最終話:ハッピーエンド あたしはお兄ちゃんが大好き、よ
最終話:ハッピーエンド あたしはお兄ちゃんが大好き、よ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あたしとイリル、そして、愛理子と近衛蘭はゆっくりと次元の壁を越えていた。
行くときは急いでいたから、身体にもの凄い負荷がかかっていたけど、次元をアトロポスで断ち切った今、急ぐ必要はない。
そう、時間は沢山あるんだ。
ゆっくりで、良い。
ゆっくりとアトロポスになったお兄ちゃんを元に戻す方法を探していけば良いんだ。
でも、あたしの手の中にはもうお兄ちゃんの想いはない。
その事は、あたしには耐えられないぐらいに心細かった。
「定香ちゃん」
愛理子が優しくあたしの名前を呼んでくれた。
ただそれだけのことで、あたしの中で張りつめていた何かがプツリと音を立てて切れた。
ずっと、お兄ちゃんがアトロポスになった時からずっと我慢してきた。
でも、あたしは魔法天使だから、あたしにはお兄ちゃんから託された使命があったから、ずっと我慢してきたよ。
お兄ちゃん、あたし、ちゃんとお兄ちゃんの想いを届けたよ。
だから、今は魔法天使パラレル・ティーカじゃなくて、お兄ちゃんの妹の久我定香に戻っても良いでしょう。
あたしはシリアル・アリスの胸元に飛び込んだ。
ちょっと悔しいけど、柔らかい双球がふわりとあたしを受け止めてくれて、愛理子があたしをそっと抱きしめてくれた。
あたしは泣いた。
何を想っていたのか、
何を言っていたのか、
あたし自身も分からない。
ただ胸の中にずっと貯め込んでいたモノを吐き出した。
あたし達の次元に戻ったから、あたしがまた戦えるように、この辛く苦しい想いはこうして次元の狭間に起き去っていくって決めたから、あたしは泣き続けた。
大切な仲間の胸で、あたしの弱い心を全てさらけ出した。
「あれ?」
っとそんな時、相変わらず空気の読めない相棒が場に不釣り合いな気の抜けた声を上げた。
あたしは愛理子の胸から顔を上げ、涙をふき取り、ひゃっくりが止まらない呼吸を何とか整えて、相棒を睨み付けた。
「なっ何よ、っひ、イリルゥ。 どうしったの?」
あ、本当にしゃっくりが止まらない。
「あ~。定香さん、まずは落ち着いてください。ほら、深呼吸。吸って、吐いて、吸って、吐いて、はい、もう一回、吸って、吐いて~~」
「イリルさん。確かに定香ちゃんを落ち着かせるのも大切ですが、何か問題が起きたのではありませんか?」
あたしが言いたいことを愛理子が代わりに尋ねてくれた。
あたしは視線で”ありがとう”って愛理子に伝えて、深呼吸に専念する。
早いとこ、このしゃっくりを止めないとまともに会話すら出来そうにない。
すぅ~~、はぁ~~~。
すぅ~~、はぁ~~~。
すぅ~~、はぁ~~~。
「問題……なんだと自分も思いますけど、何って言うのでしょう。
もしかしたら、自分の思い違いかも知れませんし。変なこと言って、皆さんの不安を煽るのもいかがなものかと思いますが……」
「イリルさん。煮え切らない男はもてませんよ。
男なら、蘭さんみたく格好良くて、でも時には遊び心も忘れず、ど~~んと構えているぐらいの度胸がないといけません。
だから、はっかりとお言いなさい!」
あ、愛理子が怒った。
「はいい!! 実はですね。どうも、定香さん達がいた次元、アトロポスが発動した副作用なのだと思いますが、少し次元変動が発生しており、自分たちが出発したときからコンマ代なんですけど、次元周波数に狂いが生じております。
自分はつい、そこを見落として、前の次元周波数で次元移動をセットしてしまい、若干ながら、次元移動に狂いが生じてしまったわけです」
すぅ~~、はぁ~~~。
すぅ~~、はぁ~~~。
すぅ~~、はぁ~~~。
大分、呼吸が正常に戻ってきた。
でも、深呼吸に半分ぐらい意識を集中していたからイリルの言っていることは半分以上理解できなかった。
分かったのは、イリルがミスをしたって言う事ぐらい。
「つまっり。あたし、達っひっくは、どうなるの。っひ?」
「え~、簡単に言いますと、微少な次元周波数の違いなので、次元に弾かれてしまう可能性より、その微少な違いを定香さん達自身が無理矢理矯正してしまう可能性が高いです。
つまり、一瞬ですけど、次元周波数を矯正するために身体がもの凄く揺れてしまいますので、ご注意ください」
イリルが言い終わるや否や、その通り、あたし達の身体は強烈に揺れた。
っちょっと、これ、揺れるとか言うレベルの話じゃないわよ。
とか罵倒を心の中で叫びつつ、あたしは揺れに耐えきれず、意識を失っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「定香」
声が聞こえる。
あたしの大好きな声が聞こえる
「定香」
あ~~、心の奥まで染み込んでいくこの声をいつまでも聞いていたい。
「定香。学校遅れちゃうよ」
その一言であたしは思わず飛び起きてしまった。
慌てて枕元の時計を確認しようとするけど、そこに時計などなかった。
そもそも、あたしはベットじゃなくてアスファルトに投げ出されるような形で眠っていたみたい。
あれ、あたしは確かアトロポスを持って次元を断ち切って、そして、アトロポスが消えて、愛理子達と一緒に次元を戻ってきていたら、馬鹿イリルのせいで大きな揺れが襲いかかってきて……、そして気を失ったんだ。
「おはよう。定香。
やっぱり、いきなりの事で自分の身体に起きたことが理解できていないよね。ボクも正直、びっくりだけど、大丈夫、時間をかけてゆっくり、理解していけばいいよ。
ボク達に時間はたくさん残されているんだから」
声が聞こえた。
ありえないはずの声だけど、この心地よい声色は確かに空気を振動させてあたしの鼓膜を震わせている。
これはあたしが作り出した幻聴じゃない。
あたしはそう信じたい。
あたしは恐る恐る顔を上げていく。
怖かった。
もしかしたら、そこにいるのはまたお兄ちゃんとは別人なのかも知れなかったから。
でも、あたしは信じた。
何を信じたのかは、あたしもよく分からないけど、とにかくあたしは信じることにした。
顔を上げた先、そこには、あたしのお兄ちゃんがいた。
「………お兄ちゃん」
「うん。お帰り、定香」
あたしは両手を口元に当てて、大きく目を見開いた。
どうしてお兄ちゃんがあたしの目の前にいるのか分からないけど、お兄ちゃんがそこにいてくれる。
あたしに大切なのは、その真実だけであり、あたしは何度も”お兄ちゃん”と呼びかけて続けた。
「定香さん。もしもし、定香さん。大丈夫ですか? 定香さん、返事してください!!」
そんなあたしの人生でもっとも幸せな瞬間を、あの空気を読めない声が遮っていた。
何よ。
あたしはこうしてピンピンしているじゃない。
このあたしの何処が大丈夫じゃないって言うのよ!
と怒鳴ってやろうと声のする方を振り向いた瞬間、あたしは言葉を無くした。
そこにはイリルがいた。
そして、彼の前で”あたし”がアスファルトの上にまるで死んだかのように倒れ込んでいた。
「あれ?」
あたしは訳が分からず、あたしを眺め続けていた。
イリルは相変わらず、あたしに呼びかけているけど、アスファルトの上に倒れ伏せているあたしは一向に目覚める気配がない。
だって、そりゃそうだよ。
あたしはここにいるんだから。
そして、あたしは、あたしの体に何が起きてしまったのか、やっと理解した。
どうして、お兄ちゃんがあたしの目の前にいるのか、
どうして、あたしは倒れ伏せたあたしを眺めているのか、
これで全て理由がつく。
「そっか、あたし、死んじゃったんだ」
死因は多分、次元を越える際に感じたあの揺れかな。
あれはかなり酷い揺れだったから、脳がおかしくなってしまったのかも知れないし、もしかして血管の何処かが切れたのかしてない。
まったく、相棒を殺してしまうなんて、どれだけ空気が読めていないのよ、イリル。
でも、あたしはあんたを恨んだり、呪ったりなんてしないわよ。
だって、あたしはこうしてまた、お兄ちゃんに出会えたんだもん。
お兄ちゃんとまた暮らせるんだから、あたしはきっと幸せになれるから。
ありがとうね、イリル。
そして、愛理子、あんたも幸せになりなさいよ。
あたしは大切な相棒と仲間に別れを済まして、お兄ちゃんの方に向き直った。
「お兄ちゃん。黄泉の国ってどんな所のかな。
それとも、あたしは天使だから、やっぱり天国に行けるのかな。
でもね、あたしは地獄だってお兄ちゃんと一緒に居れれば、それだけで天国になるんだよ」
あたしはお兄ちゃんに抱きついた。
豊かな双球がむぎゅって潰れてお兄ちゃんの腕を包み込んだ。
死んだから無理かもと思ったけど、大丈夫だった。
死んだもの同士、こうして触れあうことも出来る。
あたしにはもうこれだけで十分だった。
「だから、お兄ちゃん、生きている間は無理だったけど、死んだら、血のつながりなんて関係ないよね。
だから、向こうで一緒に結婚式上げよう。二人で夫婦になろうよ」
あたしはお兄ちゃんの顔を見上げた。
そして、違和感を感じた。
あれ、お兄ちゃんの顔をってこんなに近かったけ。
それに、あれ、さっきのむぎゅって胸が潰れる感覚は何?
全然自慢じゃないけど、あたしは貧乳だったはず。
何かがおかしかった。
あたしはもしかしてもの凄い勘違いをしているんじゃないのだろうかと疑念が渦巻き始めた。
でも、答えは見つからない。
そして、訳が分からない状況はさらに加速した。
あたしの見ている前で、
「あ、定香さん。よっかた。やっと目覚めてくれたのですね。
全く反応ないから、死んだのではないかと思いましたよ。本当、本当、本当良かったです」
”あたし”が目を覚ましたのだ。
目を覚ましたもう一人の”あたし”はこの杖は何を言っているのだろうと冷めた目でイリルを見つめていた。
「あの、定香さん。やっぱり、大丈夫ですか? なんかそんな冷めた目で見られ続けると、流石に自分も傷ついてしま………ゲッフ」
そして、急に何かを思い出したかのようにハッと顔を上げて、それはもう綺麗さっぱり迷い無くイリルを放り捨てて、今だに目を覚ましていない彼の元に駆け寄った。
「蘭さん、蘭さん、蘭さん! 大丈夫ですか、目を覚ましてください、蘭さん!!」
もう一人のあたしは近衛蘭の肩を必死に揺さぶり続けながら叫んでいた。
そこにいるのは確かにあたしなのだけど、あたしには目の前のあたしがあたしには見えなかった。
そう、目の前のあたしはあたしのよく知っている彼女と、とてもよく似ていた。
あたしは一度深呼吸をして、あたしの腕を見た。
そこは初雪のようなきめ細かい美しさを持っていた。
あたしは胸を触った。そこは片手で収まりきれない大きさと程よい弾力を持っていた。
そして、あたしは手を見た。
そこにはやはり、桜色の指輪がはめられていた。
「ああ~~、そう言うことなのね」
あたしは、やっとあたしと愛理子の体に起きてしまった事を理解した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから近衛蘭はすぐに目を覚ました。
けど、目が覚めた時の一言目が「君は誰だ?」って言葉だったから、彼を必死に目覚めさせようとしていたあたしが泣き出してしまって、宥めるのはとても大変だったよ。
まあ、大好きだった人に「君は誰だ?」って言われて、自分自身に宥められたら錯乱するなって方が無理かも知れないけど。
と、そんな事があったけど、なんとか無事に全員意識を取り戻した。
色々と確認しなくてはいけないことがあったけど、道のど真ん中かで話し合うのも落ち着かないって事で、一行はあたしとお兄ちゃんの愛の巣……もとい、家に移動してリビングに集合していた。
「はい、お兄ちゃん。ホットミルク、砂糖は二個と半分入れて置いたからね。愛理子と蘭さんは紅茶で、ミルクと砂糖はコレを作ってね。イリルは………、話の筋を脱線させように黙っておいてね」
そう言って、みんなに飲み物を配り、最後に自分用のホットミルクを自分の前に置いてから、あたしはお兄ちゃんの横に腰掛け、息を吸い込んだ。
「う~~ん、お兄ちゃんの匂いがするよ~~~。はああぁああ、幸せ」
っとあまりの嬉しさから思わず、心の声が口を裂いて出て来てしまった。
きゃああ、恥ずかしい。またお兄ちゃんに、変な妹だと思われちゃうよ。
「ちょっと、定香ちゃん、わたしの体でそんな変態的な発言は控えてください。
っというよりもあなたは何故、わたし達の精神がこうして入れ替わってしまったというのに、そんなにも平穏でいられるのですか?」
とあたしの目の前に座るあたしの中にいる愛理子がそんな事を言ってきた。
そうのよ。どうも、あたしと愛理子の精神は入れ替わってしまったみたいなの。
イリルが言うには、次元周波数を矯正する際に生じた副作用みたいなモノだって言っていた。
正確にはしっかりとした機関でしかるべき調査を受けて、対処方法を見つけ出していなくてはいけないとか言っていたけど、あたしはこの体を手放すつもりは全くない。
だって、
「だって、愛理子は嬉しくないの。あたし達はやっと、あたし達が手に入れたいけど、絶対に手に入らないと諦めていたモノを手に入れることが出来たのよ。
もう、細かい理由とかそんなのはどうでも良いの。
あたしは、ただ本当にあたしの夢が叶うって思うと、もう溜まらなく嬉しいのよ」
「わたし達が手に入れたかったモノ…………っは!!」
愛理子(体はあたしのだけど)が大きく口を開けたまま、硬直した。
そしてその状態のまま瞳に涙が溜まって零れていく。
っむ、なかなかに器用なまねをしてくれるわね。でも、あたし達はそんな体が硬直してしまうぐらいの幸福を手に入れることが出来たのよ。
「ば~~か。気づくのが遅いのよ、愛理子。
あたしたちは、手に入れたのよ、お兄ちゃんと血が繋がっていない体を。
あたしはお兄ちゃんの妹、愛理子は蘭さんの妹。
その事実は変わらないわ。でも、今は、あたしの体は愛理子のモノ、そして、愛理子の体はあたしのモノ。
あたしと蘭さん。お兄ちゃんと愛理子。
この二人には血の繋がりはないわ。つまり、あたし達は愛せるのよ、この世界で一番大好きな人を。
許されるのよ、愛する人と結婚する事を。
授かれるのよ、愛する人との間に子供を。
あたし達にこれ以上の幸せがある?」
愛理子は何も言えずただゆっくりと首を横に振った。
そして、あたしの言葉の意味を理解するぐらいの時間がたった瞬間、押さえ込んでいたバネが急に弾けたかのように近衛蘭に抱きつき、彼の胸の中で嗚咽を漏らし続けた。
「好きです。 好きです。 好きです。大好きです。
あなたを愛してます。
わたしを愛してください。
わたしのお兄様。好きです。あたしはあなたを心の底から愛してます。
この想い、秘め続けてきた想い、今、ここで満開に咲き乱れさせても、よろしいでしょうか?」
近衛蘭はそっと愛理子(くどいようだけど、体はこのあたし)の頭に手を乗せた。
「私は、ずっと闇の中に囚われていた。
でも、私の心までは闇に喰われることはなかった。それは多分、私自身に秘めた想いがあったからだと思う。
愛理子は私が闇に喰われる寸前に、その想いを私に打ち明けてくれた。
でも、私はその想いに返事を返していなかった。
だから、君へ伝えなければならない想いがあったからこそ、私は闇へ飲み込まれずに、またこうして姿は変わってしまったけど、愛理子の想いに再会できたのだと思うよ」
あたしとお兄ちゃんとイリルの視線があることなど無視して、近衛蘭が愛理子に口づけをした。
唇と唇だけだ軽く重なり合うだけの短い接吻。
だけど、想いは伝わった。
「愛理子、私は、姿が変われど、君を愛している」
秘め続けていた想いの花が満開に咲き乱れた瞬間だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
愛理子と近衛蘭が結ばれた。
二人を見守りながら、あたしはどうしても一つだけ確認しておきたいことがあった。
多分、コレをはっきりさしておかないと、あたしはこれから魔法天使パラレル・ティーカの姿………って明日から魔法天使シリアル・アリスの姿でお兄ちゃんを起こしに行く度に、お兄ちゃんが消えているんじゃないかって不安に怯えてしまうことになると思う。
「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはアトロポスになって…確かに……消えたよね。それなのに、どうして、またあたしの前に現れたの?」
もしかして答えを聞いたら、12時を迎えてしまったシンデレラのようにこの幸せな魔法が解けてしまうのではないかと不安もある。
でも、大丈夫、あたしの想いは、今、弾けてる。
今なら次元の一つぐらい作れそうな気さえするぐらい幸せな想いが弾けてるよ。
だから、この想いをこれからも続けていくために、あたしは聞かなくちゃいけない。
もし今が偽りの幸せだったら、あたしから壊して、本当の幸せをあたしが作ってみせるんだから。
だって、あたしは魔法天使なんだもん。
「詳しいことはボクにもよく分からない。
でも、アトロポスと一体化していたから、アトロポスを使うときの定香の想いはとてもよく分かる。
定香はボクのことを想って、アトロポスを使って、クロートが生み出して次元を断ち切った。
でも、多分、その時の定香の想いが強力すぎたんだろうね。
本当はクロートが生み出した次元さえ断ち切れば良かったのに、定香はボク達が産まれ育ったこの次元さえもアトロポスで断ち切ってしまったんだよ。
その結果、ボク達が産まれた次元は本来の姿とは少しだけ変わってしまった。
定香がずっと想ってくれていた、ボクがアトロポスとなって消えないそんな世界に変わってしまったんだよ」
あたしはお兄ちゃんの言葉の中から、大切な部分だけを取りだして頭の中で再構築してみた。
「え~~と、つまり、要約すると、あたしの想いが世界を変えちゃったって事?」
「本当に簡単に言うとね。
だから、今のボクはアトロポスからボクの想いだけが切り取られた存在。
とは言っても、多分これが本来の正常な状態なんだと思うけど」
なんか概念的過ぎてあたしには今イチ理解出来ない。
とりあえず、目の前のお兄ちゃんはやっぱりあたしのお兄ちゃんで、もうアトロポスの事を考える必要性もないみたいだから、喜んで良いみたい。
「そうか!! だから、自分たちが戻ってくるときに僅かな次元変動が発生していたのですね。本来なら消えていなければならないお兄様がアトロポスのせいで復活してしまった。それが次元変動の原因………ゲフ!」
勝手に何かを納得したイリルが熱い口調で解説を初めたけど、本当に暑苦しかったから手元にあったハエ叩きでたたき落とした。
全く、読者への一応の説明も終わったのだから、ここからのシーンで必要なのは暑苦しさではなく、甘いロマンスに決まっているでしょう。
全く、本当に最後の最後まで空気の読めない奴なんだから。
手に持っていたハエ叩きをテーブルの下に隠して、あたしはお兄ちゃんに向き合った。
テーブルを挟んだ反対側では、愛理子と蘭がもう羨ましいぐらいにいちゃいちゃしている。
そんなラブラブぷり見せられると、あたし達も負けられないよね、お兄ちゃん。
そしてあたしはお兄ちゃんの顔を正面からのぞき込んだ。
「ねえ、お兄ちゃん。最後にもう一つ。お兄ちゃんは、なんで愛理子の体にあたしの心が入っているって分かったの?」
「アトロポスのおかげなのかな。定香の想いがボクにはちゃんと見えたんだよ。
例え、体は違っても想いは、ボクの愛した定香のままだったからね」
きゃああああああ。恥ずかしいよ、お兄ちゃんの顔がこんなにも近い状態でそんなこと言われちゃうと幸せすぎて昇天しちゃいそうだよ。
でも、ここで浮かれていたら駄目だ。
勢いまかせとかじゃなくて、真っ正面向き合って、ちゃんとこの言葉を言わないことにはあたしとお兄ちゃんの恋愛物語は始まらない。
心臓がバクバクしている。
やっぱり、この言葉は魔法なんだと思う。
でも、考えて見れば、当たり前だ。
魔法の源は想い。
そして、この言葉は、女の子が一生で一番想いを込める言葉なんだから。
魔法に決まっている。
「お兄ちゃん。あたしは、お兄ちゃんが大好き、よ」
弾ける想いを届ける 魔法天使パラレル・ティーカ ただいま告白、よ。




