第8話 はぁ、ここは本当に大丈夫なのかなぁ…?
拘束室に戻り、電話をかける前に、深呼吸。4回深く息を吸って吐く。よしかけよう。
「あ、不明な発信者から電話ですよーセンパイー」
「運転中だから無視するわ」
コールはしてるけど出てくれない…知らない番号に出ないタイプなのかな?なら、高田さんにかけてみよう。ダメだったら…石島さんにかけてもらうよう伝えようか。
「あ、私にも同じ番号でかかってきましたよー」
「え、偶然ではないわよね?もしかして…?」
「はいもしもし高田です」
『フラれた石川です』
「わー!ごめーん!あれはフッてないからねー!?センパイはともかく私はバッチコイだからねー!?」
「ちょっと唯ちゃん!?」
『でも拒絶しましたよね?』
「ゆ、唯ちゃんスピーカーにして!!石川君!誤解なの!」
『5階も6階も素通りされましたのでー。現在8階でございます』
「いしかわくーん、からかってないかなー?」
『もちろん冗談ですよ』
「もう!石川君ってば人が悪いー!」
『あはは、すいません。でも悲しかったのは事実ですし』
「ホントにごめんねー?ちゃんと埋め合わせする為に買い物しに行ってるところだからー」
『買い物ですか?』
「そうそう、拘束室って何もないでしょ?石川君に不自由なく生活してもらうためにいろいろ買おうと思って」
『あー、それについてなんですけど、電話ですいませんけど相談してもいいですか?』
「電話で相談?唯ちゃんお話よろしく、買い物やめてすぐにそちらへ向かうわ。私はあんまり返事できないと思うけど唯ちゃんが聞いてくれるわよ」
『えっとですね、僕は拘束室から出たいんです。ここはネット回線繋ぐのが大変だというので』
「んー、それなら私の家かセンパイの家に仮住まいするー?どっちも独身寮だけど、石川くんなら総監の許可取れると思うし、いや取る!」
『女性の独身寮ですか…そ、それは…』
「あれー?恐怖心持っちゃうー?」
『恐怖心じゃなくて好奇心ですね』
「あはは、いしかわくんならそうだよねー、それならさー、家族寮申請して3人で住むのはどうかなー?」
『それはいいですね、それこそその日は寝かせませんよ?』
「よーしこちらこそバッチコーイ!急いで手続き済ませるから石島さんにこの事話しておいてねー!」
『わかりました、じゃあ石島さんに電話しますね』
「りょうかーい、またあとでねー」
さて、今度は拒絶されなさそうだ。今の話を石島さんに伝えないと。
『あら、今度は私なの?』
「今度って何です?」
『なんでもないわよ。それで?カズちゃんはなんて?』
「運転中なので高田さんと話をしたんですが、今は独身寮なので家族寮に移らないか?という提案をするそうです」
『ふむ、いい案だけどどうしても日数かかっちゃうわね。石川君としては早くそこを出たいという希望なのよね?』
「ネット回線が繋げにくそうですからそうなりますね」
『それならこちらで今日すぐ住めるところをピックアップするわ。10分くらい待ってもらえるかしら?』
「え?あ、はい」
『すぐに資料纏めて持たせるからちょっとだけ待っててね、それとお昼のリクエストがあれば聞くわよ』
「天ぷら盛り合わせ定食を13人前お願いできますか」
『大食いとは聞いていたけど食べるわねえ、任せてちょうだい、先に資料を10分以内に持たせるわね、天ぷらは時間かかっちゃ』
プツっと切れてしまった。不自然な切れ方だなあ。まあいいや、10分か、プランクすれば時間経つかな。してる最中に扉がゆっくり開かれた。
「し、失礼します、資料をお持ちしました。拘束室の扉ってこんなに重いんだ…」
そんなに重かったかな?まあ個人差あるしそんなものなのかな?
「一応ノックはしたのですが…あの扉だと聞こえませんよね…?」
「…扉の左に呼び鈴があると聞いてますけど、えっと?」
おかしい、なんだろうこの違和感。知っているけどあまり知らないなんてことがあり得るのだろうか?
「チッ、まあいいでしょう。人払いは済ませてますし、イシカワカオルさん、ちょっと協力してもらいますよ…」
あー、炙り出し作戦か、携帯でささっと操作して石島さんに通話を繋いでおく。この場はこの女性が僕に何をするか、を覚えておけばいいんだよね。場合によっては手を出すことにもなると思うけど…女性の右手にナイフが握られている。痛めつけて乱暴か、それは感心しない。
「それはどういうつもりですか?それはどういうつもりですか?」
殺気を込めて問いかける。殺気に反応して女性が切りかかってくる、ナイフを扱いなれてる感じだ。なら僕の殺害が目的なのかな?まあこの程度なら問題ないんだけどね。まずは戦意を削ぐためにわざと攻撃を「避けない」。これで傷害罪、あーあ、衣服が切れちゃってるよ。僕の目を見てから刺突の構えになったのでそれも「敢えて受ける」。よしこれで殺人未遂罪確定だね、左胸にナイフが刺さっているけど、残念、慣れてるんだ。驚愕の表情を浮かべて固まっている女性の右手首関節を掴んで『無理矢理』外し、痛みを持たせてから右肩の関節を『酷く強引に引っ張って』外す。相当痛いと思うよ?でも女性はもっと激しい痛みに耐えられるのでまだまだ僕は油断しない。逃走防止のため床へ乱暴に倒し右足の付け根を『思いっきり引っ張って』外す。
絶叫が部屋に響いてるけど、この声も下手すると届かないかもしれない位分厚い扉だったので、聞いてるのは石島さんの携帯越しだけだと思う。普通の男性相手なら逃走もできたんだろうけどね、まあ相手が悪かったという事で。
すぐに石島さんが駆けつけてきたので現状報告。でもまあ僕を見れば一目瞭然だよね。ナイフが左胸に刺さってるし所々衣服が切りつけられてるから。放っておいても逃げられないように左足筋肉を引っ張って裂いているので相当な激痛が残るんじゃないかな?まあ殺すのなら殺される覚悟は持たないとね。殺されないだけ感謝してほしいものだ。その後の事は僕のあずかり知らない事なので。
「感謝するわ」
「これもですか?」
「目をつけてたのよ、戸籍がちょっと怪しくてね。多分目星つけ始めた所の暗殺者よ」
「実在するんですね…」
「石川君の世界はこういうの居ないのかしら?」
「海外ではたまに聞きますけど日本では聞かないです」
「まあ、石川君にとってここは異世界だからね」
バタバタと警察官がやってきた。いや、警察官の制服とちょっと、いや結構違う?
「えっと、この方々は?」
「私の裏の肩書の方の部下よ」
名刺の裏に執行部部長って書いてあった、あれか。
「警察が来る前に速やかに。あとの事は任せるわ」
物言わず静かに頭を下げてスッと消えていった。映画みたいでカッコイイな…
「それで、石川君無茶しすぎじゃないかしら?なにも真正面から受けなくてもいいでしょう?ナイフ痛くない?大丈夫?」
「僕はこういう荒事慣れてますので。よっと」
左胸に刺さっていたナイフを抜いた。うん、特に傷はついてない、いや、服に穴が空いてる。ダメージシャツ…じゃダメか、鹿島さんと高田さんなら絶対疑う。
「とりあえず着るものありませんか?2人が来る前に隠さないと」
「そうね、確認するけど、傷はついてないのよね?」
「ご覧のとおりかすり傷一つありません」
「ならいいわ、シャワーで汗を流してらっしゃい。服はこちらで用意しておくわ。警察庁に隠しておく事、男性保管省として深く感謝します」
といって最敬礼の構えを見せてくれた。こちらもお辞儀で返す。急いでシャワールームに入り汗を流して、改めて傷がないかを確認する。よし、問題なし。たんぱく質が欲しいな、言えば持ってきてくれるかな?とりあえず粉プロテインでいい。
身体の水分を拭いて、置いてあったガウンを着て出ると、鹿島さんと高田さんが座って僕を待ってくれていた。
「すいません、お待たせしました」
「女を待たせるだなんて、期待しちゃうよー?」
なんて言いながら、資料らしきものを見つつカップに入った飲み物を飲んでいる。なんだろう、僕も飲みたいな。でもひと働きしたのでお酒がいいかな?
「その資料、置いてあったやつですか?」
「そうそう、ミヨさんが置いといてくれたの。すぐに入居できる部屋とか家とかの間取り図と近隣詳細」
「いしかわくん、仕事がスマートでカッコイイよー」
なんだろう、高田さんがぼくをひらがなで読んでるような柔らかさを感じる。心地いいなあ。
「でも、女性独身寮という響きが…僕をくるわせる」
「あはは、狂っちゃダメだよー、むしろげんなりしちゃうかも?先輩の部屋なんて特にねー」
「な、なんで!?汚部屋でもなんでもない普通の部屋だよ!?こ、この部屋みたいになんにもないし!」
「へぇー、じゃあセンパイのお部屋に先行していしかわくんに入ってもらうってのどうですー?」
「そ、それはダメッ!」
「ほーら、いしかわくん、悪い事は言わないから片付ける時間だけでもお姉ちゃんたちにちょうだい?」
「お姉ちゃん、ふむ…」
「え?」
「え、考えるポイントあったー?」
お姉ちゃん、ふむ…こんなに可愛いお姉ちゃんが僕のお姉ちゃん、な訳ないか。僕の顔は平均より少し下くらいのモブ顔だもんなってあいつに言われてるし、まあブサイクじゃないだけマシだと思うけど…可愛いお姉ちゃん…あ、まずい、元気になってきた。落ち着け、まだ昼だ。あの宣言はこの部屋では通用しないんだ…鎮まりたまえ荒ぶる息子よ…!
「…もしかして、あらあらあらー?」
「え?なに?どうしたの??石川君顔真っ赤だよ!?」
「マジっすかセンパイ…」
「え?え??」
小声で多分僕の息子の事を言ってるんだと思う、鹿島さんの顔が茹っちゃってるよ…
「えーとね、改めて、言ってほしいなー」
「でも、今はお昼ですし…」
「さっきも言ったでしょー?わたしはバッチコーイだってー!」
…覚悟決めるか、その前に昼食が欲しい、粉プロテインとビールもだ…勢いつけたい…僕はこんなに憶病だったとは思わなかった…




