~白い奇跡~
10月――
古都ヘルシングフォースは雪に覆われていた。
街の中央に位置するヘルシングフォース大聖堂といえば、バルト帝国随一の観光名所だが、 いつもとは違い、教会の中の雰囲気は張りつめていた。
「――なんとしても、譲歩はしていただけないのですか?」
そう言ったのは、隣国ペルーン連邦外相モトロフである。
「ええ。ご存知の通り、カレリアは我が国の産業の十数パーセントを支えている地域です。我が国はあなたがたの領土交換案を承知できません」
答えたのは、バルト帝国外相パーシキヴィだ。
カレリアとは、バルト帝国南東に位置する地域だ。工業が盛んで、帝国の産業の一翼を担っている。また、ペルーン連邦の主要都市に近く、戦略的に重要な場所であった。
モトロフは、小さく首を振って、
「しかし、我らとしても、この提案は譲れません」
何度も、もう幾度となく繰り返してきた答えを改めて告げた。
「ですから! 我々を信頼して頂きたいのです! 我々は、貴国が帝政の時代から、良き友人であった。もちろん、革命があった今でも。そして、これからもそうであるはずだ。
我々は決して、良き友人たる貴国を攻撃することはない!」
パーシキヴィは焦っていた。目の前のタヌキ親父の魂胆はわかっている。このまま自分たちの提案が通れば、ペルーン連邦は今までより強い態度をとるだろう。提案を拒否すれば、ペルーン連邦との戦争の口実を与えてしまうことになる。そうなれば、戦力て劣るバルト帝国の敗北は必死。つまり、どっちに転んでも、このタヌキ親父の栄誉になってしまうわけだ。
今、パーシキヴィにできるのは、とにかく結論を先延ばしすることだけだ。その間に首脳陣が、結論を下すことを願って。
「ええ、もちろんバルト帝国との友好は固いですとも。わかっておりますよ。……しかし、カレリアを譲っていただげるなら、更に固いものとなるでしょうね」
なんとしても、提案に譲歩はないという態度の現れだ。
チッ。
パーシキヴィは相手に聞こえないように、小さく舌打ちをした。
「我々ももちろん――」
会議は続く。されど進まず。
はじめまして。
μ*(ミュー)と申します。
この作品が初投稿なので、色々とつたないかと思いますが、容赦ください。