女嫌いな殺し屋は守るベキ者を見つけることが出来るのか
女は嫌いだ。
俺はずっと女に色々嫌がらせされてきた。
小学校、中学校合わせて俺の変な噂が出たりと誰が流したのだと気になり調べてみれば同じクラスの数人の女子だった。
そして、その噂というのが俺が同じクラスの女子を盗撮したとかいやらしいことをしたという確証もない噂だ。
もちろんそんな事はしないしするつもりにもなれない。
そのおかけでクラスではなく学校全体で孤立していた。
まあ、その方が楽だし。自分がやっているとあるバイトにも支障はない。
だけどちゃんと女のことは嫌いだ。
高校は遠い所を選んだから知り合いがいない。
しかし、女を恨みすぎてはっきりとものを言ってしまう。
困りものだな。まあ治すつもりなどないが。
俺の家の家族構成は今は亡き何をやっていたかわからない父親と普通の母親。
そして、いつもお兄ちゃんお兄ちゃんうるさいガキの妹。
ちなみに俺はこの家族の子ではない。
養子なのだ。幼い頃、産みの親に捨てられた俺はここの家族に拾われた。
「消しゴム落ちたよ?」
俺の思考を遮るように隣の女が話しかけてくる。
この女は誰にでも優しくする女だ。俺が授業後、一人で明日の予習をしながら色々な事を考えていたらしくうっかり消しゴムを落としたみたいだ。
その女は消しゴムを拾いあげようとするが俺は女に触られたくないのでそいつよりも速く拾った。
「別に自分で拾うからいい。そんな優しさはいらない。むしろ迷惑だ」
「ご、ごめんね……」
次の予習が終わったのでさっさと帰ることにしよう。
教科書をスクールバックにしまいその場を離れた。
前触れもなくスマートフォンがなる。
通話ボタンをタッチし耳に当てた。
「仕事か?」
「そうよ。次のターゲットは闇金の山口組の幹部の志島って奴よ。詳しい情報と顔写真はメールで送っておくわ」
「別にいい。メールでは危ないからな。だいたいそいつはターゲットになるだろうと思ってもう調べてある。あと女声で喋るな。虫唾が走る。男声にしろ」
「嫌よ。何でわざわさ男声で喋らないといけないのよ。だいたい私は女なんだから」
チッと舌打ちをする。
通話を切って、ターゲットに向かった。
町のビルの中からターゲットが出てくる。
泥酔状態だ。ありがたい本当にありがたいな。殺すのが楽だ。
そう、俺のバイトとは殺し屋だ。
何年か前にスカウトされて始めた。
制服からすでに漆黒のコートに着替えている。
闇夜に紛れながら、ターゲットに近づいて行く。
フードを目深に被る。
バタフライナイフを出して、すれ違いざまに喉元を切り裂き、顎から脳に向かってナイフを突き立てトドメを刺す。
冷静に冷酷にそして俊敏にかつ静寂に滞りなくその作業を終える。
時間にして5秒。
たった数秒で人の命は消えてしまう。
しかし、まだ仕事は終わらない。
後処理が残っている。
さっき電話した奴の電話番号を打ち電話する。
「終わった。さっさとこい。もし見られたら追加で処理する死体が増えるぞ」
「はいはい、わかったわよ。あと一分で着くから待ってて」
そう言って向こうから電話を切る。
そして、一分後に一台の車が来た。
「さっさと持ってけ」
「わかったわよ、そう急かさないの、あと報酬ね」
そう言って女は金が入った茶封筒を渡してきた。
それを受け取り、その場を去った。
家に帰ると妹が抱きついてくる。
「お兄ちゃんおかえり!」
うるさいので引き剥がす。そして何も言わずに自室へと足を向けた。
「ふぅ……」
年齢に似つかわしくない中年めいたため息を吐いた。
「ああ、しんど」
そして、下へ行き夕ご飯を食べて風呂に入りさっさと寝た。
こんな生活はもう何年になるだろう。人を殺すのはもう慣れた。
女を殺す依頼はたまに入るがその時は徐々に痛めて殺す。
殺しに慣れるというのは怖いな。もう俺は普通の生活は出来ないだろう。
翌朝、早い時間に学校へ行く。
それは、妹に会いたくないからだ。理由は一つ。うるさいから。
そして、その日の授業は何もなく過ぎた。
しかし、連続でスマートフォンが鳴る。
「なんだよ。連続はキツイ」
「ごめんなさいねー。まあ許してよ。今回のターゲットは君の義理の妹さんよ」
「あいつ、何かやったのか?」
「いいえ、妹さんは何もやってないわ。妹さんのお父さんよ。彼女のお父さんはね。生前は裏の大物だったのよ。で彼女のお父さんを恨んでる今回の依頼人が妹さんを殺せって依頼が来たの」
「そうか。わかった」
「私情には流されないように気をつけなさい」
「そんな事はわかっている」
「そう、じゃ、またね」
通話が切れる。
今回のターゲットは妹か。
ちょうどいい。うるさいのが消える。
俺は足早に家路に着いた。
「あれ、お兄ちゃん早いねーおかえり!」
俺には眩しすぎる笑顔がそこにある。
「ああ、お前を殺すために今日は早く帰った」
「えっ……。な、にそれ……」
「聞こえなかったのか?お前を殺すんだよ。俺がな」
明らかに妹は狼狽している。
まあ、仕方ない。
「そ……なの。お兄ちゃんの仕事は殺し屋だもんね。仕方ないよね」
今度は俺が狼狽する番だった。
「な、なぜ俺が殺し屋をしている事をしている」
なぜだ。なぜ知っている。
誰にも見られていないはず。
「お兄ちゃんの部屋に入ったらナイフがあって、気になったからお兄ちゃんの跡を追ったらお兄ちゃんが人を殺してたから……」
まさか、妹に見られるなんてな。
全く不幸だよ。
そしたら疑問が出てきた。
「妹、だったら何で警察に言わない。何で怖がらずに明るく振舞える」
妹はしばらく考えたのち口を開けた。
「だって、お兄ちゃんは昔あたしが小さい頃凄く優しかった。誰よりも優しくてあたしが困ってたら助けてくれた」
「それだけの理由か?」
「ち、違うもん!お兄ちゃんは人を殺してるんでしょ?だったらいつもお兄ちゃんは灰色の世界しか見てないんでしょ……だから、せめてあたしだけでもお兄ちゃんの癒しに、太陽に!色があるお兄ちゃんが人間でいられるような存在に成りたかったの!お兄ちゃんは誰よりも弱くて、でも強くて、でも弱いからあたしが支えてあげなきゃ……て……思った……の……」
妹の目尻には大粒の涙が浮かべられていた。
女は全部一緒だ。経験が物語っているじゃないか……。
例外なんていないは、ず……
殺し屋は私情に流された瞬間、殺し屋ではなくなる。
いつも俺が帰ってくると妹が太陽な笑顔で俺を迎えてくれた。
いつもいつも。
でも、俺はその笑顔を壊そうとしている。
嫌だ
違うお前は殺し屋だろ?
でも殺したくない
無理だな。依頼はどうする
知るものか
お前は殺し屋から殺し屋に殺されるターゲットに成り下がるぞ
別に構わない
お前は馬鹿だな
うるさい
覚悟は出来ているのか?
出来ていないなら、もう妹を殺している
そうか、この先大変だぞ?
別にいい。俺は元殺し屋だ。誰よりも強い
もう、勝手にしろ。死んでも知らないからな
「妹、俺は決めた。お前は殺さない。今までありがとうな……」
妹を抱きしめた。すると妹も俺の腰に手を回し抱きしめる。
すると、今まで溜まっていたのか妹が大声で泣き始めた。
そして俺はスマートフォンを取り出して例の番号にかけた。
「俺だ」
「終わったの?」
「いや、終わらない。妹は殺させない」
「……やっぱりそうなったわね……いいの?あなたも命を狙われることになるのよ?」
「別に構わない。来るやつは殺すだけだ」
「あら、野蛮。シスコンになっちゃったみたいね」
「そういう事になるのかもな」
「わかったわ、依頼人には事実を伝えるわ。覚悟することね。あと一人で守れるとは思わないことね。というわけで私も一緒に妹さんを守るお手伝いしてあげるわ」
「ありがとう」
「別にいいわよ」
通話が切れる。
次の日、俺は妹と一緒に学校へ行く。もちろんナイフを隠し持ってだ。
隣には太陽のように輝く笑顔がある。俺にとってはこの笑顔こそが一番の報酬だな。
俺は女が嫌いだ。
しかし、妹は別らしい。
かくして一人の青年は一人の協力者とともに自らの命を賭して妹を守る決意をしたのだった。
どうでしたか?楽しんでいただけたでしょうか?
今回は息抜きの短編ですねー
感想を頂けると物凄く嬉しいです