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第二十四話「共鳴洞窟。」

謝罪なのか説明なのか。

その後もシルヴィアの話は続いたが、まるで頭に入ってこなかった。


何かを言われていた…という感覚だけがかろうじて記憶の端に残っている。


終始上の空のままシルヴィアと別れた俺たちは、そそくさと早歩きで部屋に戻ってきた。


当然悪いことをしているわけではない。

しかし、宿屋に入る時の俺たちはというと、さながら盗人のように音を立てず歩いた。

そして、部屋の扉を閉めたとき、ようやく思い出したように息をした。


それから10分か20分か…。もう時間の感覚すらない。

俺とチヤは何をするでもなく、こうしてベッドに座っていた。


大金が入ってきた。

そればかりが頭の中を回る。


こんなとき大手を振って喜べるだけの胆力があればと思うが、俺はどうもそんな器じゃないらしい。

机の上に積まれたゼルの袋を言葉もなく眺めることしかできない。


そのうえ、魔石や手に入れた戦利品の換金を忘れてきている。

まったくもってどうしようもない。


「1000万…。」


チヤが呟いた。


そう。持ち帰る時に一度インベントリへ収納したが、その際に表示された合計額は1000万ゼルだ。

チヤと半分に割ったとして、それでも500万ゼル。


ちょうど防具が買えて、調整までできるだろうというくらいの額だ。

というわけで早速買いに行こう……とはならないあたり、やはり俺という男はとことん小心者らしいと自覚する。


いや、『Re : Genesis Online』では一度の取引額が数千万に達することなどざらにあった。

これがゲームであれば、俺も迷いなく装備を新調しに行っただろう。


しかし、現実ともなると…。宿代、食事代、治療費に街へ入る際の手数料。

そんなことばかりが頭をちらつく。


できることと言えば、こうして部屋に閉じこもり、たまに立ち上がっては袋開けてまた座るくらいが関の山。


ただ、いつまでもこうしてはいられない。

俺にはまだレベリングや装備集めなど、やらなくちゃいけないことが無数に残っている。


…何か別のことをして気を紛らわせたいというのが本音だが。



==========================


ノイン・レーゲンシュライン

種別:人類・人属


メインクラス:拳闘士(Lv14)

サブクラス:聖職者(Lv14)


Lv:14

HP:75/75   MP:43/43

物理攻撃力:50  物理耐性:23

魔法攻撃力:18 魔法耐性:21

素早さ:38  持久力:25

精神力:39    幸運:17


状態異常:

なし


装備:

布の服 皮の靴 黒深卿の襤褸布


スキル:

一撃一殺(壱) 受け流し 攻撃力上昇

素手戦闘の基本 地下世界の耳

地下世界の目 肉体硬化 ヒール


==========================



昼の陽光が差し込む部屋の中、光の粒子がはじける。

それは集まって、小刻みに震える文章を記した。


これが今の俺のステータス。

最初に比べて随分とマシになったものだ。


初期装備と『黒深卿の襤褸布』が並んでいるのはやはり違和感を感じるが。



==========================


ノイン・レーゲンシュライン

Lv:14


(使用可能ポイント:14)


メインクラス:拳闘士

Lv:14


(クラス専用ポイント:7)


<初級拳闘術(0/10)>

<初級鉄鉤術(0/10)>

<持たざる者の矜持(3/15)>

<足技(0/5)>

<一撃の型(3/10)>

<連撃の型(0/10)>

<鉄壁の型(6/10)>

<攻撃力上昇(0/50)>

<素早さ上昇(0/50)>


サブクラス:聖職者

Lv:14


(クラス専用ポイント:10)


<初級長杖術(0/10)>

<初級短杖術(0/10)>

<初級槍術(0/10)>

<初級聖魔法(0/10)>

<初級回復魔法(3/10)>

<初級支援魔法(3/10)>

<道を歩むもの(0/15)>

<聖リーベの訓え(0/10)>

<聖ユスティーの訓え(0/10)>

<精神力上昇(0/50)>

<魔法耐性上昇(0/50)>


==========================



そして、こっちがスキル。

ポイントがたまってきている。


かなり順調。

そろそろ、次のステップを意識して動いてもいい頃合いだ。


そのためにはやはり装備なんだが…。


「チヤ。」


「はいっ。」


「出かけよう…。」


俺は意を決して外に出た。


「ここは…。」


到着したのは、『共鳴洞窟』。

いつぞやの、俺とチヤが初めて会うこととなったあのダンジョンだ。


悩んだときは無心でレベリングをする。

そうすれば大抵の問題は解決する。


8年間ゲームをやりこんだ俺が言うんだ。

間違いない。


「このダンジョンは全六階層。」


メモ帳を取り出して基本情報をおさらいする。

第一階層は『ケイブクラブ』の巣窟だ。レベル帯も8~12と抜けてしまったので、もう用はない。

第二階層にはおそらく『マインスパイダー』がいる。チヤからすれば因縁の相手だ。


「はい!前回の探索では二階層まで進みました!まあ、あんなことになっちゃったんですけど…。」


チヤが恥ずかし気に頭を掻いている。

腕を動かすたび、ガッシャガッシャと仕草に似合わない音が鳴った。


「他にモンスターはいた?」


「んー……いや、あの蜘蛛だけでした!」


「なるほど。」


レベル帯は11~15。出現するのは『マインスパイダー』だけ…と。


「じゃあ、今日は三階層を目指しましょう。」


そう言って、パンッと手帳を閉じる。

三階層については、レベル帯が16~18という情報しかないが、むしろ何が出てくるのかわからないといいう状況が俺のゲーマー魂をくすぐる。


「はい!!」


俺の提案にチヤも勢いよく頷いた。

俺たちは意気揚々とダンジョンに足を踏み入れる。


まあ、入るときは危ないから、すり足になるんだけど。


一階層目については大体マッピングを済ませている。

モンスターも基本スルーで通り過ぎ、30分もかからず第二階層へと到達した。


二階層もあまり景色は変わらない。

チヤの言う通り出てくるモンスターもマインスパイダーだけ。


こいつらはそれなりに動きも早いから、無視はできない。

厄介な技も持ってるし、確実に仕留めながら進む。


とはいえ、苦戦はしなかった。

あまりにもサクサク進むので、チヤが「こんな簡単に…。」なんて驚いていた。


俺からしたら、まだこのダンジョンが残っていることの方が不思議だ。


全六階層でボスのレベルは25。

ここまでの情報が出ていながら、いまだこのダンジョンは存在している。

これはつまり、誰もここのダンジョンマスターを倒していないということを意味する。


一階層にいるのは、速度が遅いタンク職でさえも簡単に撒けるようなケイブクラブ。

消耗もなく次の階層に行ける。つまり、実質一階層分負担も少ないと思うんだが…。


ボスがよほど厄介なモンスターなのか。

それとも単にこの程度のダンジョンのクリアには、誰も興味がないのか。


あまり放置していると地上に影響を及ぼす大災害に発展する、なんて設定もあった。

ここがいつからあるかは知らないが、大丈夫なのかと心配になる。


まあ俺からしたら手ごろなダンジョンが残っていてくれるのはありがたいけど。


というわけで…。


「二階層クリアだね。」


第三階層に続く一本の坂道が見えてきた。


「おぉー…。」


チヤがぱちぱちと手を鳴らしている。

ここまでは前情報もあったし、レベル帯的にも安心してこれたが…本番はここから。


壁に開いた通路は緩やかにカーブし、次の階層へとつながっている。

この先は完全な未知。


楽しみ半分、緊張半分だ。


「よし、気合を入れていこう。」


「はい!」


俺たちは魔物の口のように開かれたその闇へ、歩みを進める。


そして…第三階層。


「…今までより、広めですね。」


坂を下りきったところでチヤが言った。


「たしかに。」


第三階層は地面が平坦で、ごつごつとした岩ではなく、土のようになっている。

そのほかの部分は変わらず岩肌だが、少しだけ開けた空間になっていて、今まで感じていた圧迫感は和らいだ。


しかし…。


「モンスターの姿がないな。」


「ほんとですね…。」


そんな空間にも関わらず、生物の影が見えない。


「どうしましょうか…。」


そんなことを言いながら進もうとしたチヤを制止する。


「これはもしかしたら…。」


なんとなく嫌な予感がした。

インベントリを開く。


取り出したのは。


「師匠、それ魔石ですか?」


「ああ。」


チヤが「どうするんですか。」と聞こうとしていた。

しかし、その言葉を言い切るよりも前に、俺は黒色の水晶を地面へと放り投げた。


「ああ!何してるんですか!」


チヤの叫びが洞窟内の奥へと響いていく。


…。


来た。


…バシャンッ!!!!


次の瞬間、凄まじい勢いで地面が弾け飛んだ。

そしてサラサラと音を立てて砂の雨が降る。


「え…。」


「やっぱり、サンドトゥースか…。」



==========================


サンドトゥース

種別:罠糸(びんし)類・捉擂(そくらい)属


Lv:18

HP:72/72

MP:32/32


状態異常:

なし


==========================



アリジゴクのような虫型のモンスター、『サンドトゥース』。

名前にもなっているが、いやに歯並びのいい口がむき出しになっていて、かなりこちらの嫌悪感を掻き立ててくれるような見た目だ。


しかもでかい。

高さが2~2.5メートルくらいある。


「えええええええ!!」


チヤも驚いている。

それはそうと、ド派手な登場の反動で跳ね返ってきた魔石は拾う。ちゃっかりしているな。


カチカチッ。


サンドトゥースはその場で歯を打ち鳴らす。

そして獲物が口に入っていないことに納得できないのか首をかしげている。


音や振動に反応して反射的に飛び出してしまうようなモンスターだ。

知能は無いに等しい。


しかし、攻撃力がすこぶる高いうえに、地面へと引きずり込もうとする戦技を使ってくる。

ゲームだとその後ちゃんと地上に戻してくれるが、ここは現実。一度でも引きずり込まれたら…。


考えるとゾッとするが…まあ、大丈夫だ、たぶん。

こいつらの速度なら万が一もあり得ない。


カチカチ…カチカチ…。


ようやくこちらの存在に気づいたのか、歯を打ち鳴らしながらその顔を向けてきた。


「チヤ、足元に注意して側面にまわれ。」


「はい!」


こいつの弱点は顔ではなく、腹。

俺が敵の注意を集めている間に斧を叩き込んでもらう。


自分の体を回りこもうとする存在が気になるのか、顔がチヤを追いかける。


「お前の相手はこっちだ!」


バキッ…。


大きな体から垂れさがるようについている顔面を殴ると、その外骨格が割れた。随分ともろい。


「ギシャッ…!!」


サンドトゥースは怒った様子で、視線を俺に移した。


そして、ガリガリと硬いものが擦れるような音を出しながらその体を持ち上げる。

立ち上がると冗談みたいにでかい。しかし不思議と威圧感は感じない。


ゴブリンロードの方が何倍も怖かったからな。


「フッ…!」


…ガキン!!!


そして、首をひねり、体を倒す勢いを利用して一気に噛みついてくる。

俺はサイドステップでそれを回避しながら、戦技『受け流し』を放つ。


腕が青白い光を帯びてサンドトゥースの横っ面を捉える。


「ギィィイイイイ!!」


金属同士を擦り合わせるような嫌な声を上げながら、サンドトゥースは砂の上に転がった。


「チヤ!」


「任せてください!」


ブゥンという空気を震わす音とともに、その腹が弾けた。

緑色の体液が飛び散り、そして黒い煙に変わっていく。


<サンドトゥース(Lv18)を倒しました。>

<経験値(40)を取得しました。>


「よしっ。」


「あれっ、もう終わりですか…?」


チヤが拍子抜けしたように漏らす。

でかいから期待してしまうのはわかるが、こいつは物理耐性が低い。

攻撃さえ喰らわなければこんなものだ。


まあ、経験値は…二人だとやっぱり効率が悪いけど。


「私の斧、私の斧…あれぇ?…んー……あ!魔石あった!」


でも、仲間がいる中でレベリングというのも悪くない。


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