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第三話:希望の象徴

「――はあぁっ!」


 一閃。本来なら、僕のような駆け出しには手も足も出ないはずの、頑強な魔獣。古の大樹をも容易くへし折る『山崩しのゴーレム』の、鋼よりも硬質な外殻が、まるで熱したナイフでバターを裂くように容易く断ち切られた。聖剣の放つ銀光は、世界の理さえ無視して巨大な敵を光の塵へと変えていく。


「すごい……本当に、僕がやったのか?」


 自分の掌を見つめる。現実ではパソコンのキーボードを叩くだけの頼りない指先が、ここでは神のごとき破壊力を振るっている。本来なら数年かけて積み上げるべき経験値が、格上のモンスターを討伐することで、暴力的なまでの奔流となって僕の中に流れ込んできた。視界の端に黄金の文字が、壊れた計数機のように狂った速さで躍った。


『LEVEL UP:24 → 42』


 四肢の先まで熱い奔流が駆け巡る。レベルが爆発的に跳ね上がるたび、身体から重力という概念が消えていくようだ。現実の僕を苛んでいる営業回りの筋肉痛も、リハビリで味わった絶望的な足の重さも、ここでは悪い冗談のように思えた。


「カイト様、お見事です!魔物の核から、こんなに綺麗な魔石が!」


 駆け寄ってきたルナが、草原に落ちた蒼く輝く石を拾い上げた。彼女の菫色の瞳が、尊敬の念を込めて僕を射抜く。推しのアイドルにこれほど間近で賞賛される。その高揚感は、どんな劇薬よりも僕の心を酔わせた。


 倒した魔物の背後、古びた大樹の根元に、隠されるように置かれた宝箱を見つけた。ゆっくりと蓋を開けると、中から光り輝くチェストプレートが現れる。


「これは……白銀の軽装甲。滅多に入手できないレアアイテムです!」


 ルナの感嘆の声を聞きながら、僕はそれを身に纏った。驚くほど軽く、それでいて鉄壁の守りを感じさせる不思議な感触。装備を新調するたびに、自分がこの世界の英雄へと近づいていく実感が、たまらなく心地よかった。


 街道を進むにつれ、僕たちを見る人々の視線に、期待が込められているのを感じた。どうやら、聖教が待ち望んだ勇者がついに現れたというニュースは、風よりも早く各地に広がり始めているらしい。

 補給のために立ち寄った自由都市『バレンシア』のギルドでも、その噂はすでに熱を帯びていた。扉を開けた瞬間、熱気と喧騒、および安酒と汗の匂いが鼻を突く。


「おい、見ろよ……あいつが例の噂の、勇者様じゃないか?」


「聖女様が傍に控えていらっしゃる。本当だったんだな、預言は……」


 居並ぶ荒くれ者の冒険者たちが、息を呑んで僕に道を開ける。現実では『佐藤海斗』という名前は、クレームの宛先でしかなかったが、アステリアにおいて『カイト』は希望の象徴だった。


「あんたが勇者か。……ふん、ひょろっとしているが、本当に魔王を倒せるのか?」


 ギルドの酒場で一人、巨大な肉塊を頬張っていた男が立ち上がった。背丈は僕より頭二つ分ほど高く、背中には身の丈ほどもある大剣を背負っている。彼の名はリク。この大陸でも指折りの傭兵として知られる男だとルナが教えてくれた。

 だが、彼の瞳は濁っていた。そこにあるのは賞賛ではなく、研ぎ澄まされた殺意に似た不信感だった。


「あんたに頼みがある。……俺と、一勝負してくれねえか?」

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