魔神とジンオウとジン
かなり遅くなりました
すみません
黒雲に埋め尽くされた不穏な空の下、激しい戦争が起こっていた。
「ぬおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
アンチ・ブレイズが一人、身体がほとんどサイボーグであるジンオウが両手をマシンガンに変形させ、乱射し大魔王軍を薙ぎ倒していた。
「……へへっ、鈍重そうなヤツ、見ーぃっけ」
無邪気で楽しげな声が、ジンオウの背後から聞こえた。
「しまっ……!」
ジンオウは慌てて振り向こうとするが、砲撃による移動も、マシンガンを展開している今では間に合わない。万事休すかーーそう思われた時だった。
「……相変わらずのようだな」
男か女か区別が付かない中性的な声が聞こえ、ジンオウを背後から襲おうとした魔戦百人隊の証である赤が刻まれた黒衣を纏う相手を吹き飛ばした。
「……お前は確か、虚夢の宴の……!」
ジンオウの言葉にジン、と呼ばせている???はガクッと体勢を崩した。
「……この声を聞いても思い出さないとは……! 鈍い!」
ゴッ! とジンはジンオウのサイボーグ化していない顔を殴った。
「うごっ! 痛いな、何をする!」
「……当然の報いだ、ジンオウ。むしろ死を以て償え」
「何故だ!?」
憮然とした様子のジンに、ジンオウは驚いてツッコんだ。
「……ふん。こっちでもあっちでも鈍いお前を、特別に助けてやろう。この俺がな」
ジンは胸を張って言うと、愛用の武器である黒い両刃片手剣を二本、逆手持ちで取り出す。
「……理屈はよく分からんが、助かる!」
ジンオウも肩の装甲を開いて言う。
「……やはりお前から倒そうか」
ジンはギラリ、と黒い剣を煌めかせて、鉄の仮面から覗く瞳でジンオウを睨み上げる。
「……何故だ。ここは共同戦線といこう、ジン」
「……分かっている。だが、こればかりは許せない……!」
ジンはジンオウに恨みの込めた視線を送る。
「何でそこまで俺に恨みを?」
「……自分の胸に聞け、バカオウ」
聞くジンオウに、ジンはそっぽを向いて答えた。
「……そこまで言わなくてもいいだろう。それとーー」
「「隙だらけだ」」
ジンオウが言葉を区切って言うと、ジンと重なった。
ジンオウは右手のマシンガンでジンを後ろから狙う悪魔を倒し、ジンは黒い斬撃でジンオウを後ろから狙う魔族を倒した。
「……ここは共同戦線といこう、ジン。背中は任せたぞ」
ジンオウはゆっくり歩を進めてジンに背を向ける。
「っ。……ああ、ジンオウ。足を引っ張るなよ!」
そう言うジンの声は、どこか嬉しそうだった。
▼△▼△▼△▼△
一方キラーミサイルを迎撃したシアス達アンチ・ブレイズ後衛職は。
「……ふぅ。ジークとリューシンの言った通りだったね」
シアスは額に滲んだ汗を袖で拭いながら、隣にいるシャリアに笑いかけた。
「……ホント、呆れっぱなしよね、ジークには。リューシンには情報があるからあんまり驚かないけど、ジークは勘だったもんね」
シャリアは呆れたような顔で、しかし嬉しそうに言った。
時は少し遡るが、戦争が始まる前のことだった。
「……何かきなくせえな。シアス、シャリア。お前らは後衛にいろ」
ジークは二人に険しい表情で言った。
「でも、私が前で魔法使った方が早く終わるかもしれないし……」
シアスがジークに反論する。
「……いや。多分相手を一掃出来るような兵器のようなモノを使ってくる。それをお前の魔法で迎撃するためだ」
「……それなら私はいらないんじゃない?」
ジークの言葉に今度はシャリアが反論する。
「……シャリア。確かに一発じゃあシアスに勝てねえが、俺はお前を信用してんだ。シアスじゃピンチになる時が来そうだからな」
ジークは珍しく爽やかに笑って言った。
「……兵器はないが、大魔王の魔法ならあるかもな。俺もジークの案に賛成だ」
リューシンが考え込むように顎に手を当てながら言った。
ーーという訳で、二人は後衛にいる。
「……まあ、ジークは野生の勘が利くから」
シアスは苦笑する。
「……そうね。でもホントに私の出番ってあるの?」
「……私には分からないけど、ジークがそう言うんだから、そうなんだよ」
「……随分とお熱ね。ジークの話だともうすっかり友達同士って感じだけど。まあジークの言うことは宛てにしない方が良さそうね」
はぁ、とシャリアはため息をついた。
シアスのジークを信じ切った顔を見たからだ。
「……そんなことないよ。確かに私は色々したりするけど、ジークは仲のいい幼馴染み程度だろうし」
そう言うシアスの声は沈んでいた。
「……色々って。そういえば、ジークとシアスって付き合ってる間ってどこまでいったの?」
シャリアはニヤニヤとしながらシアスに聞く。……ジークとシアスの仲については、アンチ・ブレイズ内で様々な議論がなされているが、詳しいことは本人が上手くかわしている。
ヤるとこまでヤったとか、デートは週末毎回だったとか、言いたい放題言っている。……リューシン以外の現実での知り合いは付き合っていることを曖昧にしか知らないと言っていたが。
「……えっ? う~ん。まあ、中学生だし、デートぐらいじゃないかな」
シアスは考え込むように顎に手を当てて何でもないことのように言う。
「……でも噂だとジークはセフィアとのヤツよりも前にヤったって……」
「……ふーん、そうなんだ」
鎌をかけるシャリアに、シアスは目を泳がせて答えた。
「……私が思うに、ってかメンバーが思うに、シアスよね」
「……っ」
シアスは一瞬顔を赤くしたが、すぐに素知らぬ顔になった。
「……さあ? 私に言われても」
「……誤魔化し方雑じゃない?」
「……」
さらに追い詰めるシャリアに対し、シアスは黙秘を保った。
「……この話は終わりっ! ……で、敵が空から来たんだけど。上の方サボってるの?」
シアスは少し焦ったように話題を打ち切ると、空を仰ぎ蝙蝠のような翼で飛んでくる敵軍を見上げる。
「……どうでしょうね。まあ魔法の集中攻撃を受けてもこっちに向かってるのは、あのサッカーボールの模様が細かくなったようなバリアっぽいヤツが魔法を軽減してるか防いでるからよね」
「……じゃあ私の魔法も意味ないね。シャリアのは魔法に分類されるの?」
「さあ? ま、試せばいいんじゃない? 水連刃」
シャリアはおもむろに手を伸ばし、水で出来た刃をいくつも放った。
「魔法など効かぬわ――ぬべらすっ!?」
シャリアの放った水の刃を避けずにバリアで受けようとした悪魔が、バリアをすり抜けて胴体から真っ二つにした水の刃に倒れた。
「……あ、あれ? 魔法は効かないんじゃ?」
そう言い残して、悪魔は光の粒子となって消える。
「くそっ! あいつのヤツは魔法じゃないのか!?」
「……私は五行を司る者。魔法なんてメジャーなモノと一緒にしないで欲しいわ」
動揺が走る大魔王軍を見て、シャリアはニヤリと楽しげに笑った。
「私も弓で……」
「いいわよ。私一人で余裕だし、それに私達二人だけじゃないんだから」
シャリアが余裕の笑みを浮かべて見上げる先には、味方によって放たれたいくつもの弓矢が、敵軍を襲っている場面が繰り広げられていた。