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第十五話「ゴブリン。」

「師匠…あれ。」


「ああ。」


街を出て2、3時間ほど歩いたあたりで、街道の中央に馬車が止まっているのが見えた。

俺とチアはどちらから合図をするでもなく身を屈め、近くの木へと身を隠す。


幸いこの辺りは木と草が生い茂っているので、隠れるものには事欠かない。


「…。」


音をたてないように注意をしながらゆっくりと進んでいく。


ある程度まで近づくと馬車を取り囲むようにして小さな影がうごめいているのが見えた。

薄緑の小人。間違いない、ゴブリンだ。


そろそろ坑道も近いはず。いて当然と言えば当然だが…。


「リアルで見ると結構迫力あるなぁ…。」


尖った鼻にむき出しの牙。大きな耳と小さいながらも筋肉質な体。

ゴブリンの見た目はゲームで見た時よりか数倍はパンチがある。


持っている武器が赤く染まっているのも、それに拍車をかけた。


御者台のあたりで人と馬が倒れてるのも確認できたが、おそらくもうこと切れているだろう。


ゴブリンは見える範囲で5体。

狡猾なモンスターなので普段なら伏兵も警戒するが…。


「グギャ!」


「ギ!」


どうやら今は戦利品の配分でもめているらしい。

頭がいい一方で非常に貪欲なモンスターだ。


バーゲンセールに群がるおばちゃんのように、我先にと戦利品の確保に動いている今なら、伏兵の心配はさほどいらないかもしれない。


まあ、警戒するに越したことはないが。


「…。」


「っ…。」


俺はチヤに斧を投げるジェスチャーをして見せる。

それを見たチヤは頷くと、左腰に刺した斧を抜いた。


斧は剣と違い柄が下向きになってしまう。右利きのチヤが最も抜きにくいのは左の腰にある斧。

何も考えていないと、抜きやすい右から手に取ってしまいそうだが、いい判断だ。


道中でスキルポイントの割り振りは確認した。

チヤは投擲の戦技を習得済みだ。


目は見開き、呼吸が浅くなる。


「…。」


狙いをつけるように左手が上がる。

斧を握った右手を大きく振りかぶると、ギリギリと筋肉の躍動する音が鳴った。

そして…。


「…ッ!」


斧が飛んだ。

風を切る音とともに葉が舞う。


いい軌道だ!!


…ストンッ!!


「フギャ!?」


ああ惜しい!!


斧はゴブリンの頭から拳一つ分の距離を飛翔し、馬車の柱に刺さった。

ゴブリン達は慌てて武器を構える。まだこちらの場所は特定できていないようだが、すぐにばれるだろう。


「…っ…っ……。」


「んっ…。」


俺はもう一度斧を投げるように促す。


戦利品が増えたとでも思ったのか、武器も構えず馬車に刺さった斧を抜こうとしているゴブリンがいる。

チヤはそいつに狙いを定めたらしい。


俺の方を見て、最終確認を行う。

俺はその目を見ながら頷く。


「…ッ!!」


もう一投。さっきよりも速い。


バシュッ…!!


「当たりました!」


「おお!」


斧は完全にゴブリンの頭部を捉えた。その後見えなくなる。

軌道からして、おそらくはまた馬車の柱に刺さったろうと思う。


頭の方はというと、肉片と血煙をその場に残し、ほとんど爆散にも近い形で消し飛んだ。


間違いない。今のはクリティカルだ。

初ヒットから出るとは景気がいい。


クリティカルが出ると、そのあまりのダメージに敵の部位が消し飛ぶことがある。

これこそ投擲…投げ斧の醍醐味だ。


「あはぁ…!」


チヤの目も輝いている。

やはり彼女には素質が…。


「ガギャァァァアアアアア!」


あ、場所ばれた。

そりゃそうか。


一人先頭を走っていたゴブリンが飛び掛かってくる。

なかなかの素早さだ。


だが…。


「今、俺の弟子が初ヒットを喜んでるところでしょうが…!!」


「フギャッ…!」


踏み込んだ俺の裏拳が、そのいやに出っ張った鼻先に直撃する。

さすがに一撃では倒せないか。


ただ相当痛いのか地面をごろごろと転がっているので、サクッととどめを刺す。


<ゴブリン(Lv11)を倒しました。>

<経験値(62)を取得しました。>


さあ、のんびりはしていられない。

残り三体。何やら後ろの一体は突撃をためらっているようだが、二体が交差するように走りながら距離を詰めてくる。


「チヤさん、どんどんいっちゃいなさい。」


「はい!師匠!」


二体は何度も何度も交差するように蛇行している。狙いをつけさせない気だな?小癪な。

俺はその動きを封じるべく片方に向けて突っ込む。


「はっ!」


規則的な動きで逆に軌道が読みやすかった。

ゴブリンは咄嗟に止まろうとするが、慣性がそれを許さない。


繰り出した拳がゴブリンの顔面に…。


「ンギュッ!!……フ、フギュ…グギュギュ……。」


あ、また鼻に当たった。

いや、別に狙ってるわけじゃ無いんだが、顔の大部分が鼻だから仕方ない。


「グギャ!」


「あー!」


フゴフゴと地面を転がるゴブリンの声のほかに、短い悲鳴とチヤの悔しそうな声が聞こえた。

音の方を確認すると地面から生えた斧と、その前で顔を青くしたゴブリンが見える。どうやら今のは外したらしい。


「おーりゃっ!」


バシュッ!


「よしっ!」


おっと。青ざめていたはずのゴブリンが真っ赤に。

次の一投が胴体に命中。死んではいないみたいだけど、確実に致命傷だ。すぐにでも経験値になるだろう。


「ほいっ。」


転がっていたゴブリンがふらふらと立ち上がったのでもう一発鼻に入れる。


「ンッ!!…グギッ…!フッ…フーッ!」


今度はわざと。次いで一撃を入れると体から黒い煙が上がった。


<ゴブリン(Lv10)を倒しました。>

<経験値(24)を取得しました。>


よしっ。あと一体だ。


「グ…グギャ!」


…あ、逃げた。


「チヤさん。」


「はい!」


チヤは胴に残っていた最後の一本を抜き取ると何度か軌道を確かめるように腕を動かした後、勢いをつけて一気に斧を振り抜いた。


ヒュンヒュンと命を刈り取る音が響く。


「ンギャッ……!」


足に当たった。またもやクリティカル。

これも即死ではないが確実に致命傷だ。


五回投げて三回ヒット。

戦技の補助もあるとはいえ、なかなか。


しかもそのうち二発がクリティカル。

俺なんてまだ一回も出したことないのに。


いくら恩恵のある旅芸人とはいえ、これは不公平というものだ。

まあ、そういうビルドなんだけど。


とは言えこのレベルからその頻度?という疑問もある。

単に今回の戦闘で運がよかっただけだろうか。


まあ、いいか。

のんびりもしてられない。


「お見事。とどめを刺したら投げ斧の回収を…俺はちょっと馬車を見てくる。」


「ありがとうございます!わかりました!」


一応確認してみるが、やっぱり人と馬は既に絶命していた。

商人か農家か。身分が分かるようなものも何もない。

この状況じゃまともな弔いもできないので、手だけ合わせておく。


あとは、まあ対応としてあっているのかはわからないが、ギルドにでも報告しておこう。


「さてと…。」


積み荷は野菜か。

…インベントリに入れてもいいが、血で汚れてるし、何より盗んだみたいで気が引ける。


金銀財宝なら間違いなくこの手が伸びていた。

ただ、まあ今回は…。


「…いいや。」


インベントリは何でも入る便利機能だが、容量に限りがある。

馬鹿みたいに野菜を詰め込んだらすぐパンパンになってしまうだろう。


そんな冒険はごめんだ。


がっかりなんかしてないぞ。


「チヤさん、そろそろ行こうか。」


「あ、はーい!」


馬車なんて目立つもののそばにいるとゴブリンが寄ってくるかもしれないので、早々に離れる。

さらに進むと、街道を通りかかる人を待ち伏せしているらしいゴブリンの群れを見つけた。


「チヤさん、どうぞ。」


「はい!」


斧が飛ぶ。


一体。


また一体。


俺の拳でもさらに一体。


そんな調子で、五、六匹程度の群れなら苦もなく処理ができる。


その後も同じような規模の群れがいくつかあったが、特段問題も起きなかった。

ただ、ある地点から明らかに密度が増えたのを感じた。

同時に地面の質感もじゃりじゃりとした大粒な石や岩が多くみられるようになってきた。


いよいよかと思ううち、それが俺たちの眼下に姿を見せた。

岩肌が露出している岸壁に張り付くようにして、丸太を組んだだけの粗野な柵が設けられている。

その中をうじゃうじゃと…。


「すごい数のゴブリンですね…。」


「ああ。どうやらここが…。」


「…ウハ坑道。」


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