表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/200

最初に小説を書いた時のあの感動

 理想の読者は、僕の心の中でフフフッと微笑んだ。

「それは、よかったですね。おめでとう。そこに気がつくとは。でも、きっと、あなたはそれを忘れてしまう。忘れまいと気をつければ気をつけるほど、覚えていられなくなる」

 理想の読者は、そんな風に予言めいたセリフを吐いた。

「そんなコトないさ!僕は、小説の真髄を掴んだんだ!忘れるはずなどない!」

 僕は、そう反論する。でも、僕自身、それをよく理解していた。そうして、理想の読者は、そこを突いてきた。

「忘れるに決まってますよ。だって、誰もがそうなのだから。一番最初に小説を書いた時のあの感動、あの感覚を、いつまでも覚えていられる人などいるはずはない。そんな人がいたら、それは天才」

 僕は、その言葉に反論できなかった。

 理想の読者は続ける。

「理由は、人それぞれ。“締め切りに追われる”かも知れないし“もっと、いい小説を書きたいから”かも知れない。いずれにしても、忘れてしまう。小説は、自然に浮かんでくるものではなく、降ってくるものでもなく、無理矢理に作り出す存在へと変わっていく」

 僕が黙ったままでいると、理想の読者は一転してやさしい言葉を投げかけてきてくれた。

「でも、いいんですよ。それでいい。だって、また思い出せる時が来るもの。あなたならば、それができる。もしも、どうしても思い出せなくなったら、その時は…」

 一瞬、間を空けて、理想の読者は言い放った。

「ここに戻ってきて、この文章を読めばいい」

 なるほどな、と僕は思った。この小説を読んでいるのは、僕なのだ。この小説を書いているのが僕ならば、読んでいるのも僕なのだ。大勢の僕。過去にそうであった僕や、未来にそうなるであろう僕。

 遠い昔に、“ほんとうの小説”の書き方を知っていたけれども、忘れてしまった大勢の僕なのだ。僕は、小説の真髄を思い出す為に、この小説を読んでいる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ