魔神と女子風呂会
……まったく。
私ーーシュリナは内心で呆れ、ため息をつく。私だけじゃない。他も同じような感じだった。
男子がバカ騒ぎしているのが壁と天井の隙間から丸聞こえで、ホントバカだと思う。
何でそんなに大小を気にするんだろうか。
ふと、疑問に思う。
大きい方が自分を誇示出来るからだろうか?
「皆さん、湯加減はいかがですか?」
ばしゃん。
新メンバーとして迎え入れられたセリアだ。髪を湯に浸けないようにタオルを巻いて上げている。……少し動くだけでも水飛沫が上がる程の爆乳を湯に浮かせて。
前言撤回。
私達女子にはないモノだから理解出来ないかと思えば、そうでもないらしい。
私は恨めしくセリアの胸を睨む。……私の胸は標準で、良く言えば大きい方、悪く言えば小さい方に分類されるくらいの大きさだ。そんな標準的な私の胸を、人々はこう呼ぶ。
美乳と。
私が胸のことを言われる場合、大抵が形が綺麗だと言われる。
……まあ、あからさまに小さいと言わないようにされるよりはマシなのかもしれない。
「いいよ。さすがセリアだね」
シアスが朗らかに言う。……浮いた爆乳を揺らしながら。
……何でこうこのギルドには美少女ばかりが集まるんだろうか?
しかも、湯に浮く大きな胸を持つのはセリア、シアス、クアナ、カナ。それに加え、着痩せするのかアレンシア、レイナ、カレンが結構大きい。服の上からじゃ分からないから、少し悔しい
私はそこそこの容姿だと思っていた。学校でも何度か告白されたし、それなりには魅力があるのかと、自信に思っていた頃もあった……んだけど。
このメンバーを見ていると、自信がなくなってくるわ。
私は憂鬱な想いに駆られる。
「……」
私と一番付き合いが長く、ネットで知り合ったティアナが無表情ながらも不機嫌だった。
理由は、最近面白くないからだと思う。
率直に言って、ティアナはジークのことが好き、らしい。初恋なので確信は持てないらしいが、私の見立てでは完璧に恋だと思う。
面白くないと言うのは、最初、ホントに最初はジークとリューシンと私とティアナと言う少数で組んでたのに、ジークを慕う女子を中心に仲間が増えたからだろう。
特に元カノだと言うシアスとか。現実での知り合いだと言うカナ、カリン、カレンとか。新入りの癖にもうジークとヤったらしいセリアとか。
……私もちょっと面白くない。と言うか、不安。
時々思うんだけど、副マスターは先輩であるカナがいいとか、副マスターは現実で隣にいたシアスがいいとか。
副マスターとして頼られる自分が、誇らしかったのかもしれない。
それなのに、どんどん私より良さそうな人が増えていって、私でいいのかと悩んでしまうことがある。
それにしても、不謹慎だ。
ジークとリューシンとジンオウが、娼館に行った。
それが分かった時、キレかけていた人も一人や二人ではなかった。
まあ、特にジークにだったんだけど。
特に怖かったのがジークに好意を持っている(んじゃないかな?)人達。
元カノ、シアス。ゆらりと立ち上がったかと思うと、娼館をジークごと吹き飛ばしてくると言った。……目が本気でそれが出来るくらいの実力があるのは言うまでもない。壊しても再生するんだろうけど。一応施設だしね。
先輩、カナ。シアスと同じくゆらりと立ち上がったかと思うと、娼館を細切れにすると怖い笑み浮かべて言った。最初は不謹慎だからかと思ったが、説得して宥めていく内に、好意っぽい感情が見え隠れしていた。
妹(?)、カリン。無邪気を装ってあっさりジークとの距離を縮める油断出来ない相手。
「……ホント、セリアっておっぱいおっきいねー」
噂をすればなんとやら。
カリンが後ろから忍び寄って、セリアの胸を揉んだ。
「ひゃっ。ちょっと、何するんですか?」
セリアは驚いていたが、子供のすることだと思ってすぐに冗談っぽく笑う。
これだ。
この小柄で場合によっては年よりも幼く見えるこの容姿を巧みに使って無邪気に悪戯すると、子供のすること思って冗談にしてくれる。
私はその無邪気な微笑みに、何か裏があるのではないかと疑ってしまう。
「セリアとお兄ちゃんってエッチしたんでしょ?」
未だに揉み続けながら、無邪気な微笑みを浮かべたまま核心を突いた。
……少し空気が悪くなる。
「はい。ご主人様は凄いんですよ? それはもう一晩中……」
天然なのか意図してるのか、はたまた気付いてないのか、キャッと顔を赤くして両手で顔を覆う。
それが、火に油を注ぐ結果になった。
私は客観的に見ているからこそ事態が把握出来ているのだが、もう一人把握出来ているとすれば、カリン。それと、もしかしたら姉妹だしカレンも把握してるのかもしれない。
「……へぇ。それじゃあーー」
少しカリンの声のトーンが下がった。……それに気付いたのは私とカレンだけ。
「私もお兄ちゃんにおっぱい毎日揉んでもらえばおっきくなるかな?」
……それが言いたかったのか。
私は納得する。カリンは悪戯を思いついたような笑みじゃなく、どこか黒いニヤリとした笑み浮かべていた。……しかも、私だけに見える角度で。
……これは、相当な娘ね。
私が傍観していると分かっていて、私だけにニヤリとした笑みを見せるんだから。
「だって、お兄ちゃんにおっぱい揉んでもらえばおっきくなるんでしょ? シアスお姉ちゃんみたいに」
カリンのその言葉にバッと勢いよくシアスへと視線が移る。
……それは興味深い。
確かにその可能性は高い。シアスが中学の頃ジークとイチャイチャしてたとして、今の大きさになるまでは揉まれていたハズ。
まあ、女性ホルモンが好きな男子にもっと好かれたいと思うことで、その人の望む方向にスタイルが変わるとか。
だから、あながち間違いではない、のかな?
「ーーと言うことで、私は今日からお兄ちゃんと一緒に寝るから!」
ニコッと言い放った。
……狙いはジークと一緒に寝ること、だった。
「「「っっ!」」」
周囲の人にも、セリアにも額に青筋が浮かんでいた。
「あっ。皆で一緒がいい?」
続いて、そう言った。……どうやら、カリンが一人で寝るんじゃなく、皆で押し掛けてジークをからかおうと言う魂胆だったらしい。
「……わ、私はジークと一緒に寝たことだって結構あるからいいけど?」
寄りを戻すチャンスだと思ったのか、シアスが狙いを誤魔化しながら言った。……バレバレだけど。
ーーまあそうして、いつの間にか口車に乗せられて、カリンの思い通りに動かされている。
私もやられたから、分かってる。
話を戻すけど、ジークに好意を持ってるんじゃないかな? の人達。
二重人格、クアナ。Sな方もMな方も受け入れてくれるジークに好意は持っていると思う。普段のMな方はジークのSっ気がいいとか。戦闘時のSな方はジークがあっさりと受け入れてくれたことに戸惑いつつも、好意的に思っているらしい。
ゾンビっ娘、レア。ゴブリン帝国の破壊の時にお姫様抱っこされている最中、なんかとても甘えたくなったらしい。……知らないわよ、そんなこと。
多重人格、アレンシア。状況に応じて人格と言うか性格を変える元王女。ギルドの受付嬢をやっていた頃にジークと会って、仲良くなったらしい。夜がMなこともあって、ジークがいいとか。
幽霊っ娘、レイナ。幽霊と言うこともあって敬遠され、ソロだったが、自由気ままにゾンビも一緒にワイワイやってる私達が楽しそうに見えたとか。それでジークと話した結果、入ることを決めたとか。
メイド、セリア。ゲームではジークの最初の相手と言うこともあって、イチャイチャしている。ジークもまんざらではないようで、周りの怒りを買っている。
最後はカレン。ジークの話だと恥ずかしがり屋で遠巻きにいるって話だったんだけど、特にそんなことはない。ジークだけだと思う。ジークを遠巻きにストーキングしてるようだ。その割りには、他の男子が嫌いでリューシンに話しかけられた時は物凄い速さでジークの後ろに隠れた。……明らかに怯えてたのに、ジークは恥ずかしくてビックリしたとか言うし、見てるこっちがハラハラする。
現実でジークに助けられた時に一目惚れして、それからジーク人形を作ったのをカリンに見つかったらしい。それをネタに弱みを握られている。実力を見せてもらった時の脅しはそれだった。手先が器用なこともあってフィギュアだとか抱き枕だとかを作っていたことを隠したいらしい。
ゲームに閉じ込められて不安になった時、真っ先に作ったのがジークのぬいぐるみだったと言う。……まあ、ジークのことだから大切にしてたクマのぬいぐるみを最初に作ったとでも思ってるんでしょうけど。
シャリアは分からない。掴み所のない雲みたいな娘だ。まあ、色々考えて行動してそうだけど。
まあ兎も角、セリアとジークが会っている頃、特に怖かったのはカレンだった。
虚ろな眼で虚空を見つめ、暗い笑みを浮かべたかと思うとブツブツと何かを呟いていた。
カリンがやっちゃった、みたいな顔で宥めて、三十分後に正気に戻った。
「ほら、もうそろそろ上がらないとダメよ。長風呂したし、皆で洗いっこするんでしょ?」
私は一触即発の雰囲気になっていた皆に言い、締める。
この後は、シアスの提案の下、皆で円になって背中を洗うと言う親睦会だ。
レイナは一時的に触れられるように設定して、レアは腐ってるので手で優しく洗うようにしている。
……個性的なこのメンバーを、私は上手くまとめられるんだろうか。
私は一抹の不安を拭い切れなかった。