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魔法天使の恋愛戦闘~お兄ちゃん、大好きだよ~  作者:
魔法天使 シリアル・アリス
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最終話:超大吉を目指して

最終話:超大吉を目指して


 ドアをノックする音が聞こえます。わたしが「どうぞ」と一言かけるとドアが開き、わたしがとてもよく知る彼女がそこに立っておりました。

「また、ここだったか、愛理子」

 腕を組み、まるで仁王立ちをしているかのような格好で我が校の生徒会会長である、伊奈川 くじら先輩が立っておりました。

「はい。でも、今日も開店休業状態ですよ。やっぱり、わたしでは役不足なんですね。ここに座って初めて、小夜さんの凄さが分かりましたよ」

 自嘲的な笑みを浮かべてわたしは伊奈川会長の方へ視線を移します。

 ここは本来わたしが座っているべき場所ではないのです。ここは学園の影としてこの学園の生徒を影ながら支えてきた小夜さんに与えられた専用の生徒相談室。ここは、主を無くした部屋なのです。

「小夜は小夜。愛理子は愛理子。ただ、それだけの事だろう。他人に出来ることが出来ないのは当たり前だ。大切なのは、他人に出来ることが出来るようになる事じゃない。自分が出来ることを増やしていくことだ。そうだろう?」

「はい。とても、よく分かっておりますわ。それでもわたしはここに座り続けていたいんです。確かにわたしでは、この学園の皆さんの相談相手になることは出来ません。でも、わたしの友達が帰ってきた時のために、彼女のこの部屋を守っていきたいのです」

 今のところ、小夜さんと紅音さんには休学等の処置は行われておらず、あくまでも欠席として扱われております。彼女の親族に真実を語れないのは心苦しいのですが、真実を話した所で、信じてもらえるとも限りません。結果として、彼女たちは消息不明として扱われ、今も警察や親族の方々が必死に探しているのです。

「なあ、やっぱり、あっしにも真実は語ってくれないのか?」

 少しだけ小夜さんに似た優しい瞳でくじら会長が問いかけてきます。彼女が何処までのことを知っているのか正直、わたしも知りません。ただ、持ち前の洞察眼から小夜さんと紅音さんの失踪とわたしと定香ちゃんが絡んでいるのは確認しているようです。

「すみませんが、もうこれ以上、友達を巻き込みたくはないのです」

「そっか。まあ、言ってくれりゃ、いつでも助けになるし。生徒会の方はしばらくあっしに任せて、お前らはやりたいようにやれば良いさ」

 右手を小さく振り、くじら先輩は生徒相談室から出て行かれました。

 彼女はわたし達に秘密があることを知りながらもけして深入りしてきません。その配慮がわたしにはとても嬉しく、彼女が出て行ったドアに向かってわたしは小さく一礼をしました。

 そして、わたしはそっと自分の左手の拳を見つめます。

 あの戦いで、僅かな時間であっても小夜さんの想いと繋がっていたそこだけはまだ、彼女の優しさが残っているような気がするのです。

 戦いが終わった後、わたしの手の中にあった闇の盾はもはや、わたしの友人である永沢小夜ではなく、想いを持たない一個のMSデバイサーでしかありませんでした。それはもちろん、定香ちゃんが持っていた炎の剣においても同じ事です。剣からは紅音さんの熱い想いは抜け落ち、ただの冷たいMSデバイサーになっていたのです。

 あのMSデバイサーの冷たさをわたしは忘れることはありませんでしょう。

 そんなわたしの手に、唯一無二の同士であり、親友でもある彼女に左手がそっと覆い被さってきました。

 定香ちゃんの手もきっと今もあの冷たい想いを忘れていないはずです。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 わたしは定香ちゃんと二人で、帰宅の徒につきました。昇降口から校門までという短い距離でしたが、あの日まで四人で通っていた道も今は二人で歩くしかありません。

「あっ」

 定香ちゃんが小さな声を上げ、脚を止めました。つられてわたしも脚を止め、同じように声を上げそうになってしまいました。

 小夜さんのご両親が校門の前に立ち、静かに学校を見上げておりました。少し前まで自分の娘が通っていたけど、今この学校に彼らの娘は来ていないのです。一体、どのような想いを抱いているのか。想像する事さえも出来ません。

 小夜さんの両親がわたし達に気づいて一礼をしてきました。何度か小夜さんの実家に遊びに行ったことがありますので、お互いに面識があるのです。無視するわけにはいかず、わたしと定香ちゃんも小さく一礼をして、彼らから逃げるかのように帰路を急ぐのでした。

 校門からどのぐらい離れたのでしょうか。無言で歩いていたわたし達ですが、定香ちゃんが小さく呟くように口を開きました。

「結構、きついね」

「そうですね……」

 わたしも同じように呟くように口を開くことしか出来ません。小夜さんと紅音さんが居なくなってしまったのは全てわたし達に原因と責任があるのです。その事が分かっているのに、伝えることも謝ることも出来ない。想いを伝えることが出来ないのは、どんな想いであれ、やはり辛いことです。

「でも、なんとなく、五聖天使達がわたし達にトドメを刺さなかった想いは分かったかな」

 あの戦いで、わたしと定香ちゃん、小夜さんと紅音さんの四人の想いで紡ぎ上げた魔法を放った後、五聖天使達は満身創痍ではありましたが、まだ戦えたはずです。一方、全ての想いを使い果たし、小夜さんと紅音さんの想いが消えたわたし達は立っているのもやっとな状態でした。

 五聖天使を倒すためには想いが一歩足りなかったと言うよりは、皆躊躇いがあったのでしょう。言い換えれば、あのまま制御することなく魔法を使えば五聖天使を殺してしまうかも知れないという想いがあったのでしょう。

 満身創痍な五聖天使と瀕死の魔法天使。勝機はどう考えても五聖天使側にあったはずです。

 なのに、彼女らはわたし達にトドメを刺しませんでした。ただ、MSデバイサーとなってしまった小夜さんの闇の盾と、紅音さんの炎の剣を、わたし達から奪い去り、あの教会から姿を消したのです。

 彼女らの信じる神を汚れた想いで冒涜してしまったわたしと定香ちゃんを殺すことなく。

「ある意味、こうして罪の意識を背負いながら生きていくというのは、死よりも辛いことなんだね」

「確かに、想いで、心が潰されてしまいそうですわ」

 わたしはそっと自分の胸を叩きました。

 小夜さんがここに自分の想いはあるとよく言っておりました。なら、わたしの想いもここにあるのでしょうか。この不安と恐怖と寂しさに満たされた想いもまたここにあるのでしょうか。

「ねえ、愛理子。後悔している? 五聖天使に逆らって、紅音ちゃん達じゃなくてお兄ちゃん達との愛を取ったこと。そして、守るとか格好いいこと言いながら、紅音ちゃんと小夜ちゃんを守れなかったことを」

 それはずっとわたし自信問い続けてきた想いでした。

 わたしはそっと左手を開きます。もしも、この手にあの日の小夜さんの想いが僅かでも残っているのでした。彼女にもこのわたしの想いを聞いて欲しいですから。

「わたしって最低な女ですよね、定香ちゃん、小夜さん、紅音さん。実は、本当にわたしは心から、この選択は間違ってなかったって想っているのです。それは、小夜さんや紅音さんをMSデバイサーにしてしまった事は申し訳ないと想いますし、罪の意識で想いが一杯になってしまう日もあります。また五聖天使が現れて別の友達が生け贄になってしまうかもしれないと恐怖で怯える日もあります。小夜さんや紅音さんがいない生徒会室は泣き出してしまうそうなぐらいに寂しいです。でも、ですね。わたしはそれ以上に、お兄様と愛せることが嬉しいのです。お兄様と抱き合って、キスして、体の中でお兄様を感じ取ることが出来る。そして、今は無理でも、学生を卒業したら、この体の中にお兄様の子を宿すことが出来る。お兄様を肌で感じて、子供の名前は何にしようかとか考えていると、もうそれだけで、世界中の全てと引き替えにしても良いってぐらいに、」

 わたしは想いを吸い込むように、一度深呼吸をして、偽り無いわたしの想いを吐き出しました。

「わたしは、幸せなんです」

 わたしの秘めた想いが咲き乱れて、彼女たちが意志のないMSデバイサーになってしまったというのに、わたしは自分の選択を後悔しておりません。

 小夜さんと紅音さんを失うより何倍もお兄様と愛せなくなるこの体を失うことの方が辛いことだって分かってしまっているから。

 わたしはこんな自分勝手な想いを抱いていた自分が大嫌いでした。

 そして、そんな自分の想いを必死に隠し続けてきました。

「うん。あんたも大分、自分の想いに正直になってきたんじゃないの?」

 一般的な善悪の判断に従えばきっとわたしのこんな自分勝手な想いは悪に分類されるのでしょう。現に、こんな自分勝手な想いが原因で、小夜さんと紅音さんはMSデバイサーになり、その結果、大勢の人が悲しみ苦しみ涙したと分かっているのに、わたしはこうして幸せであり続けているのですから。

「一つ屋根の下に、久我定香っていう、最狂に自分の想いを弾けさせている人がいますからね」

 わたしは笑顔で言いました。

 世界中の殆どの人がわたしのこの笑顔を許さないとしても、少なくとも、わたしの前にいる定香ちゃんと、わたしの愛した蘭お兄様、そして、わたしの親友である小夜さんと紅音さんだけは、このわたしの笑顔を許してくれるはずですから、わたしは笑いました。

「あ~~、あんたも言うようになったわね。それにその最強ってどういう意味よ!!」

「もちろん、最高に狂っているって意味ですわ」

 言うだけ言って、まるでピンポンダッシュをする小学生がごとく、わたしは定香ちゃんの前から逃げ出しました。もちろん、ここで引き下がるような彼女ではありません。

「狂っているって………こら、待ちなさいよ、愛理子!!」

 ほら、見て下さい。小夜さん、紅音さん。わたしはやっぱり、こんなにも幸せなんですよ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「はあ、はあ」

 久々に全力疾走してしまいましたわたしと定香ちゃんは、息が上がってしまい、あまり上品ではないのですが、土手に座りこみ小休止をしております。

「愛理子~~。はあ、はあ、あんた、後で、覚えて起きなさいよ~~」

 定香ちゃんの執念深さは一つ屋根の下で暮らしていますから、身にしみて実感しております。だから、後まで尾を引きずらないためにも、ここで謝っていた方が良さそうです。

「ごめんなさいね、定香ちゃん。さっきのアレは、わたしなりの褒め言葉だったんですよ」

「褒め言葉? 人を狂っているっていうのが?」

「はい。だって、狂ってなくては、本気で大吉を越える超大吉を作ってみせるなんて、言い出さないじゃないですか」

 わたしは優しく空を見上げました。太陽は落ち、空は穏やかな闇色に染まっております。

「それは、まあ、馬鹿な事言っているのは認めるけどね。でも、他人から狂ってるって言われるのは気分が悪いわよ」

「はい。分かっていて、言いましたから」

「愛理子。あんた最近、黒いわよ」

「あれ、知りませんでした?」

 わたしはこれでもかといわんばかりの演技じみた笑顔で定香ちゃんに問いかけます。一瞬、ぽつんとしたような顔の定香ちゃんがとても可愛く、わたしはお腹を抱えて笑い出しました。定香ちゃんも定香ちゃんで、先程のやりとりの中で、笑いのツボがあったのでしょう。彼女もわたし同様にお腹を抱えて笑い出しました。

 一体、どれぐらいそのようにして笑っていたのでしょう。目尻に溜まった涙を払いのけ、定香ちゃんがいつになく真剣な表情になります。わたしも笑いを止め、彼女の想いを正面から受け止める覚悟を致します。

「でも、あの想いは冗談じゃないわよ。本気の本気のマジな想いから出た言葉よ」

「ええ、そして、五聖天使の敗れた今もその想いを諦めていない」

「もちろんよ。良いこと、愛理子。なんとしても、紅音ちゃんと小夜ちゃんを取り戻して、二人を人間に戻して、わたし達は超大吉を作るのよ!」

 何処までも真っ直ぐな想いがわたしに向かってきます。

 少し前のわたしはきっとこんな真っ直ぐな想いには耐えきれなかったことでしょう。ですが、今のわたしにはこの真っ直ぐな想いを受け止めるだけの覚悟と、受け止めなくてはならない罪があります。

「ええ、もちろん。よろしくてよ、定香ちゃん」

 わたしは左の拳を突き出します。そして、想いと想いを確かめるように、定香ちゃんの左の拳と付き合わせます。

 わたし達、魔法天使の物語はこんな所で終わるわけにはいかないのです。想いが続く限り、物語は続いていくのです。

 でも、今は。

「あれ、定香。そんな所で、何してるんだい?」

「最近、寒くなってきたから、愛理子もそんな所に座っていると風邪引くぞ」

 絶対に聞き間違えるはずのない声と想いに、わたしと定香ちゃんはすぐさま立ち上がりました。

「お兄ちゃん」

「お兄様」

 どう言った偶然でしょう。土手の上には蘭お兄様と誠流さんが立っているのです。わたしと定香ちゃんは互いの目配せで話の終了を確認しますと、一目散に愛する方の元へ駆け寄ります。

「どうしたの。お兄ちゃんと蘭さんが一緒だなんて、珍しいね」

「あ~それは、ね。二人とも帰りが遅いから、たまには男手で料理を作らないかって二人で話して、買い物に行って今、帰っている所だよ」

「え?じゃ、何、今日はお兄ちゃんと蘭さんの手料理が食べれるの? やった~~~!!」

 両手を振り上げて、定香ちゃんが喜びを体全身で表現致します。流石に、わたしはあそこまで喜べませんが、お兄様の手料理を食べれると聞いて、心が躍らない訳がありません。

「蘭お兄様、わたしもお兄様、手料理期待しておりますわ」

「その期待は、プレッシャーだな。それで、そっち二人はこんな土手で何をしていたんだ?」

 お兄様の質問にわたしは再度、定香ちゃんとアイコンタクトを行い、互いの想いを確認致しました。

「お兄様、それはですね、」「女同士の秘密の会話だよ!」

 文句なしのコンビネーションにお兄様も誠流さんもそれ以上何も言えなくなりただただ、苦笑するしかありません。

「全く、お前ら、見事な相性だな。そのままコンビでも結成しろ。ほら、帰るぞ」

 お兄様の大きな手がそっとわたしの頭を撫で、お兄様は帰路を歩き出しました。誠流さんもお兄様について歩き出し、定香ちゃんはそんな誠流さんに腕組みをしております。

あ、定香ちゃん。それは良いアイディアですわ。

 わたしはすぐさまお兄様の横まで駆け寄って、そのまま、お兄様の逞しい腕に抱きつきました。

「おい、愛理子。いきなりはないだろう」

「良いじゃないですか。だって、わたしはお兄様の事、愛していまして、こんなにも幸せなのですから」

 わたしの想いは咲き乱れて、満面の笑みでお兄様に笑いかけました。


Happy End?


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