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見知らぬ人に対してあいさつは必要か?-4

 現われたのは近所のおじさん。

 冷静に、その場にいる人たちの話を聞いて、ウンウンと頷いている。

 そうして、ついに、僕に向って、こう言い放った。

「けど、それは君も悪いね。あいさつくらいしたらどうなのかね?その程度は、大した手間でもないだろう」

 カ~ン!

 この瞬間、第2ラウンドの鐘が鳴った。新しく登場した近所のおじさんは、僕の仲間などではなく、仲介者でもなく、やはり敵だったのだ。だったら、容赦はしない。ここで、再び、僕の心は燃え上がる。戦闘民族の血が沸き立つのが自分でもわかった。けれども、そんな感情はおくびにも出さない。表面上は、冷静そのもの。

 そして、僕はおじさんに対して、こう返す。

「だったら、あいさつ“くらい”返さなくても構いませんよね?あいさつ“程度”になんの意味もない価値もない。返答する必要もない。そうも言えるのでは?」

 おじさんがイラッとしているのが空気を通して伝わってきた。けれども、それを表情に出そうとはしない。さすがに、長く生きてきただけのことはある。この辺は、ひよっこの使い手とは違う。少しは手ごたえがありそうだ。

「まあまあ、そこは大人なんだから。中学生があいさつしてきたら、素直に返そうよ。『こんにちは』に対して『こんにちは』それで終わり。みんな平和になる。それでいいじゃあないか」

 これに対しては、僕も一瞬考えた。この後の返答しだいで、戦闘の方向性がガラリと変わってくる。それでも、僕はかなり好戦的なセリフを選んだ。一種の賭けだった。

 ええい!ままよ!そう思いながら、僕はこう言い放った。

「そのような細かい部分にこだわるのは、チャチな人間だからなのでは?チャチな人間はチャチな生き方しかできないというのは本当のようですね。それに、平和?安定?そのようなものを大事にするから成長しない。いつまで経っても、同じ世界のまま。それ以上、成長できない。必要なのは、飛び抜けた発想力。そして、能力、成長。その為には平和を大事にしていてはいけない」


 実は、このセリフは、僕が以前に生み出した小説の登場人物のセリフそのままだった。そのキャラクターになりきって、同じセリフを使ってみたのだ。現実の世界でこう言われたら、相手はどのような反応を示すのか見ておきたかった。確認しておきたかった。

 そういう意味では、僕は根っからの小説家だった。人と仲良くするとか、世界の平穏とか平和とか、そういうものよりも大事にしているものがある。それは、“いかに、いい小説を生み出すのか”それだけ。


 おじさんのイライラは、さらに増す。それは、あからさまに表情にも表れた。

 こうなると、さっきの女子中学生と同じ。向こうは、どんどん感情的になっていく。こちらは、冷静そのもの。しかも、言葉の使い方は全然違う。言っちゃ悪いけど、全然なっちゃいない。

 この人も、“言葉に力がある”と信じて疑わない。だから、次から次へと喋る喋る。けれども、それらの言葉は、僕の心に全く届かない。響かない。言葉を選んで使っていないから。

 もう、この時点で、勝負は見えていた。


 結局、最後はこうなった。

「もう、いい。行きたまえ」

 そう、おじさんは言って、僕を解放してくれた。その後も、「まったく最近の若いもんは…」とか「礼儀もへったくれもあったもんじゃない」とか、ブツクサ呟いていたが、もう遅い。そんなものは負け犬の遠吠えに等しい。言いたいコトがあるならば、さっき僕に面と向ってハッキリと言っておくべきだったのだ。

 こうして、僕は1つの戦闘を終えた。


         *


 …と、まあ、これが事の顛末というわけ。

 1つ、読者諸君に勘違いしておいて欲しくないのだが、決して僕は腹を立てているわけではないのだ。むしろ、感謝しているくらい。だって、そうでしょ?このように素晴らしい小説が、また1つ書けたわけだから。

 やはり世界は素晴らしい!外の世界に出てみるものだ!このように新しい小説を生み出す経験が、そこかしこに転がっているのだから。

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