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魔法天使の恋愛戦闘~お兄ちゃん、大好きだよ~  作者:
魔法天使 シリアル・アリス
20/23

第九話:想いはそこにある

第九話:想いはそこにある


「お兄様。わたしは、お兄様の事が大好きですわ! もうお兄様以外じゃこの体は満足できないぐらいに愛していますわ! だから、わたしが学生を卒業しましたら、わたしにあなたの子供を産ませて下さい!」

 桜色の秘めた想いがまるで、蕾のように私を包み込みます。

 その蕾の中で、わたしはお兄様からの返事を聞くことなく携帯の電源を切りました。本当は今すぐにでも答えを聞きたい所ですが、今はそれよりも聞かなければならない想いがあります。

 この返事はこの戦いが終わった後、二人きりのベットの中で耳元で囁くようにして何度も聞かせて頂きますわ。

 期待に踊る想いを言葉に載せ、蕾は今、花開き、煌めく満開の桜を咲かせます。

「スパーク」

 桜色の想いが弾け飛び、蕾の中から現れたわたしは、もはや桜愛理子ではありません。

 秘めた想いによって編み上げられた桜色の衣を身に纏い、満開の桜がごとく絢爛な想いを武器に戦う、わたしの名前は、

「秘めた想いが咲き乱れる 魔法天使シリアル・アリス 豪華絢爛満開、ね」

 ちょっぴり恥ずかしいですけど、決めポーズを付けて私は眼前の五聖天使と友人達に宣言します。

 彼女たちが生け贄に成ってしまってからずっとわたしの中で秘め続けてきた想いがついに満開になったのです。ただ宣言しただけではこの想いを咲き乱されることは出来ませんわ。魔法天使シリアル・アリスの決めポーズで、わたしの想いはさらに咲き乱れていきますわ。

「醜い。なんたる醜い姿であることか。自らの愛欲に溺れし汚れた天使よ。何故、お前が想いはそれ程までに腐りきっているのだ。何処まで、神を冒涜すれば、気が済むのだ!」

 まるでメデューサの如く鋭い視線を投げかけてくるオリオンの拳はきつく握りしめられており、今にも肉が裂け、血が滲み出て来そうです。

 少し前までのわたしなら、きっとこの眼光に溢れた想いの強さの前に恐れおののき、身動きが取れなくなっていた事でしょう。ですが、今のわたしは、もう迷いません。

 わたしは、わたしのこの秘めた想いを信じて、戦い続けますわ。

「わたしがお兄様を愛する想いを貶すのは一向に構いません。わたし自身、実の兄を愛して、この子供を授かりたいと思うなんて、なんて罪深い女なんでしょうと思いますもの。でも、愛してしまったのです、ね。わたしは実の兄を。この秘めた想いが咲き乱れた時から、きっと、もう道は一つしか残っていなかったのでしょうね」

 わたしはオリオンを、そして、その左右にいる二人の友人を見ました。

「わたしは清まろうなんて思わないし、そんなのはきっと無理なのですわ。そうよ、五聖天使オリオン、わたしは愛欲に汚れた天使よ。でもね、あなたに分からないでしょう。このわたしの幸せが!!」

 のろけと言われても仕方ない宣言と共にわたしは飛翔しました。想いから形成された翼を生やし、わたしは一蹴でオリオンとの距離を詰めます。不意打ちの宣言に圧倒されたであろうオリオンは予想通り反応が遅れております。そのまま飛翔の加速度を殺すことなくわたしは体を回転させ、オリオンの顔面めがけて回し蹴りを放ちますわ。

 オリオンがわたしの攻撃に気づいた時、わたしは自身の攻撃の直撃を確信致しました。

「っふ!!」

 ですが、残念な事に、わたしの攻撃はオリオンに届くことなく、私と彼女の間に割って入った紅音さんの手によって防がれてしまったのです。流石は、剣術で鍛え上げた動体視力と反射神経と言うところでしょうか、あたしの脚は紅音さんの手によってがっしりとホールドされてしまい身動きが取れません。

「熱いこと言ってくれるね、愛理子。お前ってもっとお淑やかなキャラじゃなかったのかよ?」

「お淑やかなのはわたしが想いを秘めている間ですわ。想いが咲き乱れた私は定香ちゃん以上に、直情径行なのですわ。知りませんでしたか?」

「ああ。覚えておくよ」

 紅音さんは、わたしの脚がまるで腕であるかのように一本背負いの要領で肩に担ぎました。

「はああああああああああああああ!!」

 そして、紅音さんらしい無理矢理な力業でわたしを地面に叩き付けようといたします。脚を起点にされているためわたしは顔がまるでキスをするかのように地面に迫ります。

 いやですわ、わたしの唇はお兄様とキスをするためにあるのです。他の物とキスなんて、ごめん被らせていただきますわ。

 バッシッ!!

 わたしは両手を伸ばし、地面に叩き付けます。わたしの体重に加速度が乗った衝撃を一身に受け、少しばかり痛いです。でも、これで地面とのキスは免れましたわね。きっとわたしの体はこれからお兄様と愛し合ってどんどん汚れていくことでしょう。なら、せめて、少なくとも、他の物で汚れるのだけは避けたいところです。

「おっ!?」

 わたしは地面についた両手を起点として、腰を回します。体全体の筋肉をしなやかに動かし、動ではなく柔を心情として、無理矢理ではなく流れを乱すことなくコントロールすれば、どんな物でも動かせます。

 わたしの脚をしっかりとホールドしていた事が逆に仇となり、紅音さんの体をわたしはまるで一本釣りのように持ち上げます。そして全身の筋肉を流麗にくねらせ、体全体を回転させます。

「おっ ああっ おぅ!!」

 両手を中心軸とし、体全体で作り出す竜巻に紅音さんは耐えきれず、ついにわたしの脚を手放してしまいます。回転運動が乗った紅音さんは、加速度が加わり地面を抉るように滑りながらやがて止まりました。

 わたしは自身の回転軸を縦から横に倒すようにして、再び地面に脚をつきます。咄嗟に使った技にしては上出来な成果ですし、この優雅な動きはわたしと相性が合っているかのようにも思います。本格的に練習してみるのも良いかも知れませんわね。

 この前、定香ちゃんが言うには足でするって行為も………って、わたしは何を考えているのですか。はしたないですわよ、愛理子。咲き続ける想いが魔法に変わり続ける中、わたしは紅音さんとわたしの間に割って現れたもう一人の生け贄と対峙致しました。

「愛理子さん。あなたはその想いを、本来の体に戻すつもりはやはり無いのね」

 生け贄に選ばれる前から運動能力が抜きん出ていた体育会系の紅音さんとは違い、もう一人の生け贄である小夜さんはあくまで一般の生徒でした。ですが、敵に回したとしても紅音さん程の驚異はないと侮ってはいけません。彼女と共に生徒会での日常を過ごしてきたから断言できます。

 一番警戒しなければならないのは、彼女であると。

「ごめんなさい。最低な人間だと想われるかもしれませんが、わたしは、どうしようもなく、わたしのお兄様を愛しておりますの。あなた達を巻き込んでしまった事は謝りますけど、わたしにはお兄様の子供を産むって夢があります。理性じゃ分かってます。夢ではなく、あなた達を救うべきなんだって。でも、わたしの想いは夢を選んでしまうのですよ」

 不器用にはにかみながら、秘めた想いを隠すことなくさらけ出していきます。

「それでは、あなたは死ぬとしても、愛のする人の子供を産むことを選び取れますか?」

「はい。お兄様を愛せなくなったわたしなんて、想いが死んでいるも当然ですもの」

 小夜さんの質問にわたしは迷うことなく即答いたしました。その答えはわたしが久我定香の身体を使って生きていくと決めたときに出ている答えです。

「あなたって、何処までも愚かな女性だったのね」

「でも、世界で一番幸せな女性でもあるんですよ」

 わたしは笑ってみせました。虚勢でも、意地でもなく、心からの笑みを浮かべます。

 だって、そうですよね。わたしは実の兄を愛せて、実の兄の子供を授かる体を得たのですから。世界中の人が茶番で愚かであると言うのだとしても、それはお兄様と過ごせるわたしの想いを知らないから出てくる言葉なのです。

 わたしのこの幸せ、知ってしまったら、誰だって何も言えなくなってしまいますわよ。

「良い笑顔。そんな笑顔されたら、私の想いが惑っちゃうじゃない」

 何処か物悲しそうにわたしの親友がはにかみます。

 思えば不思議なのです。小夜さんと紅音さんは、わたしと定香ちゃんが実の兄を愛し、五聖天使の掟に背いてしまったから、生け贄に選ばれてしまったのです。彼女たちには何の落ち度はなく、ただわたしと定香ちゃんの友人であったと言うことだけで、その生命が危機に去らされている。もし、このまま審判の儀を迎えてしまえば、彼女たちはただの道具であるMSデバイサーに成ってしまう。わたし達の自分勝手な想いによって、彼女たちの運命は決まろうとしているのに、彼女たちは一度たりともわたし達を責めたりはしませんでした。

 オリオンと共にわたし達を攻撃しては来ましたが、その時でさえ、彼女たちはわたし達の勝手な想いを責めたり、恨んだりはしませんでした。それどころか、逆にわたしを勇気づけるかのような言葉を掛けてくれたこともありました。

 それがずっと不思議でしたが、今、小夜さんのはにかんだ笑みを見た瞬間、少しだけ彼女の想いが分かりました。

「小夜さん。あなたは、自分の意志で、生け贄になったのですね」

「ええ。選ばれたのは、あなたと定香さんの共通の友人であったからだけど、私と紅音さんは自らの意志で、五聖天使の生け贄になることを選び取ったのよ」

 まるで、そこに想いがあるかのように小夜さんは左手を胸にあて、宣言致しました。その声には狂気は一切含まれておらず、そこにあるのはいつもの小夜さんのような優しさに満ちあふれた想いだけでした。

「何故ですか、理由を聞いてもよろしいですか?」

 尋ねながら、わたしは腰を低くして臨戦態勢を整えます。小夜さんが自らの意志で五聖天使の生け贄に成ったというのでしたら、もはや説得は無意味な事なのでしょう。

 想いと想いがあるから、人は喧嘩をする。喧嘩を終えるためには、わたし達は想いの全てをぶつけ合わなければなりません。

「愛理子さんと定香さんは、魔法でそれぞれが精神を入れ替えた。本来、あるべき身体にあるべき想いではない別の想いが住み着いている。それは肉体と精神に過大な負荷を与えることになり、最悪あなた達は、身体と想いが同調できずに死んでしまうことになるの」

 努めて感情を表に出さないようにしているのでしょう。数学の公式を述べるかのような淡々とした声で、小夜さんは事実を語っていきます。

「ええ。その事は知っておりましたわ。定香ちゃんの相棒であるイリルさんから既に忠告して頂いておりましたの」

「それでも、あなた達は実の兄との愛を取ったというの?」

 ”はい”とだけ答え、それ以上、わたしは自分の語ることを致しませんでした。言葉にしない想いは無いのと一緒ですが、想いはその全てを言葉に出来るわけではありません。

 今、わたしが抱いている想いもまた、言葉にして伝えてもその全てを彼女に伝えることは出来ないでしょう。だから、わたしは戦わなければなりません。

 想いは伝えるものであり、そして、感じるものなのですから。

「小夜さん達はわたし達に生き続けて欲しいの?」

「もちろんよ。だって、私達は友達でしょう。大切な友達だから、死んで欲しくなんてない。友達だから、ずっとみんなで助け合って生きていきたいじゃない」

 わたしは瞳を閉じ、今だけは執行部で過ごしてきた想い出を封じ込め、再び飛翔しました。垂直に飛び上がったわたしは想いを秘めて右脚を振り上げます。眼下にいる小夜さんの位置を再確認し、わたしの翼は羽ばたきを止めます。一瞬の無重力の後、わたしの体は重力の縛りに絡め取られます。木からリンゴが堕ちるかのように、私の体も小夜さん目指して急降下を始めます。

 紅音さんならいざ知らず、小夜さんにこの踵落としを防ぐ手だてはないはずです。そして、現に防ぐための手だてはありませんでした。

「!?」

 わたしの踵が小夜さんに直撃する瞬間、彼女の体は霧状に変化し、まるで虫達が飛び逃げるかのように霧散していきました。生け贄になった副作用で使えることになった魔法でしょうが、昨日の一件といい、小夜さんがこの魔法を使いこなしているのは明確です。

 魔法が使えるようになってまだ日にちが浅いというのに、既に自分の物としているこの柔軟性。これこそが、”学園の影”として数多の生徒達を支えてきた小夜さんの強さです。

「でも、思えば、私達も自分勝手よね。あなた達の想いを無視して、私達の想いで、定香さんと愛理子さんに生きていて欲しいと願っているのだから」

 霧散していた小夜さんが背後で再度実体化を行い、わたしを羽交い締めにして身動きを封じます。背後から抱きつくようにして抑えられ、私の上半身は完全に動かすことが出来ません。

「だから、わたし達は戦っているのでしょう。それぞれが想いを秘めているから!!」

 体を無理矢理に振り動かしますが小夜さんの拘束は一向に緩まりません。このままではともに有効打がなく体力と想いの消耗戦になる所ですが、わたし達は共に一人で戦っているのではないのです。

「許せよ、愛理子!」

 その左腕に炎を宿した紅音さんが身動きの取れないわたしに迫り来ます。小夜さんがわたしの動きを封じて、紅音さんが攻撃を担当する。まさに、普段のお二人通りのコンビネーションです。

 それ故に、わたしも、紅音さんの攻撃は予測済みですわ!!

「っは!!」

 わたしは小夜さんに羽交い締めにされている上半身を起点として下半身を振り上げます。振り子のような軌跡を描いたわたしの脚が真剣白刃取りよろしく、紅音さんの拳を挟み込みます。

「はああああああああああっ!」

 わたしは体を捻ります。この捻りは小夜さん、紅音さんを巻き込む大きな流れとなり、わたし達三人は揃って地面へと転がり込むのです。

 小夜さんの拘束が、咄嗟の反応で受け身を取ろうとした事で緩みました。その瞬間をわたしは逃しません。自由の身となったわたしはすぐさま想い、翼を形成し、飛翔します。皆の想いがわたしに集中しているからこそ、向かう先はただ一点。

 十字架に磔にされた定香ちゃんの元です。

 桜色の指輪に口づけし、想いを込めます。わたしの拳が綺麗な桜色に光り輝き、想いが魔力に変換されます。

「いぃぃぃやぁぁぁぁぁ!!」

 桜色の拳を拡げ、定香ちゃんの胸に押しつけます。むっ、元わたしの体、さらにバストが上がったような気がしますわ。

 魔力は定香ちゃんの体をすり抜け、彼女を拘束していた十字架を破壊します。その上、今の魔法は特別製です。魔力は十字架の破壊だけでなく、定香ちゃんの中を駆けめぐり、彼女の魔力を補充していくのです。

「来るのが遅いし、美味しい所、持っていきすぎよ、愛理子。ちゃんとあたしの出番残してくれて居るんでしょうね」

 十字架から解放されるなり、定香ちゃんの口から飛び出してきたのは、そんな不満の言葉でした。助けたことのへの感謝でもない辺りが、本当に定香ちゃんらしく、わたしは何故だが嬉しくなりました。

「もちろんですわよ。だって、わたし達はまだ、超大吉を作り出していないじゃないですか」

 わたしはそう言って、右手を定香ちゃんに差し出しました。今は想いが咲き乱れておりますが、きっとわたし一人ではまたいつの日か、運命と罪の前に押しつぶされそうに成ってしまうことでしょう。

 でも、わたしは一人ではありません。お兄様が居ますし、わたしと同じ運命と罪を背負った仲間がいるのです。

 一人でも辛い道のりでも、彼女と手を取り合って挑んでいけば、何時でも乗り越えることができます。

 だって、わたし達は、想いを魔法に変えて戦う、魔法天使なんですから。

「そうよね。わたし達はお兄ちゃん達と結ばれて、紅音ちゃん達も救い出して、ハッピーエンドを作るのよね」

 定香ちゃんが弾ける想いを乗せ、わたしの手を弾くように叩き付けました。

 合わさった掌から彼女の弾ける想いが伝わってきます。わたしの秘めて咲き乱れる想いとはまた違う、これが定香ちゃんの魔法の源なのです。

 わたしには足りない想い、どんな困難を前にしてもまず立ち向かっていける想い、確かに受け取りましたわ。



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