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魔法天使の恋愛戦闘~お兄ちゃん、大好きだよ~  作者:
魔法天使 シリアル・アリス
12/23

第一話:桜は今日も満開です。


 第一話:桜は今日も満開です。


 朝になりました。

 カーテンを開けると、気持ちの良い日差しが燦々と照りつけてきます。

「う~~ん。今日も想いが咲き乱れる素晴らしい朝ですわ」

 わたしは照りつける太陽の力を全身で浴びて成長する桜の樹のように背伸びをしながら、眠気を放り飛ばします。

 さあ、今日も一日が始まります、ね。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「いただきます」

 わたしの作りました朝食を囲む、四人の声が重なり、朝の食卓に四重奏が鳴り響きます。

 何故、わたし達が一緒に食事をしているのか? っと言いますか、そもそも、わたし達が誰であるか、少々込み入った事情もありますから、少し説明させていただきますわ。

 まず、わたしは、桜愛理子と申します。

 私立聖霞ヶ丘大学付属高校に通う、ちょっと普通の方とは違う女子高生です。

 どこら辺が普通とは違うと言いますと、二つありまして、まずは、

「お兄様。明日から研修旅行ですよね。準備の方は終わりましたか?」

 わたしが実の兄上に恋をして、それも恋人同士として付き合っていることでしょう。

「わりぃ、研修の予習で手一杯で、殆ど、手を付けれていない。愛理子、悪いが、今夜一緒に手伝ってくれるか?」

 世界中の誰よりも格好良くて、一度決めたことは強引にでも突き通す想いを秘めていて、そしてほんのちょっと悪い人である、この殿方こそ、わたしの実のお兄様であり、恋人でもある、近衛蘭なのです。

 兄妹なのに何故、名字が違うかと言いますとお兄様は近衛家に養子に出されておりまして、当初私は蘭さんがわたしの実の兄であるとは知らずに、恋に落ちてしまったのです。

 思い返せば、あの頃からわたしとお兄様の物語は波乱に満ちあふれていたのです。

「もう、お兄様は………、たまには自分でですね……」

「分かった、分かった。その後、ちゃんとかわいがってやるから、な」

「かわいがってっって!! お兄様、わたしは。べ、別に、そんな事、思ってません」

 そうです。

べ、べつに、わたしはこれぽっちも変な想像なんてしていませんよ。

 お兄様と悩ましいあんな事や、あるいは直接的なこんな事になるなんて、こっれぽっちも期待なんてしていませんわ。

 ええ、そうですとも。

 それは確かに、最近はお兄様は忙しくてご無沙汰ですけど………。

「あ~~、愛理子。顔が真っ赤になってる~~。可愛い~~」

 真っ正面に座る麗しい容姿の乙女がわたしを指さしながら笑います。

 この麗しの彼女の本名は久我定香と言いまして、私の大切な友人であり、そして仲間でもあるのです。

 容姿と中身が合っていないのは仕方ないのですが、もう少しお淑やかになって頂きたいとわたしは常々思っております。

「いいじゃん。蘭さん、また明日からいなくなるんでしょう。ならいる間に思う存分、想いを弾かせて、愛し合わないと。あたしなんて、お兄ちゃんと毎晩だし、ね」

 そうなのです。彼女もまた、わたし同様に実の兄に恋しているのです。

「定香。朝から、そう言う話は、はしたないから止めた方が良いよ」

 そして、定香ちゃんの隣に座って、朝から少しお下劣な会話をする定香ちゃんをたしなめましたのが、彼女の兄である久我誠流さんです。

「は~~い。でも、愛理子。またしばらく、蘭さんとは会えなくなるんだから、甘えれる時には甘えておきなさい。折角、あたし達はお兄ちゃんと血が繋がっていない体を手に入れたんだから、有効に使わないとね」

 これはわたしが抱える二つ目の秘密に由来するのですが、今のわたしの体は、本当は定香ちゃんの体なのです。

 そして、わたしの目の前に座る定香ちゃんの体こそ、わたしの本来の体なのです。

 精神交代。

 今、思い返せば少々恥ずかしいのですが、わたしも一時期精神的に荒れていた時期がありました。

 その頃に発生した事件が元で、わたしと定香ちゃんの体は入れ替わってしまったのです。

 本当は、しかるべき機関で調査を受ければ元に戻るはずなのですが、私たちは拒否しました。

 だって、定香ちゃんの言うとおり、この体だとお兄様と心行くまで愛し合うことが出来ますのですから。

 それは、確かに、最近はご無沙汰なのですけど………。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「それでは行ってまいります」

 玄関でわたしはお兄様に向かって深々と頭を下げました。

「それじゃ、蘭さん、行ってきます~~~」

 隣で、わたしと同じ制服に身を包んだ定香ちゃんが元気よく手を振っています。

「ああ、二人とも行ってこい」

 そうして、わたしと定香ちゃんはお兄様のお見送りの元、家を出て、学校へ出発するのでした。

 そう言えば、まだ私たち四人の職業について説明していませんでしたね。

 わたしは先程も言いましたように私立聖霞ヶ丘大学付属高校の生徒で、隣を歩く定香ちゃんも同じ学校の生徒です。

 定香ちゃんの兄の誠流様は聖霞ヶ丘大学の講師をやっておりまして、お兄様は今、園芸師を目指して修行中の身なのです。

「定香ちゃんは、よろしかったのですか?」

「うん? 何のこと、愛理子?」

 二人並んで歩きながら、わたしは定香ちゃんに問いかけます。

 定香ちゃんはわたしの顔を見ながら首を大きく傾げます。

 定香ちゃん。しっかり前を見ながら歩きませんと、転んでしまわれますよ。

 と、わたしは不安になりますが、定香ちゃんは歩き続けます。

「誠流様は、本日は早く家を出られたようでしたが、一緒に登校されなくてよろしかったのですか?」

「あ~~あ。その事ね。あたしもお兄ちゃんと一緒に登校って言うのは少し引かれたんだけどね。でも、今日は愛理子と一緒に登校しようって決めたから」

「定香ちゃん………それはつまり、何か企んでいると言うことですわね」

「あははは。企んでいるなんて、そんな人聞きの悪い。あたしはただ、あなた達の現状を知りたいだけよ。で、最近、蘭さんとはどうなのよ。なんか、見てると少しご無沙汰なんじゃない」

 ぅう。やはり、一つ屋根の下に住んでいますと、その辺りのことまで筒抜けになってしまっておりますか。

 まあ、うすうすばれているのではないかと思っておりましたが。

「黙ったってことは、ビンゴね。どうしたの、見た所、喧嘩している風には思えないけど、なんかあったの? ほら、忘れたの? あたし達、今年の初詣で大吉引いて、恋愛運最高だったじゃん。もっと想いを弾けさせて、悩みなんて吹っ飛ばなくちゃ」

「別に何もありませんわ。蘭さんと過ごせる今は、本当に咲き乱れるぐらいに幸せですわ。だから、なのでしょうね」

「うわ、更年期だ」

 ツッコミを入れる気分ではありませんでしたから、あえて定香ちゃんのボケは流すことにします。

「あたしのボケをスルーするなんて、よっぽどね。う~~ん。蘭さんも男の子だからね、いっつも、同じっていうのはやっぱり飽きてくるんじゃないかな?」

「やはり、そう言う物なのでしょうか? やはりわたしもビデオとか見て勉強した方がよろしいのでしょうか?」

「ビデオか………流石に、蘭さんの部屋は詳しくないからあたしも何処にそういう本やビデオを隠しているか知らないしな。お兄ちゃんのは………マニアックすぎて、いきなり愛理子には見せれないよね」

 顎に手をやり、何事かぶつぶつと呟きながら定香ちゃんは歩いていきます。

 わたしの事を想っての行為だとは思うのですけど、何だかこのまま定香ちゃんに全てを任せるのは非常に危険な感じがします。

 やはり、自分で解決しなければならないのでしょう。

「愛理子さん?」

 あれ、空耳でしょうか。

 今、定香ちゃんではない誰かがわたしを呼んだような気がしたのですか。

 辺りを見渡してみても、わたしと定香ちゃん以外には誰も見受けられません。

 やっぱり、空耳でしょう。

「愛理子さん!!」

「うっわ。こら、馬鹿イリル!! 急に大声出すんじゃないわよ。びっくりするでしょうが!!」

 定香ちゃんはポケットから携帯電話を取り出して、携帯電話に怒鳴りつけます。

 あ、あの声はイリルさんの声でしたか。定香ちゃんのポケットの中からわたしと呼んだのでしょうから、声が雲っていて分かりませんでしたわ。

「定香さん、ごめんなさい。謝りますから、ほら落ち着いてください。道ばたで携帯怒鳴りつけてる女子高生って端から見たら変人ですよ」

「誰のせいよ!! 全く、持ち運びに不便だからってストラップに化けるのは良いけど、言ったでしょう。あんたは年中バイブレーションしか許さないって!!」

「だって、そんな事したら、定香さん、絶対に自分を無視するじゃないですか!」

「そんなの当たり前に決まっているでしょう!!」

 全く、今日もお二人は仲がよろしいことで。

 説明いたしますと、定香ちゃんが今、怒鳴りつけているのは携帯電話ではなく、そのストラップに化けているイリルさんなのです。

 先程の説明の際にわたしもすっかり忘れておりました彼は、次元監視者イリルさんと申します。

 わたしも詳しいことは難しくて知らないのですが、ようはこの世界には数多の次元が存在しており、その中でイリルさんはこの世界の次元を守るのがお仕事だと言うことです。

 そんなイリルさんが何故定香ちゃんのストラップに化けているかと言いますと、それこそがわたしと定香ちゃんの第二の秘密に理由があるのです。

「それで、イリルさん。わたしに話があったのではありませんか?」

「っは。そうでした。愛理子さん。気を付けてください。異常な魔力値を感知しました。それもすぐ近くです。何か、嫌な予感がします」

「ちょっと、イリス。なんで愛理子にだけ言うのよ。そう言うのはまず、あんたの持ち主である、あたしに言いなさいよ!」

「そんなこと言っても、定香さんは絶対に気にしないじゃないですか!! 自分はきわめて正常な判断を………」

「へ?」

「あら?」

 イリルさんの主張は最後まで続きませんでした。それよりも先に、わたしたちの視界を謎の闇が覆い隠したのでした。

 光が零の闇。

 自分の平衡感覚ですら狂ってしまいそうな暗闇の中にわたし達はいます。

 この闇はどれだけ時間が経とうとも、目が慣れてくるとは思えません。

 そもそも、唐突にこのような闇が現れること自体、異常ではあるのですが、わたし達は生憎、自分たち自身が異常な存在ですから、もはや驚きもしません。

「定香ちゃん、何か見えます?」

「無理ね。全く、何がどうなっている………愛理子、左!!」

 定香ちゃんの言葉に反応したあたしは闇の中に魔力を感じ取りました。しかもそれは高速でわたし達の方へ向かってくるのです。

 少なくともこれで、襲撃者の狙いははっきりいたしましたね。

 わたしは前へ飛び、飛来する魔力弾を避けます。その刹那、先程までわたしがいた場所から爆発音が鳴り響きます。

「愛理子、大丈夫?」

「無事ですわ。定香ちゃんは?」

「問題無しよ。それじゃ、愛理子。久々だからって失敗するんじゃないわよ」

「それは、定香ちゃんも一緒なんじゃありません」

「あたしは、大丈夫よ。だって、毎晩、お兄ちゃんの前で変身してるんだもん」

 変身した後、何をしているかは想像尽きますけど、聞かないことにします。

 でも、変化を持たせるのはやっぱり、そういうシュチエーションも良いのかしら。

 一度、お兄様に相談してみましょう。

「それじゃ、行きますか、愛理子」

「ええ。よろしくてよ」

 定香ちゃんの声を合図にわたしは右薬指にはめた指輪に口づけをして前に突き出しました。


「届け、わたしの想い オーバー キュア ハート」

「届け、あたしの想い オーバー キュア ハート」


 闇の中、わたしと定香ちゃんの呪文が紡がれて、わたしの体が桜色の光に、定香ちゃんの体が紫色の光に包まれます。

 この温かい桜色の光はわたしを生まれ変わらせる繭となり、わたしの体から制服が桜色の粒子となって消えていきます。

 代わりにわたしの身を包むのは、桜色の天使の衣。

 桜色の繭の中、わたしの想いが満ちていき、そして、咲き乱れます。


「スパーク!」

「スパーク!」


 二つの光の繭が弾けて、桜色の天使と紫色の天使が、ここに光臨いたします。


「秘めた想いが咲き乱れる 魔法天使 シリアル・アリス  まもなく満開、ね」

「弾ける想いを届けるため 魔法天使 パラレル・ティーカ ただいま参上、よ」


 そう、これがわたしと定香ちゃんが抱える二つ目の秘密。

 わたしたちは魔法を使えることが出来て、魔法天使に変身することが出来るのです。

 魔法天使への変身を終えたわたしとパラレル・ティーカはまずは、この闇を照らすべく魔力を溜めていきますが、どうやらその必要は無くなったようです。

 わたし達の前で闇が晴れていきます。

 まるで、わたし達が変身するのを待っていたかのように。

 これは一体、何者の仕業でしょうか?

 わたしは何時でも攻撃魔法を使えるように想いを魔法へ変えていきます。

 しかし、闇が晴れた先には先程と同じ人通りの全くない通りがあるだけでした。

 いや、少しだけ違いましたね。

 わたし達の前には、一人だけ立っています。

 彼女はシスター服のような衣装から、煌めく金髪をなびかせておりますが、残念な事に顔はフードに隠されているために見えません。

「あなたは、何者ですか?」

 わたしの問いには答えず、彼女は小さく笑ったような気がしました。

 次の瞬間、彼女の背中から漆黒の翼が生え、彼女の姿は忽然と消えてしまいました。

「ねえ、愛理子。あんたこれをどう思う?」

「ここまで引き際が潔いと敵はわたし達が魔法天使であることを知っていたのでしょう。そして、今回はあくまで様子見なのでしょう。わたし達が変身して、魔法天使であることを確認できたから、引いた。わたしはそう考えます。姿を見せたのは、これからの忠告といった所でしょうか」

 わたしとパラレル・ティーカはそれからもしばらく、シスター服の女性が消えた場所を見つめ続けていたのでした。


 そして、そんな経緯があったため、わたしと定香ちゃんは、本日見事に遅刻してしまいました。



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