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第六章:裁きの剣

代官ジンが支配する拠点は、村の北側に位置する不自然なほど豪奢な石造りの館だった。村人たちの血と汗を吸い上げて建てられたその場所は、周囲の痩せた土地とは切り離された、傲慢な富の象徴に見えた。


「行くぜ、カイト。あんな野郎、俺の大剣でぶっ飛ばしてやる」


リクが背中の大剣を抜き放ち、不敵に笑う。


「……カイト様、邪悪な気配が強まっています。どうか、お気をつけください」


ルナが僕の手を握り、聖なる加護を授けてくれる。指先から伝わる温もりが、僕の胸にある怒りを、冷徹なまでの決意へと変えた。

館の門を蹴破り、僕たちは突き進んだ。立ち塞がる代官の私兵たちは、レベルが上がった僕たちの敵ではなかった。僕の放つ聖剣の一閃が空を裂き、敵の武器を次々と粉砕していく。


「誰だ!私の聖域を汚す不届き者は!」


最上階の執務室。そこに、奴がいた。漆黒の鉄兜を深く被り、不気味な外套を纏った男。ジン。その姿を見た瞬間、僕は嫌悪感で胃が激しく収縮した。


「ジン、貴様の支配もここまでだ。村人から奪ったものをすべて返してもらおう」


僕は聖剣を突きつけた。


「ふん、非効率な群れが。この世界の道理は『成果』だ。役立たずの民を生かしてやっている慈悲も理解できぬのか」


鉄兜の奥から響く低い声。その冷淡な響きは、僕が現実で聞き飽きた、あの無機質な叱責そのものだった。


「黙れ。ここは僕の世界だ……あんたに好き勝手はさせない!」


僕は地面を蹴った。ジンの影から不気味な魔の手が伸び、僕を捕らえようとする。だが、今の僕にはルナの加護がある。


「光よ!」


ルナの杖が輝き、闇を照らし出す。怯んだ隙を逃さず、僕はジンの懐へと飛び込んだ。


「これで、終わりだ――!」


聖剣がジンの胸を貫いた。鉄兜の隙間から、激しく苦しげな吐息が漏れる。


「……カ……ハッ……」


ジンは最後まで鉄兜を外すことはなかった。身体が黒い霧となって霧散していく中、その兜の奥に潜んでいた瞳だけが、一瞬、激しい憎悪を湛えて僕を見たような気がした。


「やったな、カイト!」


リクが僕の肩を叩く。村からは歓喜の声が上がり、ルナが安堵の表情で僕を見つめている。勝利。救済。アステリアは再び平和を取り戻し、僕はその中心で英雄として称えられていた。


「カイト様、お疲れ様でした。さあ、今夜は祝杯を上げましょう」


ルナの優しい微笑みに包まれながら、僕は深い達成感の中で意識を手放した。

不意に、枕元でスマートフォンのアラームが鳴った。


「……ん……」


重い瞼を押し上げる。視界に飛び込んできたのは、碧い太陽ではなく、安アパートの湿気た天井だった。

窓の外からは、朝の通勤を急ぐ車の走行音が聞こえる。身体中には、昨日までの無理な外回りの疲労と、まだ抜けきらない倦怠感が蘇る。現実。冷たく、重く、どこまでも平凡な場所。


「……夢、か……。あんなに、あんなに幸せだったのに……」


僕は這い出るようにベッドを抜け出し、よれよれのワイシャツに袖を通した。いつものようにスマートフォンを確認したが、入っているのはいくつかの他愛ないメールだけ。


「……行かなきゃ」


鏡の中の死んだ魚のような目をした自分を無視して、僕は駅へと向かった。

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