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魔法天使の恋愛戦闘~お兄ちゃん、大好きだよ~  作者:
魔法天使 パラレル・ティーカ
9/23

第九話:決着 そして、約束と旅立ち

第九話:決着 そして、約束と旅立ち


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あたしの目の前は、桜色の悲しみで溢れていた。

 その桜色はこれまでと全然変わってないはずなのに、あれだけ憎かったはずの桜色が、今は愛おしくて堪らない。

 

 あたしの想い。

 そして、桜愛理子の想い。


 実の兄を愛してしまった二人の想いは、今は共に膨れに膨れあがっている。

「いくよ」

 あたしは、静かに言って、そっと目を閉じた。

「チェリー・ムーンライト。アタック~~!!」

 シリアル・アリスの必殺技が放たれた。

 あたしは何もせずにただ、その想いを全身で受け止める。

 言葉にすると少しは格好いいけど、実際は痛いなんて表現の100倍は痛くて、二秒ぐらいは頭が真っ白になった気がする。

 だけど、あたしは気を失うわけにはいかない。

 この想いを途切れさせるわけにはいかない。

「チェリー・ムーンライト。アタック~~!!」

 二発目が来た。

 これもイリルを殴りつけてやらないとやりきれないぐらい苦しいけど、あたしはまさにサウンドバックのような無防備の状態を崩さない。

 だって、想いを、彼女の想いを一片たりとも掴み損ねたくはないから。

「チェリー・ムーンライト。アタック~~!!」

 三発目だ。

 やばいかな。一瞬、お花畑でさわやかに笑っているお兄ちゃんが見えた気がするよ。

 あれが天国って所なのかな。だったら、行っても良いかもとか考えてしまう。

 あたしはあのお花畑で毎日お兄ちゃんと笑い合って、お兄ちゃんとキスしあって、お兄ちゃんと抱き合って、あのお花畑のアダムとイブにあたしとお兄ちゃんが………


「定香さん!!」


 いつものように空気を読めないイリルの、いつも以上にせっぱ詰まった声があたしを現実世界に引き戻した。

 全く、この子はいつもあたしがお兄ちゃん幸福に包まれている瞬間をぶち壊すのだから、本当、困った魔法の杖ね。

 でも、ありがとう。今の声は効いたわ。

「はい? 定香さん。何か言いましたか? っと言うか、何で防御しないですか。幾ら魔法天使に変身しているからと言っても、このままじゃ、定香さん。死んでしまいますよ」

「うん。あたしもそう思う。正直、天国が見えて、三途の川を渡りかけていた所よ」

「なら、どうして?」


「だって、あたしは。弾ける想いを届ける 魔法天使パラレル・ティーカなんだから!」


 叫んで、自分に気合いをたたき込める。

 イリルがないと立っていられないふらふらな足、もうシリアル・アリスすらしっかりと捉えられないぼやけた視界、白い靄が張ったかのようにはっきりとしない頭。

 だけど、この心に感じている、そして彼女の魔法から感じ取った想いだけは、微塵も色あせてはいない。

「桜愛理子。あんた、近衛蘭の事、好きなんでしょう。

 大好きなんでしょう、愛しているんでしょう。あんたの想い、魔法を通じて確かに感じ取ったわ。あんたの近衛蘭への愛は、あたしのお兄ちゃんへの想いでも勝てなかったぐらいに、強かった。

 だから、あたしが届けてあげるわ、その想い」


 あたしはイリルを天高く掲げた。


 桜愛理子がシリアル・アリスになった理由は、近衛蘭の死。

 だけど、彼は正確にはクレデターに喰われ、次元の狭間に消えていった。

 だから、もしかしたら、ほんの一片でも奇跡が起きていれば彼は、まだクレデターの中で、何処かの次元の狭間で生きているかも知れない。


 都合の良い解釈かも知れない。

 だけど、あたしは諦めが悪い女なの!!


「届け、彼女の想い。パラレル・パスカル・パーミット」


 イリルの先端で、紫と桜色に彩られた星が大きく成長していく。

 シリアル・アリスの必殺技、チェリー・ムーンライトに込められていた想いを、彼に届いて欲しいから。


「パープル アンド チェリー・スターライト。ゴォォォォォ!!!!!!」


 あたしは、どんな次元までも彼女―桜 愛理子―の想いが届いていくように、紫と桜色に彩られた星を弾けさせた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 彼女の想いが次元の壁を越え、数多にある次元に伝わっていくのを確認した瞬間、あたしは地面に仰向けに倒れ込んだ。

 正直、限界。

 多分、24時間100m走を連続でしたってこんなにはならないってぐらい、心臓とか肺とか血液とかが大暴れしている。

 呼吸一つするのも臆測で、肺を膨らますとそれだけで胸に痛みが走るけど、息をしないことには死んでしまう。

 あたしは苦悶の表情を浮かべながら酸素を求め続けた。

 一体どれぐらいそうしていたのだろうか。

 この時間の止まった世界で、時間感覚なんてきっと一発目のチェリー・ムーンライトを喰らった時点で吹っ飛んでしまったので、全く分からない。

 やっと喋れるぐらいには呼吸が落ち着いた所で、視界が少しずつ回復してきた。

 老眼のようにピントの合っていなかった焦点が結ばれていき、そこには桜色の魔法天使があたしを見下ろしていた。

「あなたは、何をいたしましたの?」

「そっりゃ、はぁああ。あなたも感じたでしょう。すぅぅぅ。あなたの想いを、近衛蘭に届けたのよ」

「何を言っていますの。あの人はもう死んでしまったのですわ!」

「分からないよ。もしかしたら、逆にクレデターを取り込んで、はああ、生きているかもしれない。たぁぁぁ。だから、待ってみようよ。彼からの返事を、ね」

 あたしは桜愛理子にニッコリと笑いかけた。

 彼女はどうしたらよいのか分からないという表情を浮かべて、あたしからわざと視線を外した。


「あなたは、本当に哀れですわ。でも、やっぱり本当に、それ以上に幸せそうですわ。あたなは蘭さんから返事が戻ってくると、本気で信じているのですか?」

「信じてはないよ、願ってるの。そして、想っているだけ。だって、あたしは魔法天使だもん」


 ため息が聞こえた。

 でも、あたしは、桜愛理子の頬に小さく笑みが浮かんでいるのを見逃さなかった。

 その優しい笑顔は、あたしが彼女の想い出の世界で見た、近衛蘭に恋している頃の桜愛理子の表情だった。


「もう一度、言わせて頂きます。あなたは、真の哀れ者です。でも、それ故に真の幸せ者なのでしょうね。

 あなたが魔法天使というのなら、わたしも又、魔法天使ですわ。それなら、わたしも想うことにします。わたしとあなたの想いがあの人に届いてくれることを」


 そう言って、桜愛理子はあたしのすぐ側に腰を下ろした。

 あたしも出来れば、起き上がって彼女と真っ正面から向き合いたかったけど、まだ身体は全然回復してないみたい。

 まだ起き上がれない。

 あたしは仰向けのまま、愛理子はしゃがみ込んだまま、視線を合わせ、共に含みのある感満載の笑顔を浮かべるとそれから先は二人とも止まらなかった。


 あたしはお兄ちゃんの事を、愛理子は近衛蘭の事を、相変わらず空気の読めないイリルがげっそりとするぐらい語り合い始めた。


 お兄ちゃんのことを誰かに話すのが楽しいのは、いつものことだけど、愛理子の話を聞いているのも凄くまるで自分のことのように楽しかった。

 

 あたし達は語り続けた。


 まるでそうすることで、想い続けても消えることのない不安を隠そうとするかのように、互いの愛する人の事を語り合っていた。


 

 そして、ついに、その時がやって来た。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「サクラ……タスケテクレ。…………サクラ……タスケテクレ、トメテクレ、クロートヲ」

 

 返ってきたのは鮮明な声じゃない。

 月並みな表現だけど、壊れかけのラジオみたいなひび割れた声でしかなかった。

 でも、どれだけ聞こえづらくとも、あたし達魔法天使がその想いを聞き間違えるなんて事はない。


 これは、近衛蘭の声であり、彼から送られた想いである。


「蘭さん………。蘭さん、生きてますの。本当に生きてる。そして、蘭さんがわたしに……」

 シリアル・アリスが両手で口を被い、両目から流していた。

 彼女からこぼれ落ちた涙があたしの頬にこぼれ落ちてくる。

 冷たくて、でもそこに籠められた想いは火傷しそうな程に熱くて、あたしまで共感して涙がこぼれ落ちそうになってしまった。


「ええ、助けを求めているわね」


 でも、泣いちゃいけない。

 この涙は愛理子にだけ許された涙。

 近衛蘭を想い続けてきた彼女だけが流せることが出来る想いの激情。

 だから、あたしは想いを堰き止めるように彼女の言葉にならない後を引き継いだ。

「ええ。えええ。ええ」

 愛理子は何度も何度も首を縦に振った。

 さて、近衛蘭の無事って言うか、まだ彼が死んではいない事は確認できたけど、これからどうしよう。

 これでやっとスタート地点に立ったようなモノで、近衛蘭を助け出すには、どうやって彼の元にたどり着くか、どうやってクレデターに喰われた彼を助け出すか?

 問題は山積みだ。

「でもま、なんとかなるでしょう。あたし達、二人の魔法天使がいれば、ね」

 

 この時のあたしは、正直に言って油断しきっていた。


 世界はあたしの魔法で時間を止めたままだし、宿敵であったシリアル・アリスとは既にその想いを分かり合っていて、敵なんて何処にもいなかった。




 そんな風に思い上がっていた。




 そう、あたしはそいつの事を知っていて、ソレが全ての悲劇の元凶だっていうのに、あたしは油断しきっていた。


「え?」


 愛理子の引きつった声が聞こえてきたと思うと、彼女は腰を抜かしたかのようにその場にしゃがみ込み、全てを否定するかのように首を何度も横に振り続けていた。

 その顔はあたしが今まで見たことがないぐらいに恐怖に引きつって………いや、あたしは一度だけ彼女のこんな顔を見たことがある。

 

 近衛蘭がクレデターに喰われたあの瞬間だ。


 あたしは視線をそっと横に動かした。

 愛理子の顔を見た瞬間から予想していた通り、そこには、クレデターいた。


「きっと、定香さんの放った愛理子の想いに引き寄せられてこの次元に来てしまったんです。定香さん、やばいです。速く逃げないと、あいつに喰われてしまいますよ!」

「忠告ありがとう、イリル」

「はい? なんか、そんな素直に返されると逆に調子狂うっていうか。定香さん、もしかして頭強打しているとか? 大丈夫ですか?」

「あら、あたしはお兄ちゃんに本気で恋している事以外は常に正常な頭をしてるわよ。

 でもね、身体は大丈夫じゃないみたい。まだ全然動けそうにないの。

 イリル。あんたは独りで飛べるでしょう。なら、あたしがクレデターの餌になるから、愛理子を連れて、逃げなさい。

 そして、愛理子を近衛蘭の所へ連れて行きなさい」


 あたしはそっとイリルを握りしめていた手の力を緩めた。


「もっとも、あんたは勘違いしそうだから、先に言っておくわ。あたしは死ぬつもりなんて毛頭無いからね。

 近衛蘭はクレデターに喰われても生き続けて、今も愛理子に助けを求めている。

 なら、あたしもクレデターに喰われて生き続けてやるわ。そして、あたしも想い続けて待つの。

 お兄ちゃんって言う最高の騎士が、クレデターからあたしを助けてくれるってね」


 でも、あたしは甘かった。


 本当、この世界の物語を書いている作者って奴がいたらイリルで三発は殴りつけてやらないと気が済まないってぐらいに、終わりは前触れもなくやってくる。




「お兄ちゃん?」




 あたし達魔法天使以外はすべて止まっているはずのこの世界で、

 何故かお兄ちゃんが突然とあたしの前に現れて、

 そして、あたしを守るためにクレデターの前に立ちはだかり、

 近衛蘭がそうであったように、




 クレデターに喰われた。




 あまりにも唐突だった。

 思考が現実についていかない、つけいけない。


「お兄ちゃん?」

「誠流様?」


 あたしと愛理子がそろって呆然とした瞳で、お兄ちゃんを喰らったクレデターを眺めている。

 あたしも愛理子もそうすることしか出来ない。

 クレデターのお兄ちゃんを食べた口らしき部位から、涎が垂れて、あたしの顔に堕ちてくる。


 気持ち悪いけど、その涎を払う気力さえ、今のあたしには残っていない。


 ここでこのクレデターに喰われたら、あたしはお兄ちゃんを一緒になれるのかな?

 なんて堕落した想いがあたしを支配しそうになった。

 愛理子が、そしてサクラ・アリスが狂った理由がやっと分かった。

 あたしも狂いそうだった。

 狂ってしまいたい、この行き場を無くした想いに全てを任せて、現実ではなく空想という世界に逃げ込みたい。

 そう想ってしまう。

 あたしはもう一度、イリルを握りしめた。

 そうすることで勇気を、奮い立たせた。


「お兄ちゃん!! あたしは、お兄ちゃんの事が大好きよ!! 好きで、好きで、実のお兄ちゃんを愛するぐらいに狂ってしまうぐらいに、お兄ちゃんの事大好きよ!!!!!」


 あたしは叫んだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お兄ちゃん!! あたしは、お兄ちゃんの事が大好きよ!! 好きで、好きで、実のお兄ちゃんを愛するぐらいに狂ってしまうぐらいに、お兄ちゃんの事大好きよ!!!!!」


 あたしは叫んだ。

 想いを全て吐き出した。

 

 お兄ちゃんを好きって言う純粋な想い、

 お兄ちゃんを手に入れるためならどんなことでも出来る邪悪な想い、

 お兄ちゃんを想えば沸き上がってくる歓喜と狂乱の想い。

 

 その全てを吐き出した。

 もう、遅いかも知れないけど、あたしは想いを弾けさせた。

 狂ってなどなるものか。

 あたしはお兄ちゃんの恋人になって、愛理子と一緒に近衛蘭を助け出さなくちゃいけないんだ。


 狂っている暇なんてあったら、少しでもその想いを弾けさせて、届けるんだ。


「ボクもだよ。定香。ボクも、狂ってしまうぐらい定香の事想い続けて、定香のこと好きになってしまったよ」

 お兄ちゃんを喰らったクレデターが青銅色の光によって内部から弾け飛んだ。

 一体、何がどうなったのかあたしは訳が分からなかったけど、それはあたしだけだったみたい。

 イリルと愛理子が震えた声で呟いた。

「お兄様。自分が忠告したはずです。

 あなたは、想いを口に出しては、伝えては駄目なんです。それがあなたの起動スイッチだって………

 それとも、あなたは最初からそのつもりでクレデターに喰われたと言うのですか?」

「起動してしまうの。

 わたしと彼女が探し、壊そうとしていたMSデバイサー、フェイトが一つ、次元を断ち切る、アトロポスが。

 駄目です。それは、誠流様の死です。あなたは定香さんと一緒に幸せに………」


 青銅色に光り輝いているお兄ちゃんがそっとあたしの頬に触れてくれた。

 イリルと愛理子の言葉から、これから何が起ころうとしているのかあたしは理解していた。

 それなのに、駄目だなあたしは。

 そんな状況だっているのに、お兄ちゃんに頬を触られた事に胸のときめきを抑えられないよ。


「お兄ちゃん……。お兄ちゃんの手、もの凄く気持ちいいよ」

「そっか。定香の頬も柔らかくて、良い肌触りだよ」

「だったら、ずっと触り続けても良いんだよ?」

「ごめん。そうしていたいのは、山々なんだけど、状況がそれを許してくれないみたいだ。定香、いやパラレル・ティーカ。

 君は弾ける想いを届ける魔法天使なんだよね。

 だったら、お願いがある。呼んでるみたいなんだよ。クロートとラケシスが、僕の中に眠っているアトロポスをね。彼らの元に届けてくれないかな、僕の想いが籠もったこのアトロポスをね」


 嫌だって言いたかった。

 死なないでって泣きたかった。


 でも、あたしは感じてしまったんだ。

 お兄ちゃんの温かい指先から、あたしを真摯に見つめる瞳から、まるで聖剣の様に一点の曇りもなく美しく、けして曲がらない想いを。


 だから、あたしは笑って頷いた。


「はい。任せて下さい。あたしはお兄ちゃんの大好きな魔法天使パラレル・ティーカ。

 届けてみせます。お兄ちゃんの弾けるこの想いを、絶対に」


 お兄ちゃんは笑った。

 その笑顔にあたしの心は射抜かれた。

 あたしはこんな状況でもさらにお兄ちゃんのことが好きになったみたい。


「ありがとう」


 お兄ちゃんはそう言うと、あたしの頬から手を離し、立ち上がった。

 お兄ちゃんを包み込む青銅色の光は一段と強くなる。

 そして、いつか、あたしが夢で見たあの悪夢のように、お兄ちゃんの身体から青銅色の剣が貫き出て来た。

 青銅色の剣が実体化されるのに反比例してお兄ちゃんの身体が青銅色の粒子になって消えていく。

 

 あたしはずっと見ていた。


 目を逸らしたりなどしない。約束したから、お兄ちゃんの想いを届けるって。

 なら、見届けなくちゃいけないんだ、あたしの大好きなお兄ちゃんの想いを。


 青銅色の剣がゆっくりと優しくあたしの胸に落ちてきた。

 お兄ちゃんの姿が完全に消えた。


「お兄ちゃん」


 あたしはそっと青銅色の剣―お兄ちゃんの想いの結晶、アトロポス―を握りしめた。


「絶対に届けるわ、お兄ちゃんの想い。そして、聞き届けてみせるわ、近衛蘭の想いを」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あれからあたしは四日四晩、寝込んだ。

 本当は今すぐ、お兄ちゃんの想いを届けたいってあたしの心は弾け続けていたけど、シリアル・アリスとの激闘で満身創痍のこの身体は想いだけではどうしようもならないぐらいに疲弊していた。

 イリルが言うには、あたしはベットの中、お兄ちゃんの想いの結晶であるアトロポスを握りしめながら、二日間は死体みたいに眠り続けていたみたいだから、相当なモノだったみたい。

 我ながら、無茶なことをしたと思うけど、後悔は全くない。

 だって、愛理子の想いを届けることが出来から。

 だから、次はお兄ちゃんの想いを届ける番なんだ。


「お兄ちゃん……」


 答えはもちろん返ってこない。

 お兄ちゃんのいなくなったこの家は、あたし一人で静かすぎて、広すぎて、辛すぎて、悲しすぎる。

 きっとあたし一人なら、耐えられなかったかもしれない。

 でも、空気の読めない相棒と、同じ想いを秘めた仲間があたしにはいる。

 あたしはアトロポスを握りしめ、ベットから起き上がり、部屋を出た。

 

 外には、あたしの相棒と仲間がいた。


「定香さん、自分的にはもう少し休まれていた方がよろしいかと……。

 なんせ、これから次元を飛び越え、フェイトが一つアトロポスを使うかも知れないんですよ。万全の体調でも相当な負担なのに、病み上がりの今の状態だと………」


「何言ってるのよ、あんたは。分かってるんでしょう。

 どうも、フェイトが一つクロートが起動したみたいじゃない。それなら、今こそ、弾ける想いを届ける、あたしの出番じゃないのよ。

 あたしは必ず、届けてみせるわ、お兄ちゃんのこの想いを」


「イリルさん、あなたも定香ちゃんの相棒なら言っても無駄だって事ぐらい分かっているでしょう。

 大丈夫ですわ。定香ちゃんのフォローはこのわたしがちゃんとしますわ。この一件の原因はあたしにもありますし、その罪滅ぼし………」


「ストップぅ! 愛理子。

 あたしは前にも言ったわよね。あたしは愛理子を恨んでなんか無いし、愛理子にはそんな想いで戦って欲しくないわ。

 愛理子はあたしと一緒で、実の兄に恋した者同士、仲間なんでしょう。

 あたし達は哀れだけど、だからこそ幸せになるのよ。

 あたしと愛理子の二人の想いと、お兄ちゃんと近衛蘭の二人の想いで、ね」


「ええ、そうでしたわね。ごめんなさいね、定香ちゃん。どうも、わたしは少し弱気になっていたようですわ」


 愛理子は勇気を持って笑った。

 だから、あたしも勇気を持って笑った。


 正直、これからの事を考えると、不安らや恐怖やらで押しつぶされそうになるけど、あたしの左手には相棒のイリル、右手にはお兄ちゃんの想いの結晶であるアトロポス、目の前には”実のお兄ちゃんを愛してしまいました同盟”の会員番号2番である愛理子がいる。


「大丈夫、きっと何とかなる。ううん、違うわね、あたし達の想いで、何とかしてやるのよ!!」


 あたしの想いにイリルと愛理子は頷いてくれた。


 それでは、行きますか。



「「届けるわ、二人の想い オーバー ダブル キュア ハート」」



 紫色と桜色と、そして青銅色と黒蘭色の光が繭となってあたしと愛理子、二人の身体を包み込んで、そして、



「「スパーク!!」」



 想いが弾けた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



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