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第三十話「奈落の晶星。」

放たれた光線が、闇に侵食されるように細くなっていく。

俺はその間を切り裂くように駆け抜ける。


光はやがて釣り糸のように細くなり、ついには完全に消失した。

クリスタルバットはその口を閉じて…再び開く。


あいつはかなりのハイペースで黒穿響を連発している。

俺の一撃で減らしたHPはたったの22.5。

正直、このままじゃかなりまずい。もっとHPを削っておかないと…。


そんな焦りが脚に伝わったのか、俺は自分でも驚くような速度で走っていた。

その巨体が眼前に迫る。


「くら…え!!!」


そして、クリスタルバットが声を上げるよりも早く、俺の拳がその顔面をとらえた。


「ィィイイイイイイイイイ!!!」


鈍い衝撃が右手を伝う。


クリスタルバットは頭を振りながら後退した。

まだいける。そう判断した俺は、その体に張り付くように踏み込む。


右、左、右…。

大きく揺れる白い頭を躱しながらタイミングを見計らう。

そして…。


「…ここ!!!」


さらに一撃を叩き込んだ。


「ィィィィィイイイイイイイ!!」


クリスタルバットは僅かに怯んだが、次の瞬間にはドタドタと音を立てて走り出す。

そして、部屋の端へと一直線に突進し、大きく跳躍して壁に張り付いた。


「カパァ…。」


「おっと…。」


あの高さじゃさすがに攻撃は届かない。

俺は潔く諦めて近くの岩場へと走り出す。


「…プワァァアアアアアアアアア!!!」


しかし、たどり着くよりも前に、あの喇叭のような音が空間を満たした。


「うおっ!!」


光線が俺の進路を塞ぐ。

視界が白に染まり耳元で岩を焦がす音が聞こえる。


あと一歩でも進んでいたら…。

想像して、どっと汗が噴き出る。


「おっと…!」


ジュー、ジューと音を立てて迫りくる光を間一髪で躱し続ける。


「あつっ!」


何度か熱を感じる瞬間もあった。


「ほっ…ひぃっ!」


それでもなんとか耐えたようで、光が弱まる。


「…おぉ……なんとかなるもんだな。」


「ィィイイイイイイイ!!!」


「!!」


ホッと胸を撫でおろすのも束の間、クリスタルバットが大きな翼を広げて滑空するように突っ込んできた。


「……っ!!!」


俺は咄嗟に受け流しを発動する。

水晶の爪と俺の籠手がぶつかり合い、激しい衝撃音を奏でる。


なんとか攻撃はいなしたものの、クリスタルバットはそのまま飛び去り、反対側の壁に取り付いた。


嫌な予感というのはいつだってあたるもので、やはりあいつの口が音を立てて開く。


「…おいおい。」


思うように戦えず、苛立ちばかりが募っていく。


奇妙な生物の奇怪な鳴き声ではなく、こじゃれた音楽のひとつでも響いていたらクラブみたいでいいのにな。

岩の陰に縛り付けられて身動きが取れないと、そんなくだらないことまで考え始めてしまう。


そもそもクラブなんて行ったことないけど。


黒穿響が収まったと思ったらまた黒穿響。

ド派手に輝く景色とは対照的に俺の目からは光が消えていく。


「いい加減にしろ!!」


「プワァァアアアアアアアアア!!!」


叫んでみるが、あいつの声の方がでかい。

いかん、本当に腹が立ってきた。


腹が…。


…あれ、なんか…腹が……あつい?


「…っておい……おいおいおい!!」


俺が身を隠している岩が真っ赤に染まっている。

どうやら向こう側からレーザーを照射されて、徐々に削られているらしい。


俺が気付いてからほんの数秒で岩に風穴があいた。


…間一髪。

本気で腹にも穴が開いたかと思った。

しかし、体が反射的に外へと飛び出したようで、なんとか回避した。


「……カパァ。」


「まじかよ!!!」


床に転がる俺にもまったく容赦がない。

ノータイムで次の黒穿響の発動モーションに入る。


苦戦するモンスターの代表格としてよく名が上がるこいつだが、ゲームでもここまでひどくはなかった。

あまりにも無慈悲だ。


もうこの岩も使えない。

俺は咄嗟に立ち上がり全力で別の安全地帯へと走り出す。

足が何度かその場で滑ったが、気にする余裕もない。


スキルの発動とほぼ同時に岩陰へとスライディングをする。


「ほぉっ…きつっ…。」


ぎりっぎりで逃げ込めた。

よかった。


…いやよくない。


どうするんだこれ。

もう七発も撃たれたぞ。

猶予はあと三発…。


俺は岩陰で頭を抱えていた。

しかし、埒が明かないと思っているのは俺だけではなかったらしい。


地面からドタドタという振動が伝わってくる。

目をやると、クリスタルバットが壁を伝って俺の方へと回り込んでくるのが見えた。


その状態で黒穿響まで発動してくるのだからどこまでも性格が悪い。

しかし、俺は体を低くしてじっと待った。光線に臆することなく、ただあいつが来るその時を。


視界にその体が映るのと同時に飛び出す。

動いたのは俺だけではない。向こうも俺めがけて飛んできた。

翼を折り畳み、回転する弾丸のように突っ込んでくる。


俺はそんな体当たりに対して受け流しを発動する。


「んぐっ…!!!」


あまりにも重いが、全身の筋肉を使い、なんとかクリスタルバットの軌道を逸らす。


ズガァンッ!!!!


「ィイ゛ッ!!!」


短い悲鳴と凄まじい衝撃。

白い体が地面から生える岩に激突してひっくり返った。


「ははぁっ!!ざまぁみろ!!」


俺はたまった鬱憤をねじ込むように、クリスタルバットの胴体を二発殴る。

長い毛に拳が沈み込む。


もう一発入れたかったが、反撃が飛んできたのでやむなく後退する。


しかし、これでHPは半分近くまで削れた。

悪くない。


この流れのままいければ。

…なんてのは甘い考えだった。


クリスタルバットがその翼を広げて飛び立とうとしている。


「くっ…!」


当然止めようと試みるが、風に押し戻されてまったく近づけない。


「ィイイ!!」


そうこうしているうちに、本当にその巨体が浮いてしまった。

バタバタというプロペラ音のような羽音が何とも不気味だ。


「カパァ!」


その状態で黒穿響を撃つつもりらしい。

飛ばれたんじゃどうにもならない。


「あぶなっ!!」


俺は早々に諦めて岩陰に隠れようとするが、クリスタルバットがそれを阻むように体当たりをしてきた。

こいつ…どこまでも…。


握りしめた拳がギリギリとなる。


そうこうしていると、やつのスキルが発動する。


何十本と、触手のように動き回る光を躱しながら、時折飛来するクリスタルバットを受け流す。

当然、反撃する暇なんてない。


いや、この攻撃を避けられたのでさえ奇跡に近い。

光が収まっても降りてくる様子はないし…。


これで、九発。

残る猶予は…。


「カパァ…。」


「…お、おい!卑怯だぞ!!!」


我ながらなんとも小物感あふれる一言だと思う。

そんな心の底からの抗議も、あの宙を舞う蝙蝠へ届くことはない。


そして…咆哮。

この部屋の水晶が喝采を挙げるように共鳴する。


黒穿響の発動。


俺は自分にできる精一杯の抵抗として、頭上の巨体を睨みつけた。

しかし、迫り来る光の帯には逆らえず、そそくさと岩陰に入る。

まったく以て情けない。


クリスタルバットのステータスは…。



==========================


クリスタルバット

種別:翼獣(よくじゅう)類・晶蝙(しょうへん)属


Lv:25

HP:107/211

MP:1/81


状態異常:

なし


==========================



…MP1。

ついに、黒穿響の消費量を下回ってしまった。


ズシン…。


スキルの効果時間が終了…そして、地面が揺れる。

クリスタルバットが着地したらしい。

殴りを入れてやりたい気分だが、そうもいかない。


「プワァァアアアアアアアア!!!」


耳を劈く嘶きと体に叩きつけられる風圧でそれどころではない。


やつの声に呼応するように水晶が煌めく。

…いや、水晶だけでは無かった。


大きく広げた翼膜が波打つように光を放っている。

そして、逆立った全身の毛が、パキパキとガラスのような音を響かせて、結晶化をはじめた。


「……なっちまった。」


白い毛並みはもはやどこにもない。


全身を覆うのは、七色の光を孕んだ水晶の鎧。

翼膜すら透き通った結晶へと変わり、その巨体が放つ光が洞窟中の水晶を照らしている。


これこそが、奈落の晶星…クリスタルバットの第二形態だ。

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