面は真っ暗なままだ。

 故障ではない、その証拠に画面の右上にはビデオ1と表示されている、俺は基本的にテレビというものを見ない、テレビはレンタルしたDVDなどを見るかゲームをするためにしか置いていない、なのでアンテナのコードなども刺さっていない。


 前に国営放送的な集金が来た時はこれを理由に帰らせようとしたのだが、集金のオバさんはこれを否定、中に入れろと言うので鍵を開けたんだが……常に全裸な俺を見て絶叫、走り去ったので帰っていったかと思えば警察を連れてまたやってきた。

 公然猥褻罪だーなんて言っていたがカーテンも締め切って外からは覗かれないようにしていたのに、オバさんが勝手に家に侵入してきたと、全裸のままドア越しに警察に説明してみたところオバさんは不法侵入か何かの罪で連れて行かれましたとさ。


 ……今日はやけに話が脱線するがとりあえず今はDVDだ、レンタルビデオ店の袋から取り出し、ケースを開きDVDプレイヤーにセットし、再生ボタンを押すだけの簡単な作業。

 DVDが再生され制作会社のロゴのようなものが表示される、見たことがない変な魔法陣みたいな模様だった。

 それからしばらくはまた真っ暗な画面が続く、大体五分ぐらい経っただろうか? 無音なのは変わらないが背景が明るくなった。

 白い空間にコスプレしたような女性の姿が映っている、古代文明の巫女って感じの衣装で露出が激しい。

 タイトルが異世界なんたらって書いてあったしパッケージも二次元の絵柄だったからアニメーションかと思っていたがどうやら当てが外れたようだ。


 見つめ合う俺と巫女さん、いや正確にはストリップを始めた巫女さんに釘付けになった俺と正面カメラ目線のまま器用に服を脱ぎ散らかす巫女さんという感じだが、無性に目が合っていると思えてしまう。

 そう思っていたら突然、巫女さんの顔がアップになった、体は恐らく一糸まとわぬ全裸でわざと体を見せないつもりだと思った俺はこの時既に普通じゃなかったらしくテレビに掴みかかり顔を寄せていた。

 目と目が合う、今度こそ本当に巫女さんの瞳に俺の顔が映っているのがよく見えるもん……なんで画面の中の人間の瞳に俺が映るんですかね?

 スっと画面から腕が伸びてくるというか生えてきた、もちろん巫女さんの腕だ、俺はそれに為す術もなく捕獲されテレビの中へと引き込まれた。


 たゆんたゆん、ぷるんぷるん……はて、女性の肉体における擬音とは何が一番良いのだろうか? そんな下らない事を考えながら覚醒した俺は全裸で全裸の女性に抱きしめられていた。

 そして……突き放された、白い上も下もよくわからない空間に転がされる俺。一体俺が何したってんだよ?

 突き飛ばした女は再び巫女さんの服を急いで着てから俺の方に近寄ってきて一言。


「ご愁傷様です、貴方は選ばれました諦めてください」

「は?」


 間違っていないはずだ、いきなりそんなこと言われれば誰だって「は?」と言ってしまうはずだ。

 しかしこの方は違うらしい、何やら今の反応に不満があったらしく残念なやつを見るような目で俺を見下してくる。


「貴方は選ばれました、貴方が住んでいた世界とは違う異世界に連れて行かなければなりません……と言っても勇者とかそういうのじゃないです。」


 ではなんなのか? こういっちゃなんだが俺も小説だとかライトノベルだとかで異世界とかそういうのに思いを馳せたことはなくもなかったがまさか自分が、それも全裸で連れて行かれるとは思っていたかった。


「そんで、俺はなんで連れてこられたんだ?」

「ええ、まあ……強いて言えば生活してもらえれば全裸で」

「は?」

「全裸です、そのままで生き残ってください。安心してください人間はいません、が魔物はうじゃうじゃ居ます全裸を見られても大丈夫ですよ」

「そんなこと心配してねぇよ! ……ただ、できれば前を隠すものが欲しいな……流石に急所を露出し続けるというのもどうかと思うんだ」


 俺は現在股間を手で押さえて隠している、いくら人間がいない所だといっても全裸でこのまま放り出されるのは望ましくない。


「そうですね、分かりましたというか最初から隠すものは用意してあるんですよ……はい、これ」


 そう言って手渡されたのは一冊の赤い本だった、なかなかの大きさが有りこれなら俺の股間など余裕で隠せる――――って何故に本?


「それは契約の魔本、グリモワール……あらゆる魔物の情報を視認することで把握し自分のページとして増やしていく本の魔物よ、その子はあなたへの選別といったところかしら」


 そういうと表紙描かれた瞼のような模様がめくれてギョロっとした一つ目が現れた。


「こっちみんな!」


 全裸の俺を舐めるような視線で観察する本……何がしたいんだ。


「ああ、それはね、マスター登録してるのよ、害はないわ」


 ガン見していた本がくるりと一回転したと思ったら俺に向かって飛びついてきた、一体何なのかと思ってみたら……ちょうど良い位置――――俺の股間の前にくっつくというかその空間に固定されたというか。

 ともかく俺の股間を隠すような位置について停止したので俺は隠すのを辞めて立ち上がった。


「準備は良さそうね、それじゃあ最初のパートナーを選びましょうか」

「パートナー? この本とは別にか?」

「ええ、そうよ、流石に全裸で送り出すんだもの戦闘能力のある魔物もつけないとすぐ死んでしまうでしょう?」


 確かに、この本だけでやり過ごせる自信はない。


「それでパートナーってのはどこにいるんだ?」

「ここには居ないけどこれから提示する三体の内一体を選んでくれればその子がいるところまで転送するわ」

「わかったなら早くその三体っていうのを見せてくれないか?」

「せっかりな人ね、いいわけど見せる訳じゃないわ、口頭で説明するだけ、説明は一度きりだから聞き逃さないでね。」


 一体目:ベビードラゴン、属性は火、竜。口から強力な火炎を吐き背中にある羽で少しだけなら空も飛べるわ、住んでいる場所は火山の火口近くね、転送するならその辺になるわね。

 二体目:マンドレイク、属性は草、毒。普段は地面に埋まっていてあまり動かないわ、住んでいる場所は毒沼がある湿地帯ね、転送するならその辺になるわ。

 三体目:スライム、属性は水。どこにでもいる魔物よ、大して力もないけど生命力だけは強くてどんなに攻撃されてもかけらが残っていれば水を与えるだけで再生するわ、住んでいる場所は比較的安全な森の中にある湖の周辺ね――――。


「転送するならそこってんだろ? 定型文は聞き飽きたよ、とりあえず俺はスライムを選ぶから」

「スライムなの? 物好きね、でもいいわ――――それじゃ気をつけてね」




 そういわれて俺は転送されていった。魔物がうじゃうじゃ住んでる危険極まりない大陸に全裸で――――。


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