悪魔とちょっとした昔話
「はっ!」
次のゴブリンを見て笑う。
今度も頭を掴み、もう片方の手で身体を掴み、首をもぎ取った。
血が大量に噴き出して、かかるが、それにすら笑みを浮かべる。
そうして、次々とゴブリンの群れを残酷に滅ぼした。
「……」
やりすぎた。後半は、喉潰したり、口を裂いたりしてたからな。さすがのクアナでも引いただろうな。
「凄いわ!」
んあ?
何故かクアナは嬉しそうに目をキラキラさせていた。
「あんなの初めて見た! あんなに残酷に殺せるなんて、最高よ、ジーク!」
めっちゃ嬉しそうだな。
「あたし、ジークの昔話が聞きたくなったわ! あたしにリアルな血を教えて!」
一応女の子だとか言ってたけど、これで目をキラキラさせる時点でネジ外れてるよな。
「移動中だけだぞ」
「お願い」
あれは俺が中一の頃だった。
ーー回想
「金髪で不良とかキャラ被ってんだよ!」
同じクラスになった不良に絡まれた。
当時の俺は、金髪でチャラい不良みたいな格好だった。
「知るか」
「ああん? てめえ、ぶっ飛ばす!」
不良が殴ってくるから、俺は受け止めて、顎、肋骨、鳩尾、腹、股間、脛に五発ずつ蹴りを入れて失神させといた。
「……おい! ウチの者に手え出しといて、逃がすか!」
教室に帰ろうと思ったら、三年の不良に絡まれた。ウザいから校舎の壁にめり込ませといて、瞬殺した。
「あん? 何か用か?」
当時から俺に付きまとっていたウザいメガネのリューシン。
「お前の彼女が弁当持ってきてくれたぞ」
当時、俺には彼女がいた。色々世話を焼いてくれて、優しいヤツだった。
「ったく。余計なマネしやがって」
「照れっちゃって、この色男」
肘で俺をつつくリューシンを、俺はムカついた。
「消えろ、クソメガネ」
とりあえず、殴って沈めておく。
「うごふっ!」
「おい! 金髪のヤツはいるか!」
二年の不良が三人押し掛けてきた。……随分と適当な情報だな。
「てめえか!」
俺の方に歩いてくるが、無視して食い続ける。……結構美味いんだよな、あいつの料理。
「無視すんな!」
弁当を置いている机を蹴られたので、弁当を素早く持つ。……ふぅ、無事か。
「何だ? 飯の邪魔すんなよ」
とりあえず先頭のヤツを蹴っ飛ばす。
「げほっ!」
「帰れ。二度と来んな。次に飯の邪魔したら殺すぞ」
睨むと、不良が気絶した一人を抱えて逃げていった。
「ったく」
「妬けるねえ。彼女の愛妻弁当を食べるのを邪魔されて不良蹴っ飛ばすとか」
「……お前が喋ると邪魔だな。あとーー」
ゴン。
「次愛妻弁当とか言ったら殴るぞ」
「……もう殴ってます」
「え~、一年三組の金髪の不良くん、大切な彼女は預かりました。返して欲しくば体育館に一人で来なさい。以上だ! てめえウチの者に手え出しといて、ただで済むと思うなよ!」
放送でそんな声が聞こえた。
「……おい」
「な、何だ?」
「あいつがこの校舎にいるか、五秒で見てこい」
飯を食い終わって、弁当を置いて低い声でリューシンに言う。
「大変だわ! 不良五十人に連れてかれたって!」
……へぇ、そうかよ。
「おい、やっぱ救急車呼べ」
「な、何でだよ? 警察の方がいいんじゃ?」
「いらねえよ、そんなもん。救急車、五十台だ。あいつら用のな」
俺はそう言って体育館に向かった。
▼△▼△▼△
「……」
「来やがったか」
……そんな悪役ヅラしてるくらいだったら動けよ?
「とりあえず、死ねよ」
俺は本気で駆けて、彼女を掴んでる不良の頭を掴んで床に叩きつける。
「がはっ!」
「次だ」
その周りにいたヤツらは回し蹴りで吹っ飛ばす。
「……?」
彼女は呆然としていた。
「五十人相手にするんだ。さっさとかかってこい、クソ共」
挑発して、一人一人が動かなくなるまでボコボコにした。
「……はっ。汚れてんじゃねえかよ」
自嘲気味に笑う。返り血で真っ赤だった。
「大丈夫……?」
これでも怯えずに話しかけた。
「俺の血じゃねえよ。あいつらの返り血だ」
「……」
「じゃあな。二度と俺に関わんなよ」
肩越しに手を振って、体育館を出ようとする。
「……それって、別れるってこと?」
「ああ。……最後だから言うか。飯、美味かったぞ。世話焼いてくれてありがとうな。……あと、こんな助け方で悪いな」
言って、体育館を出た。
ーー回想終了
「ーーってわけだ。そこから血まみれの真紅こと、ジークになった」
「……彼女を救おうとして単身不良五十人に挑んでカッコいいハズなのに、清々しい程の残酷っぷりね」
クアナだけには言われたくない。
「まあ、さっさとクエスト済ませようぜ」
クアナといると、どんどん昔に戻ってく気がする。
そんなこんなで夕方には全員で計百回のゴブリンの群れ討伐を済ませた。
「報告するか」
ーー三人称視点
「あの、リューシンさん」
ジークの報告を待つ間、クアナがリューシンに話しかけた。
「ん?」
「ジークの元カノってどういう人なんですか?」
「……聞いたんだ?」
「はい」
少し驚いたような顔をするリューシン。
「まあ、別れた後の二人のそれぞれの想いは、俺の事情に巻き込みたくない。俺に関わらずに幸せになって欲しい。本人さえ良ければ、また付き合いたい。けど、巻き込んだ責任を感じてるからコクれない。って感じだ」
「……どうやってジークが付き合ったの? あの鈍いジークと」
ティアナが興味を示した。
「もちろん、元カノの方からコクったんだ。ジークと元カノは幼馴染みで、付き合いが長いからな。隣にいてもおかしくない感じだったんだろうな」
他人の恋話程、盛り上がるものはない。九人が真剣に話している。
「今はどうなってるの?」
「同棲、いや、同居中だな」
「「「えっ?」」」
「同居中の二人の心情は、こんな感じだ。あいつは心配性だからな。どうせ、俺がちゃんと生活してるかどうか不安なだけだろ。夫婦みたいでいい。その内あっちが変な気を起こしてくれるかもしれないし」
「その変な気は起きたのか?」
「起きてたら元カノなんて言わないだろ。ジークだから、彼女じゃない幼馴染みを女として見てるわけがない」
「元カノはどんな人なんだ?」
「優しくて、清楚で、世話焼きで、面倒見がよくて、美少女で、料理が上手くて、勉強が出来て、俺が知る限りで一番の巨乳いや爆乳で、身長160ちょっとで、スタイルがよくて、密かにちょっと変態で、ジークが大好きだ」
「……最後から二番目ってどういうこと?」
シャリアがニヤニヤしてきく。
「例えば、ジークが入った後の風呂に入るとか」
「「「っ!?」」」
「ジークが入ってる風呂に入るとか」
「「「っ!?」」」
「ジークが寝てる間にジークのベットに入るとか」
「「「っ!?」」」
「裸エプロンでお帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し? って言うとか」
「「「っ!?」」」
「ジークのいない時はジークのベットに入るとか」
「「「っ!?」」」
「ジークの部屋に幼馴染み系のエロ本置くとか」
「「「っ!?」」」
「誕生日とクリスマスに自分にリボン巻いてプレゼントは私ですって言うとか」
「「「っ!?」」」
「週に一回、達人並みにマッサージが上手いジークに全身をくまなくマッサージさせるとか」
「「「……エロい」」」
「結局ジークはイタズラだと思っている、と」
「ジーク、最低」
そして、リューシンの後ろに人影が。しかしリューシンは気付かずに話を進める。
「まあ、ジークの元カノは可哀想だってことだな」
「誰の元カノが可哀想だってぇ?」
悪魔の声が聞こえた。
「へ?」
「ちょっとリューシンくん。言ってみなさい」
ジークが、悪魔の笑みで立っていた。
「い、いや、俺の古い友達の、だよな、皆」
「ジーク様。こいつは勝手にジーク様の元カノについて私達に話していました」
リューシンの助けを求めるアイコンタクトは無視され、素早く順応したシュリナが言った。
「ほう? で、お前らは止めなかったのか?」
ジークの怒りの矛先が自分達に向けられようとしてることにシュリナは気付く。
「いえ。止めましたが、ジークの恋話より面白いモノはないと言って無理やり……」
シュリナは咄嗟の機転でリューシンに罪を被せる。……責任転嫁だ。
「本当か?」
ジークが悪魔の笑みで言うので、他七人はうんうんと頷く。
「全てこのメガネの責任か」
「はい、ジーク様」
シュリナの家臣の演技っぷりは上手かった。
「……なぁんて、そんなことで怒るハズないだろ?」
「「「へ?」」」
ジークはいつもの笑みに戻って言う。……これこそがジークの罠だとも知らずに。そう、リューシンさえも忘れて。
「だ、だよな。ビックリさせんなよ」
リューシンが焦ったように言って、緊張を解く。
「それで、何話してたんだ?」
「ジークと元カノの今の状況だよ。なあ、皆」
ジークが怒らないと聞いて安心したのか、皆もうんうん頷く。
「へぇ、まあ、いこうぜ、他のヤツも来るし」
「ああ」
これで一件落着。……にはもちろんならない。
「ーーとでも言うと思ってんのか?」
「「「へ?」」」
ジークの低い声が聞こえて九人は固まる。
「とりあえず首謀者のリューシン。……めり込んどけ」
ジークはリューシンの頭を掴んで床に叩きつける。
「ごはっ!」
「さあ、聞いたぜ? お前らも共犯だってなぁ」
リューシンが犠牲になり、やっと自分達のピンチを知る。
「片っ端からめり込んどけ」
シュリナ、ディシア、レア、シャリア、ティアナ、クアナ、ガラド、ジンオウの順でめり込ませた。誰一人逃さず。
「女子は特別に五センチだ。男子は三十センチだけどなぁ」
ジークは笑いながらギルド集会所を後にした。
「修理代、90000Gになります」
ギルドの受付嬢が請求書を渡す。
「90000かよ。壊したのはジークだし、ジークに払わせるか」
「いえ。そうはいきません。前もってジーク様には私に床を壊す許可を貰っていますので。それと、一人90000Gになります」
受付嬢の無情な一言があり、九人は無理やり働かせられることになった。
「ったく。大事が話があったってのに」
ジークより。